ハシビロコウと春の訪れ #2

冬が終わり、春の訪れを感じる頃。ハチは相変わらず動かない。でも、不思議なことに、彼がいるだけで部屋が少し明るくなったように感じる。




ある日、桜の名所である上田城に行ってみた。観光客が写真を撮る中で、ハチはまるで彫刻のようにじっとしていた。それが逆に目立って、たくさんの人がカメラを向けられた。




「動かないって、逆にすごいね。」


そんな声を聞いて、私はふと思った。この動かない特性こそが、彼の魅力なのかもしれない。




家に帰る途中、ふと思い立ってハチを肩に乗せてみた。最初はバランスを崩しそうになったけれど、ハチの軽やかな動きでなんとか安定する。




「お、意外と乗り心地いいじゃん。」




ハチは相変わらず無表情だったが、その視線の先にある夕焼けをじっと見つめていた。それが彼なりに楽しんでいるように思えて、私は自然と笑顔になった。




「また一緒に出かけようね、ハチ。」




家に着いた私は、ハチをそっと肩から下ろし、ふと彼の羽を見ると、少し汚れているのが気になった。




「ハチ、お風呂入ろうか。」




もちろんハチから返事はないが、私は小さなバスタブにぬるめのお湯を張り、ハチをそっと抱えて湯船のそばに連れて行った。最初は少し警戒していたが、彼の足が水に触れると、意外にも嫌がる様子はなかった。




「ほら、気持ちいいでしょ?」




ハチはゆっくりと羽を広げ、私が指先で丁寧に羽を洗うのを受け入れているようだった。水滴が羽根を滑り落ち、湯気が立つ中で、ハチは少しリラックスした表情に見えた。




「よし、これでピカピカだね。」




お風呂から上がったその瞬間、ハチが突然翼を大きく羽ばたかせた。




「ちょっ、待って!やめてってば!」




勢いよく飛び散った水しぶきが私を直撃し、服は一瞬でびし濡れになった。




「ハチ!なんでそうするの!」




ハチはそんな私をよそに、無表情のまま羽を広げて乾かし始めた。悪びれる様子もなく、むしろ自分の行動に満足しているようにも見える。




「もう……次からは覚悟しておくよ。」




仕方なく笑いながら、私は自分の服を拭きつつ、ハチの羽をタオルで優しく拭いていった。ふわふわの状態になったハチを抱えて、リビングに戻った。

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