第8話 友達の作り方
「あれが亡くなった子玉さんの……」
「まだ中学生でしょう?可哀想に……」
「ご両親が亡くなって辛いだろうけれど……あなたはあなたの人生を歩むのよ……」
嘘だ。
そう思った。
だって、わかっているじゃないか。もう、俺の人生を歩めないことくらいは。
もしも、この世界が物語であるのなら。
きっと俺を拾ってくれるような人がいたりして、人生を再起できるのだろう。
きっと、この世界が劇ならば。
ここから先、世界は変わるのだろう。
でも、もちろんそんなことはなかった。
世界が明るくなることはなかった。
かといって、暗くなることもなかった。
それはつまり、世界は変わらなかったということだ。
俺は両親の死後、場所を転々としてきた。
みんな最初はいい顔をした。
けど決まって、俺のことを見たことはなかった。
あいつらは自分を見ていたんだ。
可哀想な身寄りのない子を保護する。
そんな、優しい自分を見ていたんだ。
そして飽きたら、申し訳なさそうな顔をして別の場所に渡す。
「それが貴方のため」
なんて、ふざけたことを言って。
俺はどこでも俺だった。
拒み、睨み、逃げた。
「親御さんが亡くなったショックだ」
と、誰かは言った。
「親のいない苦しみよ!愛よ!」
と、誰かは言った。
「お前は甘えているのだ、この穀潰し!」
と言ったやつもいた。
全部的外れだ、と思った。
別に、親が死んだから悲しんでるわけじゃない。
別に、愛がないから満たされていないわけじゃない。
別に、お前らなんかに甘えているわけでもない。
どいつもこいつも、結局は自分の知っている枠組みの中に押さえることしかできない。
所詮、どいつもこいつも俺を理解したつもりになり、庇護者になりたいだけなのだ。
俺は、親が死ぬ前から何も変わっていなかったというのに。
そういうことが続いたある日、俺はついに逃げ出したんだ。
//////
「……っ!?」
気がついたら寝ていたらしい。
原っぱのある木に寄りかかっていたようだ。
外はすっかり暗くなり、そよ風が少し冷たかった。
変な体勢で寝ていたからか、体が痛い。
起きあがろうとしたが、何か重い。
下を見てみると、俺の膝を枕にしたように梵が寝ていた。
「すぴー……」
「……」
「梵!?」
驚いて叫ぶと、梵が眠そうに目を開けた。
「ん……天?」
「おはよう」
「おはよう……って、今はおはようでいいのか……?」
「うん、起きたからおはよう。だよ」
「そっか……じゃなくてな!?」
俺は膝にいる梵を見て言う。
「お前なんでここにいるんだ!?」
「天がどっか行っちゃった、から……探してたの」
「見つけたんだけど、そこで眠くなっちゃって……」
「それで俺もろとも寝てたってわけか?」
「お前、中々変わってるな……」
「……!」
「なんでちょっと嬉しそうなんだよ」
梵が少し嬉しそうなのを見て、少し自分まで嬉しくなる。
だけれど、自分が梵に『知らねぇ』なんて言って出てきてしまったのを思い出し、梵を起こして立ち上がる。
「ひゃん」
「……言ったろ、梵なんて知らねぇって」
「うん」
「だから俺は……帰る資格なんかない」
「うん」
「でも私は知ってるから」
「え?」
「貴方が知らなくても、私は貴方を知っているから」
「……屁理屈か?」
「ううん、私なりの理由」
「考えてみれば、何も教えてなかった」
「だから、ごめんなさいって言いたくて」
「……」
「なんでだよ」
「え?」
「悪いことをしたのは俺だ」
「お前の言葉を受け入れようもせず、逃げたのは俺だ」
「だから、お前が謝る義理なんてないだろ?」
「どうして?」
「……俺はそうは思わない……から?」
「じゃあ私も、そうは思わないから言うね」
「……ずるいじゃないか、そんなの屁理屈だ」
「そんなこと言ったら、天もでしょ?」
「……」
「私、天に何も言わずに……唐突にこの村の、普通じゃないことを教えてしまった」
「迷い込んできた先の村が、実は生贄の集まる村でしたなんて。そりゃびっくりする」
私たちにとっては当たり前すぎて忘れてた、なんて梵は言う。
「だから、天に謝りたくて」
「ごめんね、無神経なこと言って」
「……」
「嫌だ」
「え」
「俺だけ謝られんの、なんかこう。モヤモヤする!」
「俺だって、お前の梵天世界の壊し方を知りたいと思っておきながら逃げて、その……」
「ごめん、梵」
「やだ」
「私から謝った、私が先に謝れるべき」
「だから、さっきの謝罪は破棄する」
「な!」
「俺だって、元は俺が蒔いたタネなんだから、俺が謝罪すべきだ」
「だから俺が先に謝る」
「ううん、私が」
「いいや、俺が」
「いいや!私が!」
「いいや!俺が!」
「私!」
「俺!」
「……」
「……」
ギリギリと顔を合わせる。
…
……
………
「梵」
「謝罪なら、受けない」
「いや」
「近い」
「あ」
そこで漸く、梵は俺と鼻と鼻をつけ合わせるほど距離が縮まっていることに気が付いた。
「ごめん」
「……」
「……」
「……っはは、なんだよ」
「ふふふ……あはは!」
「はははっ!あーあ!俺たちバカみてえ!」
梵は一瞬きょとんとするが、すぐに俺の思ったことを理解したようだった。
「ふふふっ、そうだね。私たちバカみたい」
「ああ、俺本当バカだったよ」
「なぁ、梵。俺たち仲直りしないか?」
「うん、こちらこそ」
「帰ろう、天」
「ああ」
「帰ろうぜ、梵」
多分、俺たちはきっと些細なことばかり気にしていた。
自分の弱さから逃げたことばかり気になっていた。
意地になって、どっちから謝ろうかばかり気にしていた。
でも、俺らはきっと。あの逃げた後からずっと謝りたいってことは一緒だった。
二日間という時しか流れていないのに、俺たちはもう友達で仲間だったんだ。
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