第8話 死にたがり
「えっと、おはよう?」
「ごめんなさい。私のせいで」
「別に天月さんが悪いわけじゃないからな。悪いのはストーカーをしてたやつだ。だから気にしなくていい」
本当に僕は天月さんが悪いだなんて全く思ってない。
あんな場面に居合わせて天月さんを助けない事のほうが気持ち悪いし。
それこそ、心菜に顔向けができなくなる。
「そんなことないでしょ……あの時うちが不動くんを巻き込まなかったらこんなことにならなかったのに」
「どうだろうな。それはわからない。もしもの話をしてもどうしようもないだろ。僕は天月さんに怒ってない。だから天月さんも気にしないで欲しいんだが」
「無理だよ。うちはそこまで図太くない。なんで怒らないの? 死ぬかもしれなかったのに……」
「怒らないだろ。勝手に庇って勝手に入院しただけなんだからさ」
刺されたのも、入院したのも全部僕の自己責任だ。
天月さんに責任なんて全くないし、罪悪感を感じる必要も全くない。
というか、こんな風に天月さんが泣いているとなんだか気が狂う。
天月さんはいつもみたいにうざいくらいに明るい方が似合ってる。
「でも……」
「わかった。じゃあ、今度から天月さんの事名前で呼ぶ権利をくれ。今回のご褒美ってことで」
「そんなのでいいの? 不動くんのいう事なら何でも聞くよ? 命の恩人だし」
「そう言うのは求めてない。というか、自分を安売りすんな」
天月さんみたいな最強ギャルが簡単に何でもするなんて言うもんじゃない。
何をされるかわからないんだから。
「わかった。うちのことを名前で呼ぶくらいでお礼になるなら好きなだけ呼んで」
「そうさせてもらう」
少しは落ち着いたようで天月さん、凜々花は涙を浮かべながらもにっこりと微笑んでいた。
いつもよりも断然綺麗な笑顔で見惚れそうになる。
こんなに人の顔を鮮明に見るのはいつぶりだろうか……
ん?
鮮明?
「あっ!? メガネ!」
顔を触ってみて改めて気が付く。
今の僕はメガネをつけてない!?
「あ、メガネならここにあるよ? でも寝ころびながらメガネは危ないんじゃないの?」
「それはそうだが……」
顔を見られた。
メガネをつけてない顔を……
「てか、龍くんってめちゃくちゃイケメンなんだね。ちょっとびっくり」
「そんなにいいもんでもない。おかげで苦労してきたんだ」
「普段メガネをかけてる理由も関係ある感じ?」
「まあな。話す気はないぞ」
「別に話してくれるとは思ってないけどね。でも、本当に助けてくれてありがとね」
真っすぐな目で彼女に見つめられてなんだか照れくさくなる。
こんな風に真正面からちゃんと人の目を見るのなんていつぶりなんだろうか。
苦手だったはずの他人の視線だけど、不思議と凜々花の視線は不快に感じない。
「気にすんな。全部僕の自己満足だから」
「それでも、本当にありがとね!」
太陽みたいに眩しい笑顔を向けて凜々花は病室を後にした。
その直後に姉さんを連れた乃彩が病室に入ってくる。
「おはよう愚弟。今回は本当に無茶したらしいじゃん」
「そこまでだよ。こうやって生きてるわけだし」
「龍斗……流石に無茶しすぎだからね? さっき結衣ちゃん泣いてたんだから」
「ちょ、ちょっと乃彩さん!?」
顔を真っ赤にして姉さんは乃彩にもう抗議していた。
正直姉さんが泣いている姿なんか想像できないけど、目元が赤く腫れているから本当に泣いていたのかもしれない。
だとしたら、本当に心配をかけてしまった。
「龍斗もあんまり心配かけたらダメだからね? 私も本当に心配したし」
「ごめん」
「謝ってるけど、どうせそこまで反省はしてないんでしょ?」
「反省してないわけじゃない」
反省はしてる。
でも、後悔はしてない。
