荷物持ち歴二十年、気づけばフルプレートアーマーが羽衣みたいに軽い(ビキニアーマーじゃないよ)
茶電子素
第1話 無能
無能。いやあ、便利な言葉だよな。
冴えないやつに貼りつけるにはこれ以上ない。
俺は十五で冒険者になって以来、二十年以上その称号を背負ってきた。
最初は「いやいや、俺だってやればできる」と思ってたんだが、
冒険者を初めて何年か経ったあたりで気づいたんだ。
――あ、俺、本当に才能無いわって。
剣を振れば凡庸、魔法を学べば三日で匙を投げられる。
仲間からは「お前は荷物を持ってるのが一番似合ってる」と笑われた。
まあ、確かに俺は荷物を持つのが得意だ。
人よりちょっと力があるし、文句も言わずに黙々とやれる性格だ。
「お前、スキルはまだか?」
そう聞かれるたび、俺は笑ってごまかした。
「いやあ、俺は遅咲きだからな」
だが心の中では分かっていた。俺には何もない。
二十歳になったある日、決定的な出来事があった。
オーク討伐の依頼で、仲間の一人が《剛力》というスキルを発現したばかりで、
意気揚々と棍棒を振るっていた。
俺はその横で必死に剣を振ったが、オークの一撃を受けて吹き飛ばされた。
地面に転がり、息ができず、視界がぐらぐら揺れる。
仲間が叫んだ。
「おい、ゴン!邪魔だ、下がってろ!」
その瞬間、俺は悟った。 ――ああ、俺はもう前線には立てないんだと。
だから二十歳からはずっと荷物持ち専門。
パーティーを渡り歩き、背中に詰め込んだ荷物の重さで腰を痛め、
肩を壊し、それでも働き続けた。
ただな、俺がクビになる理由がいつも同じでさ。
「収納魔法持ちが仲間になった」
「マジックバッグを手に入れた」
便利な道具や才能の前では、俺の肉体なんぞ取るに足らない。
それでも、二十年も荷を背負い続ければ体は勝手に鍛えられる。
気づけば俺の腕は丸太のように太く、背は岩のように分厚くなっていた。
だが、そんな肉体をもってしても、
駆け出しの冒険者が使う覚えたてのスキル一つにすら敵わない。
筋肉は裏切らない?
いや、スキル社会では筋肉にこそ裏切られるのだ。
「おっさん、筋肉だけはすげえな」
若い冒険者にこう言われたことがある。
俺は笑って答えた。
「だろ?筋肉だけは裏切らないからな」
……心の中で「いや、裏切られてるけどな」と突っ込みながら。
「俺、昨日スキルが発現したんだ!」
「マジかよ、どんなスキルだ?」
「《火矢》!これで俺も一人前だ!」
ギルドの酒場で、若い冒険者たちが盛り上がっていた。
羨ましいかって?
いや、そりゃ正直かなり羨ましい。
でも俺は酒をちびちびやりながら、彼らのはしゃぎ声をBGMにしていた。
「スキルなんてなくても、酒はうまい」
そう言って笑えば、
隣の酔っ払いも「そうそう!」と肩を叩いて笑ってくれる。
俺は無能だ。
だが、無能なりに胸を張って生きてきた。
荷物を背負い、笑って、酒を飲む。 それで十分だと思っていた。
……このときまでは、本当にそう信じていたんだ。
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