最強彼氏 ~恋と生霊、物理で解決~
蒼月 柚希
第1話 告白と生霊パニック―
「あ、ご……ごめん!」
目の前の彼は、林檎あめみたいに顔を真っ赤にしていた。
整った顔。さらりとした黒髪。
涼しげな切れ長の目に、陶器みたいにつややかな肌。
——ねぇ誰?
少女漫画の理想彼氏を現実に召喚したの。
街を歩けば十人中九人が振り返り、
残りの一人は嫉妬で歯ぎしりしそう。
しかもこの人。
中学でバスケ全国三連覇、高校でも校報誌の常連。
モデルスカウト経験ありって噂まである。
――神様、どこまで盛ったんですか。
おまけに成績優秀。非の打ちどころなし。
完璧人間って、本当に存在するんだ……。
そんな彼が今、私と顔を突き合わせている。
至近距離。吐息がかかるほど近い。
え? なにこの状況?
それでは皆さん、問題です。
そんな彼といる私のこと。
「絶世の美少女」
だと思ってませんか?
残念ながら、現実はこう。
『入学当初から保健室の常連さん?』
『根暗オタクっぽいよね?』
『三つ編みメガネの無口女、怖くない?』
『二次元に恋してそう』
……とまあ、そんな評価をいただいております。
はい、地味で目立たないモブ女子、それが私。
だからこそ信じられない。
なんでこの完璧王子が、私なんかに告白なんてしてきたのか。
しかも今、この距離感。
彼の手は壁についていて——え、壁ドン!? 嘘でしょ!?
彼は焦ったように頭を下げてきた。
「あ、ごめん! 本当に! 足が何でか絡まってしまって……。」
「いえ……こちらこそ、ありがとうございます!」
顔面の筋肉を総動員して、ひきつり笑顔を作る。
感謝の意味で、ね?
だって、壁から出ていた“何か”が、きれいに消えてる。
さっきまでの息苦しさが嘘みたいに。
彼は、ぱっと顔を上げてにっこりと微笑んだ。
……破壊力、パネェ!!
「え? じゃあ、OKってこと?」
……え、何の?
いやちょっと待って?
その笑顔、反則でしょう。
太陽を直視したみたいに眩しくて、思わず手をかざした。
いや、違うのよ!
私はただ“助けてくれてありがとう”って言っただけなの!
「じゃあ、早速一緒に帰ろうよ。」
彼の笑顔が炸裂した瞬間——。
“ドンッ!”
……何かが、地面に倒れた音がした。
そして見えてしまった。
黒いモヤに包まれた、地面を這う“ソレ”。
そう、見えてしまうんです。私には。
小さいころから、普通の人には見えないものが見える。
おかげで嘘つき呼ばわりされ、今の性格に。
でも今のは確かに——彼の後ろから這っていた“
彼が偶然蹴り飛ばした形になって、顔面ヒット。
その瞬間、地面を転げ回る女子の姿が現れた。
……隣のクラスの柳原さん?
続けざまに、“グシャッ!” “ズベンッ!”
耳障りな音とともに、何かを踏み潰している?
え? 横地さんと田中先輩?
みんな顔面を押さえて悶絶してるけど……なにこの状況!?
でもわかっちゃった。
彼女たち、みんな彼狙いだったんだ。
……生霊でストーキングって、愛が重すぎません?
「ほら、制服が汚れちゃうよ?」
そう言って彼は、私の手を取った。
そっと引き上げられる、その瞬間——。
“ゴツン!”
“ううっ……”
また女の子のうめき声。
彼の後頭部が、別の生霊にクリーンヒットしたらしい。
でも彼は気づかない。
その瞬間、生霊たちは次々と光の粒になって消えていった。
まるで彼の周りだけ、空気が清まっていくみたいだった。
「え? どうかしたの?」
きらきらした黒い瞳が、私を覗き込む。
「な、なんでもないです!」
今、私のほうが霊よりヤバい顔してる気がする。
だって彼、どう見ても“無自覚最強”なんだもん。
——その笑顔ひとつで、霊障すら祓ってる。
――次回は1時間後。――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます