メイドに力負けするなんて恥ずかしくないんですか?

笹塔五郎

プロローグ

第1話

 ――カーテンの閉め切った薄暗い部屋の中、ベッドの軋む音が響いた。

 一人で生活するには十分な広さがあり、装飾には気品さが感じられる。

 大きなベッドの上に二人の少女の姿があった。


「動けますか?」


 黒を基調とした衣服に身を包み、白いエプロンを着用した黒髪の少女がそう問いかけた。

 少女はこの屋敷で働く一介のメイドであり――本来はそれ以上でもそれ以下でもない。

 だが、そんな彼女の前には、ロープで縛られた少女の姿があった。

 長く美しい艶のある金色の髪は、汗で少し身体に張り付いている。

 凛々しく整った顔立ちは、まるで何かに酔ったように頬を赤く染めていて、呼吸も荒くなっていた。

 下着が見えるほどに透明感のあるネグリジェはより、今の彼女の姿を扇情的にさせる。


「……やっぱり、やめない?」


 縛られた少女は息を呑むようにしながら言った。

 後ろ手にしっかりと結ばれ、胸の辺りも強調するような縛り方になっている――簡単に抜け出すことはできないだろう。

 その証拠に、先程からみじろぎしては、ベッドを揺らして縄を軋ませるだけだ。

 メイドの少女は、その言葉を聞いて目を細め、縛られた少女の太股辺りを優しく撫で上げた。


「……っ」


 ぴくり、と小さく身体を震わせる。

 逃げるような動きを見せるが、そのくせ対した抵抗はしていない。


「自分から誘ってきたくせに」

「そ、それは……」


 メイドの少女の言葉を受けて、縛られた少女は視線を泳がせた。

 そう――この状況になったのは全て彼女が原因だ。

 彼女が望んだから、今のようになっている。

 メイドの少女は、不意に太股を撫で上げる手を止めた。


「あっ……」


 縛られた少女は、何やら物欲しそうな声を漏らし、その事実に気付いてまた羞恥に頬を染める。


「本当に嫌ならやめますよ」


 メイドの少女が言い放つ――随分と意地悪な物言いであると、彼女自身理解していることだ。

 ふるふると、言葉にはしなくても小さく縛られた少女は首を横に振る。

 やめてほしくない――そういうことだ。

 だって、彼女が望んだことなのだから。

 メイドの少女はくすりと小さく微笑むと、再び手を伸ばし――優しく触れた。

 これは誰にも知られてはならない二人だけの秘密の時間――メイドと姫騎士の秘め事なのだ。

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