『短編』陰陽師スキルで事故物件ライフ ~ハズレスキルと幽霊娘で商売はじめました~

寿明結未(旧・うどん五段)

第1話 オススメされたのは、事故物件でした

 異世界転移した俺、梶野マサトは、スキルが微妙だと言われて城を追い出された。

 いくらかのお金はもらっているが、要はいらないもの扱いされたわけだ。

 俺の持っていたスキルは勇者たちに必要なスキルじゃなくて、〝〟と〝〟と〝〟だった。

 別にそれが悪いとは言わない。

 生きていくうえでは必要だ。

 ましてや、この世界の食べ物に慣れるほうが無理な話だろう。


 それに、ネットスーパーがあれば、商売も物によってはしようがある。

 そう思い立ち、城から離れた別の街へ乗り合い馬車に乗ってドキドキしつつ向かい、たどり着いた「オードリーヌの街」にて、俺は根を下ろすことにした。


 宿屋に毎回泊まるのは金の無駄。

 一軒家を買いたい。

 それだけの『』はもらっていたのだ。

 不動産屋に向かい、手頃な物件はないかと聞くと、一軒だけ予算に合う家があった。が、しかし――。


「この家はお勧めしません……」

「何故ですか?」

「いわゆる……でして」

……」

「今や夜な夜な幽霊たちがドンチャン騒ぎしてまして」

「つまり、

「へ?」

「やっぱりこの家買います!」


 除霊の御札くらいは、なんでもある〝ネットスーパー〟にあるだろ!

 効果があるかどうかは別として……ね。

 こうして一軒家を購入した俺は、案内された家に向かった。

 とはいえ、悪い気はしない。

 俺が鈍感なだけなのか否か、普通の一軒家だった。


「ここで夜な夜な幽霊が?」

「ドンチャン騒ぎしていると聞いています」

「へー。事故物件って言うからもっとおどろおどろしいのを想像してたや」

「いいですか? 一応駄目だったらいつでも代金はお返ししますからね。

「ふむふむ」

「身の危険があったら何をしてもいい物件です!どうせ取り壊す前だったので……」

「多少汚しても?」

「構いません」

「わかりました」


 それだけ聞くと、俺は不動産のお姉さんと別れ、家の中をくまなく見ていく。

 幽霊もジャパニーズホラーで慣れてきた俺としては、異世界のホラーというのにも興味がある。

 海外らしくポルターガイストなんてあるんだろうか?

 しかし、襲われるのも嫌なため、早速ネットスーパーで除霊用の御札を大量に購入し、家中に貼り付けていく。


「幽霊に効果がありますように~」


 そんなことを言いつつ、家中あちらこちらに大量に御札を貼り終え、一階の一室にだけ御札を貼らず、そこに詰め込んでみることにした。

 どれだけのオバケがいるのかはわからないし、どんなオバケか知りたいしな。

 そういえば俺のスキルには〝〟があった。

 ――使

 そんなことを考えつつも、夜を待つことにした。


 それまでの間は、何をどう売っていこうかと悩みつつ、とりあえず明日は市場で調査だなと意気込んだその夜――。


 『いやああああああ!!』


 つんざく女性の悲鳴が聞こえたかと思いきや、ドタバタと走り回る音が聞こえ、バタンと何も貼っていない部屋へと消えていく。

 どうやら幽霊が掛かったようだ。

 一体どんな幽霊だろうか……。

 様子を見に行ってみると――。


 『なによもう! この家どこもかしこも動き回れないじゃない! うう……酷いわ、恨むわ、私何も悪いことしてないのにこんな仕打ち……』


 そう言って泣いている美少女の幽霊と目が合った。

 途端すごい勢いで飛んできたが、廊下には札が貼ってあるので弾かれて吹き飛んでいった。


『もー! アンタの仕業ね! どうしてくれんのよ!』

「どうするもこうするも、俺が買い取った家だ。勝手に住み着かれては困る!」

『私のほうが先住民よ!』

「知ったことか! 嫌なら出ていけ」


 そう言ってお清めの塩を手にしていると、美少女の幽霊は震え上がっていた。


『や、やめて……そんなの投げつけられたら消えちゃうっ!』

「とはいってもなぁ。俺の家だし、

『無駄っ! そ、そこをなんとか……。あ! 貴方、幽霊を使役できるスキル持ってるのね!良かったら私を使役して! そしたら何でも言うことを聞けるし……』

『辛辣! でも待って、使役すれば夜でなくとも一緒にいられるわ!』


 そうなのか。

 使役すると夜以外でも使えるのか。


「太陽の光で死ぬとか言うのは?」

『無いはずよ。お願い、この通り! このままじゃ貴方を恨んで追いかけ回すことになっちゃうわ!』

「そうなったら俺もお前を消す方法で追いかけ回すことになるが……」

『お互い命を懸けた戦いになるじゃないのー! いやぁ!!』


 そう叫ぶ幽霊に、俺はため息を吐き……とりあえずこの世界のことも聞きたいしと〝陰陽師〟の力で彼女を使役することにした。

 彼女はそれを受け入れたようで、額に星のマークが付いている。

 俺の使役している幽霊……になったってことだろうか?


