第17話 砂上に刻まれる誇り ― 本選一回戦・後半戦 ―

砂漠の太陽が、闘技場の白砂を照りつけていた。観客席では熱気と歓声が渦巻き、空気が震えている。王都サンドリア、年に一度の大闘技祭――その本選、一回戦後半。剣と魔法、そして誇りが交錯する四つの戦いが、今まさに幕を開けようとしていた。


◆第一試合:カーン vs パトリック ― 重戦士と帝国剣士の咆哮

巨躯の男が砂を踏み締めて立つ。王国騎士カーン――その背中には数多の戦場で得た傷が刻まれていた。対するは、帝国剣士パトリック。若き帝国の闘士は、自信に満ちた笑みを浮かべる。

「齢四十を超えた戦士に、俺が負けると思うか?」

パトリックが剣を抜き放ち、地を蹴る。砂煙が上がり、閃光のような突きを繰り出した。カーンはそれを盾で受け止め、重い音が響く。

「若さは力だ。だが、力だけでは勝てぬ!」

大斧が唸りを上げ、パトリックの剣を弾いた。その衝撃で地面が抉れる。

「くっ……なんて力だ!」

パトリックはすぐさま土魔法を詠唱。

「”アース・ソーン”!」

地面から岩の槍が無数に突き上がる。だが、カーンは怯まず突き進む。岩槍を腕で払い、斧を頭上に構え――

「これが、戦士の誇りだァッ!」

大地を揺るがす咆哮と共に、斧が振り下ろされた。パトリックの剣が折れ、衝撃波が砂塵を巻き上げる。

『勝者――カーン・ドレイク!』

観客席から割れんばかりの歓声が上がった。カーンは息を吐き、パトリックに手を差し伸べた。

「立て。剣士としての誇りは、まだ折れていない」

パトリックはその手を掴み、苦笑した。

「……あんたみたいな戦士に、俺もなりたいもんだ」


◆第二試合:アッシュ vs リン ― 炎と水、激情と静謐の共演

観客が息を呑む。炎を纏う格闘家アッシュが、裸足で砂を踏みしめた。対するは、水魔法を操る棒術士リン。彼女は穏やかな微笑を浮かべ、静かに棒を構える。

「燃え尽きる覚悟はあるか?」

「水は炎に飲まれぬわ。どんなに熱くてもね」

 開始の合図と同時に、アッシュが飛び出す。

「”フレア・ナックル”!」

 炎の拳が空を裂くが、リンは軽やかに回避。

「”ウォーター・ショット”!」

圧縮された水弾がアッシュの肩を撃つ。だが、男は笑った。

「冷たいな……でも熱くしてやる!」

アッシュが両拳を掲げる。炎が渦を巻き、体を包み込む。

「”フレア・スピン”!!」

炎の竜巻がリンを飲み込んだ。観客が悲鳴を上げる。しかし、次の瞬間――炎の中から巨大な水流が立ち上がった。

「”ウォーター・フォール”!」

リンの声が響く。炎と水が衝突し、蒸気が闘技場を覆った。視界が晴れた時、二人は互いの攻撃を相殺していた。リンの棒が折れ、アッシュの拳も焦げている。最後の一撃。リンが踏み込み、棒の残骸で突きを放つ。アッシュが逆に炎を放ち――轟音。互いに吹き飛び、静寂。

『両者同時戦闘不能――引き分け!』

観客がどよめく中、アッシュは笑いながらリンに言った。

「水も……悪くねぇな」

リンも微笑み、頷いた。

「炎も……案外、綺麗よ」


◆第三試合:アルバート vs ニコラス ― 雷と光の剣舞

空気が重くなる。A級冒険者アルバートが、黒い戦斧を肩に担ぎ、静かに立つ。対するは、イェスタン法国の聖剣士ニコラス。

「雷の戦斧か……噂は聞いている」

「光の剣か。ぶつけてみるか、どちらが速いか」

二人は同時に魔力を解放した。空気が震える。雷と光が交錯する。

「”ライト・アロー”!」

光の矢が走るが、アルバートはそれを雷撃で打ち砕く。

「”サンダー・ボルト”!」

紫電が走り、観客席が眩しく光った。ニコラスは後退しながら剣を掲げる。

「”ライト・ウォール”!」

光の壁が展開し、雷を受け止める。しかしアルバートは止まらない。雷を纏いながら戦斧を構える。

「これが俺の戦い方だ――”サンダー・ランス”!!」

 巨大な雷槍が形成され、一直線にニコラスへ飛ぶ。だが、ニコラスも即座に詠唱。

「”ライト・レイン”!」

 無数の光弾が降り注ぎ、雷槍とぶつかる。轟音と閃光。砂塵の中、二人が同時に踏み込み――

「”サンダー・スラッシュ”!」

「”ライト・スラッシュ”!」

交錯する閃光。観客は息を飲む。次の瞬間、アルバートの戦斧が地に落ちた。

『勝者――ニコラス・グレイヴ!』

ニコラスは息を切らしながらも敬礼した。

「貴方の雷、確かに心に刻んだ」

アルバートは笑って頷いた。

「光も悪くねぇ。負けた気はしねぇよ」


◆第四試合:アイカ vs ハイム ― 風と森、剣舞の花が舞う

最後の戦いが始まる。観客の期待が高まる中、舞姫アイカがフィールドに立った。対するは、森の国スフィン公国の老エルフ剣士ハイム。静かに、二人の視線が交わる。

「風を読む者同士、面白い戦いになりそうだ」

「ええ。でも私は、“風”じゃなく“舞”で戦うわ」

合図と同時に、アイカが剣を抜き放った。その動きは美しく、まるで踊るようだった。

「――”ソードダンス・初式”」

風が舞い、花弁のような斬撃がハイムを襲う。ハイムはそれを見切り、軽やかにかわす。

「”エア・スラッシュ”」

風刃が交錯し、砂が舞い上がる。アイカが微笑む。

「流石ね……でも、まだ終わらないわ」

彼女の足元に風の陣が展開する。

「”ソードダンス・二式――流風花輪”!」

剣撃と風が融合し、華麗な連撃が放たれる。ハイムはその速さに目を細めながらも反撃。

「”ウォーター・スラッシュ”!」

水刃が風の花を裂くが、アイカはさらに一歩踏み込んだ。

「これが、私の舞の極意――”ソードダンス・終式”!」

風と剣が一体となり、光の花が咲き乱れる。ハイムの剣が弾かれ、結界が閃光を放った。

『勝者――アイカ・ラーミア!』

観客が総立ちになり、拍手が鳴り響く。アイカは静かに剣を納め、ハイムに一礼した。

「あなたの風、優しかったわ」

ハイムは笑い、頷く。

「その舞は……若き風そのものだった」


こうして、全ての一回戦が終わりを迎えた。砂の上に立つ者たちは、それぞれの誇りを胸に刻む。勝者は――カーン、ニコラス、アイカ、そして引き分けのアッシュとリン。闘技場の空に、夕陽が沈む。その光の中、アイカは一人呟いた。

「次は……ケインたちと同じ舞台ね」

風が吹き、彼女の髪が踊る。明日――雷と氷、風と炎が激突する準決勝が始まる。

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