第6話 同じ大学
騒がしかった家での出来事を思い出しながら、退屈な授業を受ける。
一緒に授業を受けるような友達もいないぼっちの私には、プリントに落書きをすることでなんとかやり過ごしていた。
この授業は出席をとられないから最悪サボることもできるのだが、真面目な私は真面目に席に座っていた。
「あ」
そういえば、めいの連絡先を知らない。
一緒にお昼ご飯を食べようと思っていたけど、この広い大学の中のどこにいるのかもわからないし探し回るのは骨が折れる。
色々聞く前にどこかへ消えてしまったから、連絡先を交換できなかったのだ。
「うーん……どうしようかな」
そんなことを考えながらも、プリントの落書きは止まらずに進んでゆく。
うん、いいのが描けた。
満足して顔を上げると、授業が終わっていてみんな教室からぞろぞろと出て行っていた。
自分も早く出ようとプリントを片付けていると……
「ねぇ……ちょっといいかな?」
「え?」
声をかけられて振り向くと、そこには同じ学科の女の子が立っていた。
名前は知らないが、この子も私と同じでいつも一人でいるのをよく見る。
そんな子が私に何の用だろうか?
「えっと……何かな?」
「さっき落書きしてたのが見えちゃって……その、それがとても可愛くて」
「え、あ、ありがとう」
なにかと思えばさっきの落書きのことだった。
しかも褒められた。
嬉しいけど、見られていたんだと思うと猛烈に恥ずかしい。
誰か穴でも掘ってもらえないだろうか。
そこに深く埋まりたい。
「あ、ほんと突然ごめんね? じゃ、じゃあ……」
「あ、あのっ!」
その子が脱兎のごとく逃げ出そうとしたので、あわてて引き止める。
これはチャンスかもしれない。
一緒にご飯を食べる人を作れるチャンスなのでは。
「な、なに?」
「あの……もしよかったら、その……一緒にご飯食べない?」
「え? 私と?」
「うん……だめ、かな?」
「いい、けど……私なんかでよければ……」
「ほんと!? あ、ありがとう!」
まさかOKが貰えるとは思わなかった。
でも、これでぼっちは脱出だ。
できればこれからもご飯を共にしたいけど、今日だけだとしてもそれはそれで嬉しい。
そうして一緒に学食に向かっていった。
お昼時ということもあり人がいっぱいで、席がなかなか空いていなかった。
「これは……大変そうだね」
「う、うん」
周りの席はほぼ埋まっていて、なんとか端っこの席を二つ確保する。
これくらい人がいたらめいもいるかと思いキョロキョロと見回していたけど、それらしい影は見えない。
さすがにいないか。
「どうしたの? なにか探しもの?」
「あ、い、いや、なんでもないよ。先にご飯選んでくるね」
「え? うん、行ってらっしゃい?」
その子は明らかに頭に疑問符を浮かべていたけど、私は無視して席を立つ。
めいのことを喋っても「誰?」としかならないだろうし、説明がめんどくさい。
そんなことを考えているうちに、蕎麦を買って席に戻ってこれた。
「ごめんね、待たせちゃって」
「ううん。……ねえ、それ美味しい?」
「え? あー、ここの蕎麦好きなんだよね」
「へぇ……じゃあ私も同じのにしようかな」
そう言って、今度はその子が席を立つ。
いきなり蕎麦が美味しいか聞かれて戸惑ったけど、何を食べようか迷っていたのだろうか。
ここの学食はメニューが豊富なのでちょっと分かる。
「おまたせ」
「おかえりー……ってトッピングすごいね!?」
「えへへ、ネギ好きだからいっぱいかけてきちゃった」
……トッピングはセルフでかけられるとはいえ、これはやりすぎではないだろうか。
ニンニクマシマシのラーメンみたいにネギが盛り上がっている。
肝心の蕎麦が隠れて見えなくなっている。
「そ、そんなに好きなんだ……」
かなりのツッコミどころだけど、ついさっき話しかけられただけの関係値で大きなツッコミはできない。
せっかく仲良くなれそうなのに、こんなことで台無しにしたくない。
それに、この子ほどじゃないけど私もネギ好きだし。
「そういえば、さっきは突然話しかけてごめんね。私、人の絵を見るのが好きでさ」
「あー、そうなんだ。別に話しかけてくれて嬉しかったから気にしなくてもいいよ?」
私も人が絵を描いているところを見るのが好きなので気持ちはわかる。
友達とか親しい人じゃないと話しかけにいくのは難しいけど。
この子はすごい。コミュ力わけてもらえないかな。
それから他愛もない話をしながら昼食を終え、その子とも解散になった。
また同じ授業で会おうと約束を残して。
「楽しかったなぁ……」
一人になったので、そんなことを呟いてみる。
家では妹のうみとくだらない言い合いができるけど、大学で誰かと仲良く話すのは初めてだった。
あの子が話しかけてくれて嬉しかったし、仲良くなれそうでよかったと思う。
「連絡先も交換しちゃったし……ぐふふ」
「誰と交換したんですか?」
「うわぁっ!?」
突然後ろから声をかけられて、びっくりして声をあげて飛び退く。
後ろを見ると、そこにいたのはめいだった。
心配で探していたはずなのに、なぜか今のタイミングでは来て欲しくなかったという感情の方が強かった。
「そんなに驚かなくてもいいじゃないですかぁ。さすがのわたしも傷ついちゃいます」
「ご、ごめん……でもいきなり後ろから声かけられたら誰だってビビるよ」
「あはは、それもそうですね」
笑いながらそう言ってくるめい。
その瞳の奥がとても鋭いような気がするのは気のせいだろうか。
「で、誰と連絡先を交換したんですか?」
「えっ! そ、それは……」
この流れだとさすがに誤魔化すことはできない。
というか、やっぱりあの独り言聞かれてたのか。
普通に答えてもいいけど、なんだか圧があって答えにくい。
「お、同じ授業履修してるみたいでさ、何かあった時のために交換しとこうって」
「ふーーーーん」
嘘は言ってないし、なかなか無難な理由だと思うのだが……
すごく納得いかない顔してる!
なにか誤解されてるような気がするけど、今日は気まずいまま一緒に帰ったのだった。
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