『これで私の主は貴方よ! 名前を言ってなかったわね。私はサリーよ!』

「俺はマサト。朝も消えないのなら人に見える……ということは?」

『力を使えば見えるようになるけど、基本見えないわね』

「なるほど。お前は死んでどれくらい経つ?」

『私はこの家で死んで、三年かしら?』


 ――三年なら、そう物価は変わってないはずだ。

 元いた世界では物価の変動は激しかったが……。


『貴方、異世界人ね? 色々聞きたいことは聞いて!』

「なら、この世界のことについて色々聞きたいんだが――」


 その夜、札のない部屋でサリーから聞いたこの世界のことを頭に叩き込んだ。

 香辛料などは貴重品で高価であることは、大体どこの異世界でも一緒だ。

 ただ、それを沢山売っていれば目をつけられるだろうということだったので、困ったときの商品にしようと考えつく。


「商売をしたいんだが、どうすればいい?」

『商業ギルドに登録して、店用の家を借りればいいわ。無ければテントの貸し出しくらいはしているはずよ』


 なるほど、テントでの露天販売か。

 それなら、

 そう思い、銅貨二枚を入れてお祭りで買うような指輪をごっそり買ってみると、サリーは目を輝かせた。


『なになに!? 段ボールから出てきたけど、すごい量の質のいい指輪じゃない!』

「質がいいって言っても、ガラス玉だぞ」

『ガラスってこんな綺麗なの出来ないわよ! これ一つでいくらで売るの?』

「銅貨二枚で二十個買えたから、銀貨一枚かな」

『やっす!』

「なんだったら、ネックレスとか色々出してもいいかもな」


 そう言ってガラスで出来たネックレスやブレスレットを買っていくと、サリーは雄叫びを上げて――。


『全部欲しい――!!』


 と叫んだ。


「一つ二つならやれるが、つけて外に出たらアクセサリーだけが浮くとかねーだろうな」

『そこは大丈夫。私が身につければ消えるから』

「なら使役した祝だ。どれか一ついいぞ」

『やったー!』


 そう言ってサリーは腕輪をもらい、直ぐに腕につけると嬉しそうにしていた。


『異世界ってこんなキラキラしたガラスがあるのね……。そうそう。ガラスってことは黙ってたほうがいいわよ』

「そうする。後は明日商業ギルドに行って露店を出させてもらおうかな。売れれば御の字って感じだ」

『知ってる?使

「へー。初耳だな」

『その辺にいる幽霊……まぁ、アタシが大丈夫って言う子は仲間にしていっていいんじゃない?別段私を戦闘に使うとかじゃないでしょ?』

「それはそうだが……俺、戦闘とかしたくねーしな」

『なら、自分をプラスに上げる幸運の……幽霊? みたいに思っておくといいわ。ステータスボード見てみて?』


 そう言われて俺は初めて自分のステータスボードを見てみると、幸運値に補正がついてプラスになっていた。

 確かに……幸運値のプラスはあるようだ。


『幽霊といえど、幸運をもたらす者もいるのよ。ふふん!』

「へー。これは面白いな……」

『幽霊ハーレムでも作っちゃう?』

「お触りもできない幽霊でハーレムって虚しいだけだろ」

『まぁまぁ、可愛い女の子と暮らせると思えば♡』

「俺はハーレム作るなら普通に触れられる女の子がいいんだけどな」

『もう。わがままさん! でも、幽霊をたくさん使役することで〝陰陽師〟のスキルを上げていけば、


 つまり、お触り自由ってことか。

 そいつはいいことを聞いた。

 どんどん仲間の幽霊を集めていこう。


『後は、幽霊に応じて戦闘に向いている人もいるから、冒険者ギルドに登録して、幽霊に依頼を完了させることも可能になるはずよ』

「便利だな……

『陰陽師を知らない人たちで良かったわね。知ってたら墓場で延々と仲間を増やされてるわよ……』

「そりゃ遠慮願いたい」

『明日に備えて今日はぐっすり寝ましょう! あ、使役されてるからもう御札関係ないからね!!』


 ――こうして俺は半ば強引ではあったが、サリーという幽霊を使役することになった。

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