俺にだけ厳しい幼馴染とストーカー事件を調査した

あと

第1話

いつものようにパソコンを起動して、画面越しに観察する。

「ははは。おもしろー」

どうやら最近流行りの漫画を読んでいるらしい。その無邪気な笑顔に、胸がざわつく。

「ふふふ。」

思わず声が漏れる。笑いが込み上げて、止められない。彼が自分に見られていることを知らずに、のんびり過ごす姿――その全てが、愛おしくてたまらない。


普通の人なら、こんなことをしていれば批判されるだろう。けれど、自分には関係ない。

彼の顔も、声も、仕草も、すべて自分のものだ。世界に誰も手を出せない――そう思えると、胸の奥が熱くなる。


これからもずっと、こうして傍で見守る。

彼がどこに行こうと、誰と話そうと、すべて自分の目で追いかける。

世界は二人だけのものだ。


———


「……うわーー!まただ…!」


ポストを開けると、そこには手作りの料理が入っていた。しかも、便箋にはこんな一文が添えられている――


『お腹空いてそうだったので、食べてください♡』


――いや、待て。腹が減ってること、どうして知ってるんだよ。怖い。


俺の名前は七瀬明。可愛い名前のせいで、幼馴染には「めいちゃーん」とからかわれ続けてきた。これは地味にコンプレックスだ。

普通の大学生、特に目立つこともない平凡な日常を送っている。……ただし、現在ストーカー被害に遭っているという異常事態を除けばな。


「ははは、またかよ。おもしれーな」


「いや、なんも面白くねーよ!」


俺は即座にツッコむ。

こいつの名前は月城颯。幼稚園からの幼馴染だが、とにかく陽キャだ。いや、チャラい。サラサラの黒髪のイケメンでスタイルも抜群、周囲の女の子たちはことごとく颯に夢中だ。俺は何度も横取りされ、嫉妬を押し殺すしかなかった。なんで俺の好きになる人はいつも颯を好きになるのか。


元カノの数は数え切れず、俺の隣の家だから、夜になると女の子とイチャつく声まで聞こえてくる。騒音被害で訴えたいくらいだが、まあ腐れ縁だからか、なぜか仲良くしてしまう。幼馴染って怖い。


「……警察に届けようかな…?」


俺はため息交じりに言う。


「普通ならそうするんじゃねーか?」


颯はスマホを弄りながら、まるで他人事のように答える。

いや、幼馴染の危機なんだからもっと真剣に考えろよ!


「お前な!もっと真剣に考えろよ!」


俺は声を荒げる。


「お前が可愛い女の子なら、優しくしたさ」


「男にも優しくしろよ、男女平等だろ」


「俺は女の子の味方だから」


「クソが」


……やっぱりダメだ、こいつは。

しかし、友達の少ない俺は、結局こいつに頼るしかない。

……なんで俺は友達が少ないんだろう、毎回思う。


「…どうでもいいが、そろそろ大学に向かわなきゃ遅れるぞ」


颯は急に真面目な口調になる。


「やば!」


俺は慌てて立ち上がった。

単位を落としてしまったら元も子もない。ストーカーのことなんて忘れて、俺たちは息を切らしながら、大学へ向かって必死に走り出した。


授業中、俺は教科書もノートもそっちのけで、ひたすらストーカーのことを考えていた。先生が話す内容は耳に入らない。スライドの文字もぼんやりとしか見えない。ただ頭の中には、どうやって犯人を突き止めるかというシナリオだけがぐるぐる回っていた。


――そしてついに、名案が閃いた。


「はーやて!遂に!!名案を思いついた!!」


授業が終わるや否や、俺は隣の席の颯に声をかける。颯はスマホを弄りながら、呆れた顔で俺を見やる。


「……何?この後、ゆきちゃんとあやかちゃんと遊ぶ予定あるんだけど」


この野郎!!学部で俺が可愛いと思っていた女の子たちを、もう手中に収めてやがる!!頭が真っ白になった。ムカつきすぎて理性が吹き飛ぶ。


「このクソ遊び人野郎が!!お前しか頼る相手がいないのが屈辱だよ!!」


俺は真剣な声で文句を言った。


「ははは。可哀想なめーいちゃん」


颯は心底楽しそうに笑う。思わず殴りたくなるほどムカつく。


「とにかく!俺たちでストーカーを捕まえればいいんだ!!」


俺は叫んだ。周囲にチラチラ視線を送る奴らがいるが、そんなことは無視する。全力で頑張るのだ、俺の正義のために。


「……は?」


颯は冷めた目で俺を見つめる。……おい、そんな顔すんなよ、泣くぞ。


「警察に頼ろうとも、現状だけでは動いてくれない可能性が高い!直接危害は加えられていないのだからな。だから!俺たちが協力して!犯人を捕まえるのだ!!」


俺は大げさに決めポーズをして、颯に告げる。


しかし、奴の表情はやっぱり冷めていた。


「……素人の俺たちがどうにかできるとでも?」


「お前、頭いいし……」


そう、颯は頭がいい。

この大学を選んだ理由が謎なくらい頭がいい。謎解きゲームに一緒に行ったときなんて、全問俺より先に解いてしまったほどだ。その時は流石にかっこいいと思った。それ以来、何度も謎解きに付き合わされている。


「俺頼みかよ。アホくさ。帰る」


颯は荷物をさっとまとめて立ち上がる。


「ちょ、ちょっと待ってよーー!」


俺は必死に颯に縋り付く。


「俺はワトソン!そしてお前はホームズだ!頼む!!」


手を合わせ、頭を深く下げる。顔を真っ赤にして必死に頼む。


「……はぁ、わかったよ。聞いてやるよ。その代わり昼飯1週間奢りな」


遂に折れてくれた。やっぱりこいつは、何だかんだで優しいのだ。こういうところも、モテる秘訣なのかもしれない。見習わなければ。


「じゃあ夜にLINEしろ。俺は遊びの予定があるから。じゃあな」


颯は隣にいた可愛い女の子と一緒に、颯爽と去っていく。


「ありがとう…ってお前ーーー!」


一人取り残された俺の断末魔が、教室に響き渡った。なんであいつばっかり――!

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