第3話

 俺はなんてことをしてしまったんだ。期待を裏切った人間に対して、それでも許してくれた人にあんなことを言ってしまうなんて……人間として、恥ずべき行為だ。

 そうだ。謝罪の意味も込めて、何かをプレゼントしよう。母さんは確か、甘い物が好きだったよな。

 そう思い至り周囲を見渡すと、コンビニを発見した。ネット通販以外で物を購入したことなんてないが、店に入って、欲しいものをレジに持っていくだけのこと、この俺ができないはずがない。

 俺は深い呼吸で心を落ち着かせてから、コンビニへと入店した。

 周囲の視線は気になるが、落ち着くんだ。犯罪になるようなことをしなければ、こんな場所、危なくもなんともない。


 ガサッ……。


 その音が聞こえたときには、すでに手遅れだった。

 肘に引っ掛かったスナック菓子はあっという間に床へと到達し、店内に落下音を届けた。急いで拾い上げようとするが、床のスナック菓子と共に店員の靴が視界に捉えられる。

「万引きかい? ちょっと裏に来な」

「え……? いえ、俺はこれを買おうとしただけで――」

「言い訳はいいから、さっさとこっちに来るんだ。逆らうようなら、今すぐ両親を呼んでもいいんだよ?」

 まるで極悪党を見るようなその眼差しに、俺は何もできず、ただ従った。

「わ、わかりました……」

 スタッフルームへ連れて行かれた瞬間、俺の頭は真っ白になった。思考の術すら失われる中、曇る視界で店員を追いかけていた。

「さぁ、そこに座りな。それと、学生証も出すんだよ」

 この人の、迷いを感じさせない発言を聞けばわかる。俺は確実に連行させる……。そうなれば終わりだ。なんとしてでも、それだけは避けなくてはならない。

「免罪印はなし、優秀者じゃないわね。それなら気兼ねなく通報できるってもんさ。大人しくしてなよ、どうなるかはあたし等にもわからんからねぇ」

「あの、通報だけは――」

「はいはい、またそれね。やらかした奴等は打ち合わせでもしたのかってくらいに同じことを言うけどね、こちとら、はなから通報するつもりで連れてきてんだよ。諦めな。……あ、刑事さん?」

 上機嫌に通報の連絡を始めた店員の様子から、これ以上の弁明が無意味だと悟った。ここにはもう、子どもを守ってくれるような常識は存在していない。

「ふぅ、今月だけで三人も通報しちゃって、あたしってば働き者ねぇ」

「……」

「なんだい、その目は? ふん、あんた等みたいなガキにはわからんだろうがね、子どもなんて少なければ少ないだけいいのよ。そうすれば、あたしの子どもに貴重な枠が回って来るってもんよ。あははは!」

 高らかに響き渡る笑い声と、口角を限界まで釣り上げたような表情から感じられるのは、底知れない怒りと憎しみだった。

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