あの状況で凜々花を見捨ててのうのうと生きるくらいならあの場で死んだほうがマシだ。
まあ、しぶとく生き残ってしまったわけだけど。
「絶対うそでしょ。本当に心配したんだからね龍斗」
「ごめん姉さん。今後は気を付けるよ」
「そうしなさいよバカ」
姉さんに抱き着かれる。
いつもみたいな雑な感じじゃなくて、優しくて慈愛にあふれているようなそんな感じだった。
まあ、僕はベッドに寝てるから抱き着かれるとは言っても頭を抱きしめられているような感じだけど。
「じゃあ、私は帰るわね。ちょっと大学の課題が終わってなくて。乃彩さんはどうする?」
「私はもう少しここにいるね。話したい事もあるし」
「わかった。愚弟をよろしくね」
「任せておいて。大学の課題頑張ってね」
「ありがと」
姉さんは可愛らしく手を振って病室から出て行った。
乃彩と二人きりの穏やかな時間が流れる。
「龍斗はさ……死にたかったの?」
「……なんでいきなりそんなことを聞いてくるんだ?」
「だって、さっきぼそって言ってたでしょ? また逝けなかったってさ」
「聞こえてたのか」
ほとんど無意識で出た言葉を拾われるとは思ってもいなかったから少しだけ動揺する。
何とも答えにくいことを聞かれたものだな。
「私、地獄耳だからね。忘れた?」
「そう言えばそうだったな」
昔から乃彩は耳が良くてどれだけ小さい声で何かを言っても反応するような奴だった。
最近はその地獄耳をまじかで見て無かったからそんな事忘れてたな。
「それで、龍斗は死にたいと思ってるの?」
「わからない。でも、死にたいとは思ってない……と思う」
「生きたいとも思ってないってこと?」
「まあな」
どうしても生きたいと考えているわけでもない。
自分から死のうとする気はないけど、無理して生きようという気もない。
ただ、誰かのためにこの命を使いたいってだけだ。
じゃないと心菜に顔向けができない。
せめて心菜に誇れる自分でありたい。
「やっぱりあのことをずっと気にしてるんじゃん。まだ吹っ切れないの?」
「吹っ切れて溜まるか。僕は死ぬまで絶対に忘れることが無いし、背負って生きていくよ」
「それは龍斗の勝手だけど、そんな生き方しても辛いだけじゃないの?」
「さあね。でも、僕はこの生き方を変える気はない。僕はこの命が続く限り誰かのために生きてこの命を消費して死ぬ。それが僕の生き方だ」
あの日から、心菜が死んだ日から僕は誰かのためにこの命を使うって決めたんだ。
変えるつもりはない。
「そのたびに心配する羽目になる私と結衣ちゃんのこともちゃんと考えて欲しいんだけどな」
「……ごめん」
本当に申し訳ないとは思ってるんだけど、これだけは変えられそうにない。
心菜の犠牲の上で成り立っている命を自分のためだけに使う事なんて僕には到底できなかった。
「謝らないでいいけどね。そう言うの割り切れてないのはちゃんとわかってるし。でも、毎回毎回こんな風に入院はしないでよね。本当に私も結衣ちゃんも心配するんだからさ」
それだけ言って乃彩も病室から出て行った。
本当に心配をかけてるな。
マジで申し訳ない。
「今度、二人には何かお礼とかしとかないとな」
痛む腹を押さえながらそんなことを考える。
医者によれば数週間もすれば傷は塞がるらしいのでそれまではおとなしく寝ていることにしよう。
「それまで学校に出席できなくなるな」
とは言っても、多分だけど二週間もすれば傷は塞がると思う。
僕の体は再生力だけはすごいからな。
これくらいならすぐに治るだろ。
知らんけど。
自分の体の事なのに他人事のような考えを抱きながら眼を閉じのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます