第3話 お見通しな美人教師

 あんまりにも怖いこと聞いたな。

 最初から好きになる気なんて微塵もなかったけど、なおさら好きになれなくなったな。

 好きになって告白させてこっぴどく振るってあんまりじゃないか。

 本当に最近の女子高生の考えてることは全く読めないな。


「にしても……はぁ」


 ホームルーム前、クラスの人が大体集まっている時間帯に僕はかなりの視線を向けられていた。

 少し前までは見向きもされなかったのに、今日はずっと見られてる。

 正直かなり居心地が悪い。


「なんでうちが話しかけてるのにため息つくん? 流石に傷つくんですケド」


「嘘つかないでください。傷ついてる人はそんなに笑顔で話しかけてきません」


 ニコニコしながら天月さんは座っている僕に話しかけてくる。

 そのおかげでクラス中の視線は僕にずっと注がれてるのだ。

 全く溜まったもんじゃない。

 人がいない朝は九条さんと話していて、人が増えてきたあたりで絡んでくるのだから完全に確信犯だった。


「そうかな~うちはそんなん知らんし」


 絶妙にイライラする笑顔だ。

 殴ってやりたい。

 というか、殴っても許されるんじゃね?


「そうですか。というか、そろそろHRが始まるのでそろそろ自分の席に戻ったらどうですかね」


「ん~それもそか。じゃ、またあとでね~」


 手をブンブン振って天月さんは自分の席に戻って行った。

 この感じだと絶対に休み時間になるたびに話しかけに来る。

 そうなると更に注目される。

 で、裏掲示板に更に悪評が広まる。


「これ……詰みじゃねぇか」


 ため息をついて机の上に突っ伏す。

 もう何も考えたくない。


「早く帰りたい……」


 ◇


「不動くんお昼食べるっしょ? 一緒に食べよ~」


「遠慮しときます。僕は静かな場所で食べたいんで」


「そっか。じゃあついていくね~」


 どうせこうなることは想定していたからもう諦めはついてる。

 このまま屋上に行けば人目は無くなるし、気を使う必要もなくなるからもういいや。

 ほんと、考えるのもめんどくさくなってきた。


「……マジかよ」


 屋上に続く扉を見てみれば、立ち入り禁止の札がかけられていた。

 万が一があると思いドアノブを捻るが、開かない。

 ちゃんと鍵がかけられている。

 そう言えば、昨日フェンスが壊れたから鍵までかけられたのか。


「最悪だ」


「あらら~屋上使えないね~」


 あからさまに喜んだ声で天月さんは肩を叩いてくる。

 どこで飯を食えって言うんだ。

 屋上くらいしか人が寄り付かないスポットはない。

 つまり、教室とかそう言った人のいる場所でしか飯を食えないと?

 ……最悪だ。


「……」


「じゃあ、うちと一緒に教室で食べよっか!」


 ニコニコしすぎだろ。

 というか、絶対に嫌だ。

 これ以上変な噂が広まったら実害が出かねない。


「マジで嫌だ」


「ええ~そんなに拒否んないでいいじゃんか~」


「何があっても絶対に嫌だね。そんな事したら悪目立ちして仕方ない」


「なんでそんなに目立ちたくないん?」


「目立ってもなんも良い事無いだろうが」


 目立っていい事なんてない。

 良い風に目立っても悪い風に目立ってもいい事なんかない。

 ハッキリ言ってクソでしかない。

 それなら目立たない方が何百倍もマシだ。


「ちょ、ちょっといきなりそんな怖い顔してどしたん?」


「別になんでもない。ともかく俺は目立つのが嫌いなんだ。教室で一人昼飯を食べるのならまだしも天月さんみたいな目立つ人と一緒に食べるのは絶対にありえない」


 少しキツく言ってしまったかもしれないが、こうでもしないと天月さんは聞いてくれないだろうし僕が本気だと伝わらない。


「……不動くんはうちのことが嫌いなん?」


「そういうわけじゃない。僕にもいろんな事情があるんだ。わかってくれなんて言うつもりはないし、嫌になったなら距離を置けばいい」


 置いてくれるのであれば僕としても助かる。

 天月さん個人が嫌いなわけじゃない。

 ただ、遊びで人に告白するような人は苦手だし。

 それに、好きになっても天月さんは僕の事をこっ酷く振る気らしいし。


「そか。嫌われてないんならよかった。なんかごめんね。うちは教室で食べてくるよ」


 笑顔でそう言いながら天月さんは一人教室に戻っていった。

 悪い事をしてしまっただろうか?

 でも、こうでもしないと彼女は離れてくれなさそうだったし。


「でも、なんか申し訳ないな」


 あんな風に謝らせたのは申し訳なく思う。

 最後、笑顔だったけど少し陰りがあったように感じるし。


「なんか、もう……はぁ」


 流石に女の子にあんな強い言い方をするのはどうかと思う。

 熱くなりすぎだ。

 僕のバカやろう。


「なんだか授業に行くような気分でもないな」


 自分でも熱くなりすぎたと思うし、少し言い過ぎたと思う。

 僕は早めに昼飯を食べて屋上へと続く扉に背中を預けて自己嫌悪に浸る。

 少し冷たい鉄製の扉が背中からどんどん体温を奪っていく。


「よっ、サボりか? 不良生徒」


「そんなんじゃないっすよ。乃彩のあ


「学校で名前を呼ぶな。というか、私は年上なんだから敬語を使え馬鹿垂れが」


 細波さざなみ 乃彩のあこの高校の教師にして僕の従姉。

 24歳で美人教師と有名。

 昔から何かと世話になっている人だ。


「そういう乃彩こそもう授業は始まってんじゃないのか?」


「私が授業をほっぽり出してこんなところに来るわけないでしょ。今の時間は授業が無いの。あと、細波先生ね」


 綺麗な翡翠色の瞳に睨まれる。

 相変わらずの美人さに息を飲むけど、この人とんでもなくダメ人間だから一瞬で現実に引き戻される。


「へいへい」


「そんで? こんなところで何してるわけ? 授業中でしょ? 今」


「そうなんだけどさ。ちょっと授業に行くような気分でもなくてさ」


「へ~なんかあったとか? もしかして虐められてるの龍斗」


 茶化しながら乃彩が顔を寄せてくる。

 こいつは昔から距離感が近いというかなんというか……

 顔だけ見れば絶世の美人なんだから無防備に顔を近づけたりするのはやめて欲しい。


「なわけないだろ。ちょっといろいろあったんだよ」


「話してみなよ。このお姉ちゃんにね!」


 大きく胸を張って乃彩は自慢げに告げる。

 確かに昔はお姉ちゃんと呼んでいた時期があったけど、今そう呼ぶのはなんだか気恥ずかしい。


「お姉ちゃんて。いつの話だよ」


「ええ~呼んでくれないの~」


「当たり前だ。それに、お前さっき細波先生って呼べと言っていただろうが」


「まあ、そんなことはどうでもいいの。それよりもなんかあったんでしょ? 龍斗がそういう風にしてる時ってなんかに悩んでる時だし」


 相も変わらず、乃彩は鋭い。

 昔から僕が何かに悩んでいる時はこうやって相談に乗ってくれたりしてた。

 本当にお姉ちゃん気質なんだよな。

 乃彩って。


「お見通しってわけかよ。じゃあ、聞いてもらってもいいか?」


「もちろん。そのためにここまで来たわけだしね!」


 それから僕は乃彩に相談するのだった。

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