第25話 光の遺跡 ― 精霊の心臓 ―
――霧を抜けた先には、光があった。眩い緑の光が、天井のない空間を照らしている。森の地下に広がる巨大な空洞――それが“光の遺跡”だった。中央には、脈動する球体。透明な結晶のように美しいが、その奥で黒い影がうごめいている。
「……これが、精霊の心臓」
エリスが祈るように手を合わせる。
「でも……感じます。中の光が、苦しんでる……!」
ケインは刀の柄に手を添えた。
「苦しんでるってことは、誰かが傷つけてるってことだ」
「つまり……暴走じゃなく、外部からの干渉か」
ハントが言った。
「そんな……誰が精霊に干渉を……」
アリーシャが顔を上げる。その瞬間――心臓の中心から、黒い稲妻が走った。
「来る!」
ケインの叫びと同時に、空気が爆ぜる。緑の光が黒に染まり、無数の光の粒が弾けて形を変えた。それは、翼を持つ巨人のような姿――“精霊の守護核”が暴走した姿だった。
「防御陣、展開!」
ハントが盾を前に突き出し、”ウォール”と”マバリア”を同時に発動。光の障壁が仲間を包み込む。すぐさま、アリーシャが魔法陣を描く。
「”ウォーター・カッター”連弾、いくわよ!」
水の刃が乱れ飛び、暴走核の翼を切り裂く。だが、再生は早い。切れた翼が瞬く間に再構築される。
(これが、精霊の力……!)
ケインの心がざわめく。
(――“斬れるのか? この刀で、本当に……”)
「ケイン、下がって!」
アイカが前に出る。双剣を交差させ、回転しながら炎の輪を生み出す。
「”ファイア・ウォール”――炎陣展開!」
炎の壁が暴走核を包み、動きを鈍らせた。
「今だ、ケイン!」
「……ああ!」
ケインが刀を抜き放ち、雷光が走る。
「雷よ、貫け――”サンダー・ランス”!」
稲妻の槍が暴走核の胸を貫く。轟音。黒い影が一瞬霧散するが、再び光が濁り、咆哮が響いた。
「まだ終わらないのか……!」ミーシャが唸る。
「やっぱり、ただの魔物じゃないわね!」
戦いの最中、ケインの頭に“声”が響いた。
――『なぜ斬る? お前もまた、奪う者ではないのか?』
(……違う、俺は……)
――『剣は破壊の象徴。お前が振るうたび、世界の調和は乱れる』
(やめろ……俺はそんなために――!)
ケインが一瞬、動きを止めた。その隙をついて暴走核の光弾が飛ぶ。
「ケインっ!」
アイカが飛び込み、双剣で弾き返す。炎と光が交錯し、衝撃で床が砕けた。
「何してるのよ! ぼーっとしてたら死ぬわよ!」
「……すまない、ちょっとだけ……声が聞こえたんだ」
「声?」
「……精霊の声だ。俺に、斬るなって言ってる」
アイカは短く息をついた。
「だったら、どうするの? 放っておいたら、この森ごと消えるのよ!」
「……わかってる。でも……」
そのとき、背後からエリスの声が響く。
「ケインさん……“斬る”ことが救いになることもあります!」
「……!」
エリスの瞳はまっすぐだった。
「あなたの剣が優しさを宿しているなら、きっと精霊も受け入れてくれます!」
ケインは息を吐き、刀を握り直す。
(……迷っている場合じゃない。守るために、俺は斬る)
「全員、連携する!」
ケインの号令に、仲間たちは頷いた。
「ハント、前衛固定!」
「了解!」
彼の盾が地に打ち込まれ、”ウォール”と”バリア”が重なる。
「アリーシャ、左翼を制圧!」
「任せて!」
”ウォーター・ジェット”の高速流が暴走核の翼を貫き、片方の動きを止める。
「ミーシャ、援護の炎を!」
「了解っ、”ファイア・アロー”連射!」
矢のような炎が空を走り、核の外殻を焼く。
「エリス、回復を!」
「”ライト・レイン”!」
光の雨が降り注ぎ、仲間たちの傷を癒す。そして――ケインとアイカが前に出る。
「雷と炎――合わせるぞ!」
「了解!」
二人の魔力が共鳴する。雷が刀を走り、炎が双剣を包む。空気が震え、遺跡全体が鳴動する。
「――居合一文字、”紫電閃”!」
「――”ソードダンス”!」
雷と炎が交錯する瞬間、暴走核の中心が閃光に包まれた。
光が弾け、黒い影が悲鳴を上げる。
『……ありがとう……』
声が聞こえた。それは確かに、精霊の声だった。光が収束し、巨大な影は静かに消えていった。残されたのは、透き通るような結晶の欠片――まるで心臓が再び鼓動を始めたように、淡く光を放っている。
沈黙。荒れた遺跡の中、誰もが息をついていた。
「……終わった、のか?」
ハントが呟く。
「ええ、暴走は収まったみたい」
アリーシャが頷く。エリスが結晶に手を添える。
「この光……もう、苦しんでいません」
ケインは刀を鞘に納め、静かに目を閉じた。
(……あの声。ありがとう、か)
(“斬る”ことが救いになる――エリスの言葉、あれは本当だったんだな)
アイカが隣に立つ。
「また迷ってたでしょ、ケイン」
「バレてたか」
「当然。ずっと見てるんだから」
彼女の笑顔に、ケインは小さく笑い返す。
「助かったよ。お前がいなかったら、きっと俺は……」
「そんなこと言うなら、次の戦いで倍は働いてもらうから」
ミーシャが大きく伸びをした。
「いや〜、大精霊戦なんて初めてだった! でも楽しかった!」
「楽しむなよ……」
ハントが呆れ顔で頭をかく。エリスが祈りを終え、静かに呟く。
「森が、息を吹き返しました……もう大丈夫」
遺跡の天井に、緑の光が再び満ちていく。風が流れ、精霊の囁きが聞こえた。
『人の子よ、ありがとう。森は再び目覚めた。だが――この光の奥には、まだ闇がある』
ケインの胸に、冷たい予感が走る。
(……まだ、終わっていない)
遠く、森の奥で――再び封印の魔法陣が、微かに光を帯びた。
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