第6話 カミサマの作り方
堺村。
通常の市町村とは一線を画した村だ。
限界集落と呼んでも差し支えない村。
人口はおおよそ100名ほど、外界との接触はほとんど見られず、基本的には自給自足と言う形らしかった。
今は子供が17人……ああ、いや。
俺を含むと18人いるらしく、畑の手伝いなどをしている様子を見かける。
梵と3時間ほど歩いてみた堺村の印象は、そんなもんだ。
というか3時間も経つと、もうなんだか見るものも少なかった。
「……なあ」
「……」
「もう……大体見たんじゃないか……」
「何、もうへばったの?もうダメぽって感じ?」
「ダメぽて、今時ダメぽて」
「しょうがない、じゃあ一旦休もう」
「なんか癪だけど賛成だ……」
少し見晴らしのいいところにいた俺たちは、緑の青さに囲まれながら、水たまりの近くの岩で休憩した。
元々都会にいたからか、空気が目に見えて澄んでいて、綺麗なように感じる。
水田に張られた水は、鏡面のように世界を映し出し、とても美しい情景を象っていた。
「すぅ……はぁ」
心なしか、体の全てが循環し、浄化されているような気がした。
「麗らかだな……」
「そうね、とってもわんだふる」
「ここは人が少なくて、自然に溢れてるな……原風景、ってやつか」
自販機で買ったペットボトルの清涼飲水を喉に流し込み、蓋を閉める。
なんか、センチメンタルなことを言った気がする。恥ずかしくなってきた。
「そういえば、あそこの神社は何なんだ?」
俺はこの規模の村にしては大きく、年代を感じさせる社を指差した。
人のいる様子も確認できる。
「あれは堺村神社。お祭りとかはあそこでやるの」
「お祭りとかあるのか!」
「うん、次は確か、四日後とかだったと思う」
「でも、そろそろ新しい神社ができる」
「だから、その時に取り壊されちゃうの」
「へぇ……」
確かに視線をずらしてみると、別の場所にも社が見えた。
もっとも、入れない様になっている様だが。
「……」
「……」
なぜ俺は、女の子との会話に神社を選んでしまったのだろう。
とても強く後悔した。
決して悪くはない話題ではなかったはずだが、会話が続く話題ではなかったのだ。
ここはあれだな、話題を変えよう。
「……なぁ、ここを見ていて疑問に思ったんだが」
「……」
学ばない俺は、またしても何気ない話題を選んだ。
そのつもりだった。
「ここってさ、なんで外の人が来ないんだ?」
「来ない割には自販機とか、刃物とか、文明の利器が普及するし」
「でもその割に電車もバスもない。誰も出かける素振りを見せないだろ?なんでかなー……って」
俺は楽観的に見ていた。
ここは単なる限界集落だろうと思っていた。
だから、
「それはここが生贄を集めた場所だからだよ」
なんて言われるとは思っていなかった。
「はぁ?」
「生贄?」
「うん、生贄」
「この村はね、カミサマになるかもしれない人たちがいるんだ」
「そして、あっちこっちの村から人が来るの」
「お、おいおい。この時代にか?」
「うん」
「そんなのおかしいだろ!?警察は?」
「そんなものはないよ、この村に電話はないから」
「そんな……」
「自販機や物も、外部から不定期で提供されてるだけ」
「外は国の人たちが厳戒な警備を引いていて、出ることも入ることも叶わないの」
「じゃ、じゃあ俺は!?一体どうして俺はここに来れたんだよ!」
「きっと、貴方にはカミサマの資格があったの」
「なんだよそれ」
段々動悸が激しくなる。
「お、俺も神になるってのかよ」
「世界なんて……そんなものよ」
「そんなものって……お前は俺と一緒なはずだろ!?なんでそんな平気でいられるんだよ!」
「だって」
梵は目線をどこかにやる。
「もう慣れちゃったもの」
「……っ!」
「もういい、梵なんて知らねぇ」
俺は走っていた。
だって、受け入れきれない。
けれど、嘘とも思えない。
「はっ……はあっ……」
走って、走って立ち止まる。
全力で走ったからか、少しは気分が良くなった。
嘘とも思えないってなんだ。
冷静になると、そんな考えが頭に浮かんできた。
俺は、いつから梵のことをそんなに信用していたというのだ。
まだ、出会って2日くらいしか経っていないというのに。
ああ、違うな。
「信用じゃないな」
これは、魅了か。
あの瞳に魅了されていたんだ。俺は。
「あーあ、俺もバカだな……」
魅了されて、自分が揺れたことじゃない。
魅了されて見たいと思ったことにすら、一瞬で受け入れられずに逃げたことにバカだと思ったんだ。
「素直になれないって本当に……面倒くさいな」
「貴方、誰ですか?」
「……っ!?」
唐突に声をかけられ、身構える。
そこには、俺より年下くらいの男の子がいた。
桃と思しき果実をカゴに積んでいるのが印象的だった。
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