第14話 男心の擽り方

「じゃ、やらなきゃね」


「え?」


そう言って梵は歩き始める。


「ちょ、ちょっと何を!?」


「何って、天」


梵は振り返って言った。


「この村の、より深い真実を知ること、だよ」


///////////


「ちょ、待てって」


俺は梵に手を引かれる形で家へと向かう。


正直、俺は驚いていた。


こんなに我の強い梵を見るのは、初めてだ。


「おばあちゃん、帰ったよ」


「おや、手を繋いでるなんて、すっかり仲良しになったのね」


「えっ、いや、その」


「うん、そうだよおばあちゃん」


「えぇ……」


困惑しつつも、梵の赴くままについて行った。


そのままついて行くと、着いたのは俺の部屋だった。


梵が扉を閉めたのを確認すると同時に、俺も話し始める。


「どこにいくのかと思ったら、俺の部屋かよ」


「まずは作戦を立てようと思って」


「こんなとこでか?」


「ここは、おばあちゃんが普段いる場所から一番遠い場所だから」


そう梵は言った。


「この村について調べるんだろ?」


「こう、図書館とか公民館とか……」


「公民館……?」


「……こう、地域の交流と勉強をする場所……的な」


「生憎だけど、この村にはそんな場所はないよ」


「でも、一箇所だけ歴史や本がたくさんある場所に、心当たりある」


「本当か!?それはどこなんだ!」


「ここだよ」


「え?」


「胡蝶の家は代々カミサマと交流のある巫……つまり巫女の家」


「この村のことが記録されているものが、ないはずがない」


なるほど、盲点だった。


この村の中心的存在の胡蝶家、記録の一つや二つあってもおかしくない。


「……でも、この家でそんなものを見た記憶はないぞ」


「いや、見たことがあるはずだよ」


「え?」


「カミサマの像、見たでしょ」


「……っ!あれか!」


その時に漸く思い出した。


あの不気味な像、異様な空気、あの夜迷い込んだ場所のことに。


「……そういや、あの時以来俺は見ていないな」


「屋根裏に行くときに必ず通る道のはずなのに、なんでだ?」


「それには理由があるの、でも……」


「おばあちゃんのタイミングを見計らわないと、危険」


「どうしてだ?」


「おばあちゃん、些細な変化に簡単に気がつくから」


「音とか出ると、バレる」


「あー……」


今の季節はまだ6月、蝉の声に頼ろうにも絶妙にまだいない時期だ。


「じゃあどうすんだよ?」


「簡単なこと、おばあちゃんにお料理をして貰えばいい」


「お料理か?」


「うん。お昼とか、お夕飯とかは私も手伝わなきゃだけど、おやつくらいなら一人で作る」


「お料理してたら小さな音、気が付かないの」


「おお!なら!」


「でも欠点もある。一人で作るってことは、そんなに時間もかからないの」


「おおよそでいいんだが、できるまでどれくらいかかる感じなんだ?」


「5分くらい……」


「安全に活動できて、3分……」


「ウルトラな星の住人みたいだな……」


「でも、そこに賭けないと手がかり、ゼロ」


「やるしかねぇな。決行はいつだ?」


「5分後に頼みに行く。その後手筈は教えるから、付いてきて」


「オッケーだ」


「シュワッ!」


「誰がそこまで再現しろっつったよ」


////////


「おばあちゃん、お願いがあるの」


「ん?なんだい?」


「おやつを作って欲しいの」


「って天が言ってた」


「え?」


「ほう、居候の身分で中々言うじゃないか」


「何が食べたいんだい」


「え?じゃ、えっと……えびせんとかって出来るのか……?」


「ふん、しょうがないね」


「あ、出来るのか……」


「じゃあできたら呼ぶから、適当に遊んで待っておいで」


「わかった、おばあちゃん」


「行くよ、天」


「お、おう……」


(……なんとか上手く行ったな)


(えびせんって何?食べたことないから、どのくらい時間かかるのかわかんない)


(やっべ、俺もわかんねえ)


(……最低限の時間で行くよ、天)


(変なもの頼んだせいで、時間が確保できない)


(すまねぇって……)


そうか。


えびせん、食べたことないのか。


意外なものが無いんだな、とか俺は思いつつ廊下を歩いた。


もちろん、会話で全てバレたら終わりなのでひそひそ声でだが。


「着いたよ、天」


「着いたって……」


周りを見ても、壁や装飾しかないように見える。


本棚、絵画、窓。


そして、続く廊下、廊下、廊下。


とにかくこの家は広いことを、改めて理解した。


だが……


「ただの廊下じゃんか」


「いや、そんな事ないよ」


梵はそう言って本棚に近づき、本に触れる。


「ひょっとしてこれ……抜いたり押したりすると隠し扉が……的なアレか!?」


ちょっとワクワクする。


アニメや漫画で見たことがある。


本棚の本を動かすと現れる、機械仕掛けの秘密の部屋。


誰もが一度は憧れる機能だ。


機械仕掛けの部屋の中!


「そうなんだろ!?」


「ううん、違うよ」


「なっ……」


そう言うと梵は本棚の上の虫を素手で捕まえる。


「ひっ……」


「ごめん天、これだけ窓の外に出すね」


「紛らわしいんだよ梵ィ!」


「ごめん、ちょっと気になって」


そう言い、梵は絵を外す。


「これって……ドアノブ……か?」


「うん、これ開けると隠し部屋」


「おお!」


思っていたのとは違うが、これはこれでテンションが上がる。


というか機械仕掛けはありとあらゆる男のロマンだ、これでテンションの上がらない男はいない。


「天、しっかり付いてきてね」


「お、おう」


本来の目的を、すっかり忘れていた。


慌てて梵に付いていく。


この先に、何が待っているのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る