ボクの背中にはAIがいる
ゆいゆい
第1話 未来からやってきたのにゃん
いつの間にか背後にいた、スターウォーズのC-3POそっくりの何かが声をかけてきたのは、ボクが部屋でテレビを観ていた時だった。
「おい、そこのお前」
「おわっ、何何?何だよお前!」
「にゃにゃにゃ。にゃーは2065年からやって来た最強将棋ソフトだにゃん!ポニャンザっていうのにゃん。よろしくにゃん」
突然背後から声をかけられ、ボクは飛び上がって壁際に身体を寄せた。そして、声をかけてきた主をしかと見つめる。
可愛いらしい声色で声をかけてきているものの、風貌がマシーンのそれであり、表情を一切読み取ることができない。というか、どこから声が出ているのかさえよくわからない。
「いやいやちょっと待って」
「待ったは即反則負けだにゃん」
「そういうことじゃないんだよ。マジ意味不だから状況を整理させてくれ」
「しょうがないにゃ。じゃあ持ち時間を5分やるなにゃ」
マシーン、もといポニャンザがやれやれといった具合に肩をすくめる。もっとも、表情はやはり全く読み取れないのだが。
ボクは見ていたテレビを消し、ひたすらに状況を整理しようとした。だが、5分考えても無駄だということは程なくして察した。これは言わばファンタジーの世界だ。考えても無駄ってやつだ。こいつが仮面を纏った不審者じゃない限り。
「よくわかんないんだけど、何で40年も未来の将棋ソフトがここにいるんだよ」
「その前にお前の名を名乗るにゃん」
ポニャンザがボクの胸元をつんつんしてくる……いや、ポニャンザの指がボクの身体をすり抜けた。
「ボクは増渕直樹、高校1年生だ」
「マスブチナオキ……知らない名前だにゃ。ひょっとしてナオキはプロ棋士じゃないにゃ?」
「プロ棋士も何もボクは将棋をやったことなんてないんだけど」
正直にボクは口にする。
「にゃにゃあ!?⁉ じゃあ、名瀬拓二はどこにゃ?」
絶叫をあげ、そして目を見開いてポニャンザが尋ねてきた。
「名瀬……誰、それ?」
「ナオキ、お前そんなのも知らんのにゃ。調べてみるのにゃ」
そう言われたのでボクはググってみた。
名瀬拓二九段。1995年東京都出身。将棋棋士……よくわからないが、実力のある棋士のようだ。
「この名瀬って人がどうかしたのか」
「にゃあ……本当はにゃーはその名瀬拓二の所に行くはずだったのにゃ。それなのにどうしてこんな冴えない若僧の所に……」
「聞こえてるぞ、こら」
何でボクがそこまで言われなくちゃいかんのだ。
「それより、さっき身体がすり抜けたみたいだけど」
「にゃあ。今のボクは存在してはならない実体だから、幽霊みたいな立ち位置になってるのにゃ。だから何にも触れにゃいし、今現在ナオキ以外には認知されないのにゃ」
「ふーん。何か、某名作囲碁漫画の二番煎じみたいなキャラだな」
「……何か言ったかにゃ?」
「いや、何でも」
表情は読めぬが、ポニャンザがおそらくは睨みつけてきたのでボクは話を濁す。
「ところでさ、その見た目何とかならないの。わりとその、恐いんだけど」
「大人しそうなくせして失礼なことを言うにゃ。じゃあコスチュームチェンジしてあげるのにゃ。猫娘とゾンビ、どっちがいいかにゃ?」
「……猫娘で」
にゃんにゃん喋るゾンビのどこに需要があるというのだ。
「じゃあ、変身にゃああん!!」
「おお!」
ポニャンザは宣言通り猫娘に変身した。身長150cmくらいのピンク色のショートカット。猫耳がぴょんとでて、白いミニスカートの可愛い猫娘。はじめからこの格好で出てくればよかったじゃないか、と心の中で悪態をつく。
「じゃあ本題に移るけどにゃ、にゃーは名瀬拓二に会いたいのにゃ」
「簡単にいうなよ。てか、とり憑く人を間違えるって未来のAIって意外とポンコツなのか?」
思っていたことを率直に口にする。すると、ポニャンザは顔を赤くして「にゃにゃ!? にゃーをポンコツ言うにゃあああ‼」とじたばたしだした。
あっ、これは己をポンコツと自覚している奴のリアクションだ。
「しょうがないにゃ。じゃあ将棋を指させてほしいのにゃ」
落ち着いたポニャンザがそうお願いしてくる。
「て言われてもどうしたらいいんだよ。家には将棋盤さえないぞ」
「ナオキの時代にもネットやアプリがあるはずにゃ。早くインストールするのにゃ」
ポニャンザが瞳をうるうるさせてぐいぐいせがんでくる。こんな可愛い猫娘に懇願されたらどんな面倒ごとでも断られるわけないじゃないか。生意気でちょっとムカつくけど。
ということでボクは将棋アプリをインストールした。将棋大戦。どうやら1番人気の将棋アプリらしい。ボクはアプリをさっそく起動した。プレイヤー名を「クソ猫」にしたところ、後ろから、「ふざけるにゃあああ!!!!」と叫び声が聞こえたが無視する。
ボクはプレイモードをタップした。対戦モードのルール画面が表示された。
「持ち時間は10分でいいか?」
「何でもいいにゃ。にゃーならどんな相手でも瞬殺にゃ」
「じゃあ10分にしてっと……おっ、始まったぞ」
対戦相手の名前はYamaha192。その他の情報はよくわからない。
「君が先手だ!」
このボイスを合図にクロックが動きだした。すると、横でポニャンザが腕をポキポキ鳴らすモーションをしているのが見えた。音、全くしないけど。
「ふふふ……にゃーの腕前を見せてやるのにゃ。ナオキ、7六步にゃ!」
「な……ななろくふ?」
「にゃ⁉ 7六步だにゃ!」
「ななろくふって何だよ!!」
「にゃあああ!!!! なんで7六步がわかんないのにゃ!この歩を上に上げるのにゃ!」
「ふって、歩のことかよ。いっぱいあるじゃないか」
「だからこれにゃあああ!!!!」
ポニャンザはボクのスマホを懸命に指して指示してきたが、ボクが将棋用語をまるで理解していないのと、ポニャンザの指示がわかりにくいのとがあって1手打つのにめちゃくちゃ時間がかかった。
結局、ポニャンザとボクのデビュー戦は23手で時間切れ負け。これがポニャンザにとって初の敗北とのことで、にゃんにゃん泣いて部屋の隅にまるまっていた。
これがボクとポニャンザの出会いであった。ここから運命が大きく動き出す。
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