第3話 ツンデレ少年の飼い慣らし方
「ふぅ……」
湯船の温かさが骨身に染みる。
最初は慣れなかったが、薪で焚いた風呂は入ってみるととても心地が良かった。
最初こそ熱かったが、慣れれば意外に悪くない。
そういえば、ずっと風呂になんか入っていなかったような気がする。
ここ一週間は少なくとも、ずっと歩いて、歩いて、歩いて……
「疲れた」
しばらくは、ここで休んでいこう。
一週間はいていいと言われたんだ。思う存分休んで、そしてまた歩いて……
歩いて、どこに行くんだ。
「知るかよ、そんなこと」
誰に言うわけでもなく、そう言う。
俺は、どこへ行こうとしているのだろうか。
「天」
「っ!?」
風呂のドアの向こう側に人影が見える。
多分、梵だ。
「ここに着替え、置いておくから」
そう言い、人影が消えた。出て行ったようだ。
風呂を上がり、タオルで体を拭きつつ下を見ると確かに服が置いてあった。
「……ちょっと古いセンスだな」
誰かのお下がりだろうか。梵の兄弟とか、父親とか。
そういえばあいつ、おばあちゃんの話ばかりしているけれど他に身内はいないんだろうか。
……そういうこと考えるのはガラじゃない。
俺は服を着替え、その場を後にした。
///////
風呂から出ると、すごい量のご飯が用意されていた。
梵はおらず、ただ食事が並べられていた。
蕎麦、天ぷら、山菜、唐揚げ……
歓待でも受けているのだろうかと思うほどの量だった。
正直、ここ最近まともに食事をとった記憶がない。
助からなかったと言ったら嘘になる。
食事をとっていると、何か聞き慣れたチャイムが聞こえた。
夕焼け小焼けのチャイムだ。
そういえばこのチャイムは、どの町に引っ越しても大体同じだったなぁ、だなんて考えていると。
『ぴんぽんぱんぽん。堺村の、午後五時をお知らせします』
という音声が流れてきた。
聞いたことのある声で。
「梵!?」
思わず叫ぶように声が出た。
というかぴんぽんぱんぽんって自分で言う奴、初めて見たぞ。
いや、聞いたんだから見たんじゃなくて聞いたか?
「天、食事中に声を荒げるなんて品がないね」
「え、いや、だってさっきの梵だったよな?」
「ああ、そうさね」
識ばあは何をいうわけでもなく、お茶を啜る。
「梵は、あの時報の係か何かだったりするのか?」
「いんや」
識ばあはやはり。お茶を啜ってそう言った。
「あの子が好きでやってることさね」
「好きで……やっているのか」
よくよく耳を傾けてみると、村のその日の情報を小出しにしていた。
きっと、梵がこの村のことを伝えたいからだ。
「……すげぇ」
思わずポツリと、そう溢す。
だが、識ばあはチラッとこちらを見たきり何も言わなかった。
/////////
食事を摂ると、識ばあに手招きされたので向かってみる。
学校の廊下のような長さの通路をを歩いていくと、真ん中ほどで識ばあが立ち止まった。
「あんたは今日から、この部屋を使いな」
「部屋もらえるのか!?」
「当たり前さね」
正直、雑魚寝でもいいと思っていたので驚く。
部屋も用意してもらって、布団はふかふかだ。
何も、何一つとして文句なんかない。
識ばあが去った後、天井を見つめる。
見つめると言っても、部屋には僅かな月明かりしかなくて、ほぼ暗闇に近い天井を目視することはできないのだが。
こんなに、良くしてもらっていいのだろうか。
「眠れねぇ……」
俺は、これからどうなるのだろうか。
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