翌ノ灯《あくるひのひかり》
@4RING_MASHROOM
序章
風が止んでいた。
木々の葉は揺れず、鳥の声も聞こえない。
世界が呼吸をやめたような静けさの中で、少女――
足元の土は乾いているのに、靴の裏には湿った感触が残る。夜の名残がまだ地に沁みているのだろう。
「……
名を呼んでも、返る声はない。
彼女の背にあるはずの風は、もう吹かない。
それでも、足を止めることはなかった。
道の先、霞む山の向こうに見えるのは――灯。
いくつも、いくつも、小さな灯が群れている。
それが街なのだと気づいたのは、風がほんの一瞬、頬を撫でたときだった。
人の営みが絶えず響き合う、不思議な街。
どこからともなく人が迷い込み、またどこかへ消えていく。
いつしか人々はそのゆらぎを畏れと愛情を込めて、
理由も目的も、もう曖昧になっている。
ただ、風の声を探したかった。
彼女の首から左手にかけて、青黒い龍の刺青が巻きついてる。
光の角度でわずかに揺れ、まるで彼女の脈動に合わせて呼吸しているかのようだ。
坂を下るにつれ、灯が増える。
音が生まれ、声が混じり、匂いが風に流れる。
世界が再び呼吸を始めた。
少女はその中へ、ひとつの息として溶けていく。
明日を迎えるために、今日を歩く。
その意味をまだ知らないまま――。
これは
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます