第二章
第11話
――それから一月ほどの時が流れ、王都にあるゼクロシア家の屋敷にて。
ロッテは改めてメイド服に身を包み、アリーシャの傍にいた。
ゼクロシア家の屋敷は王都でも中心部に近い場所にあり、その立場を明確に示している。
そんな場所で再び働くことになる緊張感――正直、ロッテにとっては荷が重い。
専属メイドになってほしい――そんなアリーシャの願いを受けての決断だ。
ただし、ロッテはあくまでメイドに戻っただけ。
専属メイドという立場ではなく、下働きという立場には変わりはない。
実際、過去にロッテのような下働きでありながら、いきなり専属メイドに抜擢されたような事例はない。
変わったことと言えば、アリーシャの身の回りの世話を任されるようになったことだ。
専属ではないにしろ、アリーシャの傍で働けるようになったことは、ロッテにとって願いが叶ったと言える。
――戻って来たロッテを見て、他のメイド達は驚きを隠せなかったようだ。
表立って何か言ってくることはないが、やはり白い目で見られているのは分かる。
「一度辞めた癖に」――そう言いたい気持ちは、ロッテにだって理解できてしまうからだ。
ロッテ自身、戻るつもりなんて本当はなかった。
けれど、アリーシャ本人に頼まれてしまっては――断るのも簡単なことではない。
迷いに迷って、ロッテが選んだのが下働きのメイドに戻る、という選択だったのだ。
ただ、やはり居心地の悪さは感じてしまう。
もちろん、メイド全員がロッテのことを良く思っていないわけではないのだが。
「疲れたから、少し休むわね」
他のメイド達にはそう告げて、アリーシャは自室へと戻っていく。
ただ、その中で一人だけ――
「ロッテ、着替えるから手伝ってくれる?」
「! は、はい」
呼びされて、一緒に部屋へと入ることになった。
メイドに戻ってすぐにアリーシャの身の回りの世話を任されるなんて――嬉しくもあり、複雑な気持ちだ。
「出戻りがどうして……」
――そんな言葉が、部屋に入る前に聞こえてきた気がする。
ロッテにだけ聞こえるようにするのは、何とも意地の悪いことだと思った。
けれど、なるべく気にしないようにして――ロッテはアリーシャの後に続く。
パタン、と扉を閉じれば、広い部屋の中にロッテとアリーシャの二人きりだ。
アリーシャは着替えると言いながら、そのまま椅子に腰かけるとロッテに向かって言う。
「専属メイドになる決心はついた?」
――やはり、彼女は諦めていないようだ。
「……わたしに専属メイドなんてできません。普通のメイドだって、その、荷が重いっていうのに」
少し言葉を濁すように答えた。
――アリーシャに対し、居心地の悪い理由を説明することはできない。
ただ、普通のメイドさえ続けるのが難しいと考えているロッテにとって、専属メイドなどとても引き受けられる状況ではなかった。
「私がこんなに頼んでも、ダメ?」
「うっ……」
――姫騎士の姿のアリーシャはとても凛々しく、かっこよく見えた。
けれど、今のアリーシャは鎧を脱ぎ、赤と白を基調とした騎士ではなく姫の正装に身を包みながらも、おねだりをする可愛さしさを垣間見せる。
正直流されそうになってしまうが、ロッテは小さく首を振った。
「ダ、ダメです」
「どうしても?」
「どうしても、です」
「聞いてくれたら、私もどんな願いでも聞いてあげるけれど?」
「……!?」
アリーシャがそこまで言うなんて、思わず息を呑んだ。
そもそも頼まれているのは専属メイド――つまりは出世だ。
おそらくロッテ以外のメイドがアリーシャから頼まれれば、断ることはないだろう。
だって、アリーシャの専属メイドなんて、ここで働く者達の夢だからだ。
当然――ロッテにとっても夢であったのだが。
「……やっぱり、無理です」
ロッテは俯き加減で答えた。
「あなたって意外と頑固ね」
「……申し訳ありません」
「責めるつもりはないのよ。まあ、無理強いはできないことだし」
さすがのアリーシャも、ロッテにここまで断られては、と引き下がってくれた
申し訳ない気持ちも大きいが、彼女の期待にはとても応えられるとは思えない。
「専属メイドの話は一旦保留にするとして――もう一つのお願いは絶対に聞いてもらうわよ」
「……お願い、ですか?」
「そうよ。あなたにはそのためにメイドに戻ってもらったんだもの」
確かに専属メイドにはなれなくても、メイドには戻ってほしいという願いは受け入れた。
アリーシャがわざわざロッテに頼むくらいなのだから、何かしら理由はあるのだろう。
「その、お願いというのは……?」
「私のストレスを解消するのを手伝ってほしいの」
「! ストレスの解消――それって、例のお話ですよね」
ロッテの言葉に、アリーシャはこくりと頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます