【9月21日生配信】 たかし宅 前編

「ここで合ってる……よな?」

 二人がメールに書かれていた住所へ電車に揺られてやってきたところ、予想していなかった光景が目の前に現れた。

「おっかしいなぁ…ストリートビューだと普通の家なんだけど…」

 井出は頭を掻きながらスマホの画面と目の前の廃屋を交互に眺める。

「住所が間違ってたんじゃないか?それかネタだったとか。」

「えぇー、困るなぁ…」

 井出は首を傾げながら廃屋に近づくと、何かを見つけて田口に手招きをした。

「おい、見てみろよこの郵便受け。」

 そう言って井出が指差した郵便受けには家族全員の名前が書かれており、一番下には『貴志』とあった。

「中野貴志…『なかのたかし』か。」

「こりゃもうビンゴだな!門扉開いてるし、ここで配信開始するしかないな!」

「……まあ、周りに人いないし、静かにやればいいか…?」

 井出の勢いに押され、ここで撮影を始めることにした。


「どうも。曰く付き収集クラブへようこそ。今日は初めての生配信ってことでね、不手際もあるかもだけど笑って許してね。」

 できるだけ周りの家が映らないように撮影する。彼も周りに配慮しているのか、家で収録している時より声のトーンを落としている。事前に告知していたからか、チャンネル登録者数の半数ほどの人数が既に視聴しているようだ。

「今回はちょっと番外編って感じだ。みんな、8月末に配信した動画覚えてる?『ガイアウォーズ2』っていうカセットの話。なんと先日、その持ち主の『たかし』からメールが届いて、返す約束をしたんだ。あ、もちろん動画撮影の許可ももらったぜ?」

 井出の説明に対して

 

 『たかし実在したんか』

 『やばいやつじゃん』

 『たかし何歳だよ』

 

 などコメントが流れる。

「みんなコメントありがとな。俺もまさか、たかしと会うことになるなんて思ってなかったよ。

 そういうわけで、たかしに会うために我々曰く付き収集クラブは送られてきた住所までやってきたのだ……だけど…」

 カメラを廃屋に向ける。子供の笑い声が聞こえた気がしたが、田口は周りの家からだと思うことにした。

「見ての通り廃屋だ。ストリートビューだと普通の家だったんだけど。一応、住所読み上げるから、聞き取れた人も検索してみてくれ。住所は……」

 井出が読み上げた住所を検索した視聴者からコメントが入る。

 

 『ほんとだ、ストリートビューだと普通の家だ。門の形とか屋根の色も同じだから場所は合ってるっぽい。』

 

「お、マジで検索してくれた人いるんか、ありがとね。

 合ってるよね?そんで、これ見てよ。」

 井出が郵便受けに書かれた『貴志』以外を手で隠している様子をカメラに映す。

「これ。『たかし』って読むよね?だから多分ここが『ガイアウォーズ2』の持ち主の家なんだよ。」

 その瞬間、チャット欄が一気に動いた。

 

 『誰か近所の人行ってみてよ』

 『廃墟じゃん』

 『さっき子供の笑い声聞こえなかった?』

 『いらっしゃい』

 『不法侵入だよ』


「不法侵入って言われちゃうとそうなんだけど…いや待って、笑い声?みんなは聞こえた?……まぁ、住宅街だし近所の子供じゃない…?」

 井出はカバンからカセットを取り出してカメラに向ける。

「ともかく、『ガイアウォーズ2』返却、行ってみようと思います!」

 そう言いながら門扉を開いて廃屋に向かって歩き出す。

 

 『今窓に誰かいなかった?』


 コメントに気づいた二人は窓を見るが、特にそれらしいものは見当たらない。

「おいおい、ビビらせようったってそうはいかないぞ。」

 井出は物怖じすることなく玄関扉に手をかけると、二人を招き入れるように抵抗なく開いた。

「お、開いた開いた…お邪魔しまーす……」

 玄関に入ると後ろ手に扉を閉めると、昼にもかかわらず薄暗くなった。

「おお、結構暗いな…廃屋って分かってたらライト持ってきたのに…」

 井出がスマホのライトを点けるが、廊下の突き当たりまではよく見えない。周りを見回すと外観の痛み具合の割に内装は荒れていなかった。

「これ…どうしようか。靴脱いで上がった方がいいかなぁ…?」

 少し考えた後、廊下を指でなぞってみると埃がしっかりと付いてきたので、二人は靴で上がることにした。

 手前の部屋から順番に見ていくと、一部屋目はリビングとダイニングキッチンが繋がっていた。

「あれだな…家具とかしっかり残ってるのな。夜逃げかな?」

 井出の言う通り、テーブルやタンスの家具だけでなく、ブラウン管テレビや電子レンジなどの家電も残されていた。


 『ブラウン管なつかしい』

 『ソファの影から誰か覗いてない?』

 『そっちじゃないよ』

 『ここで昼飯食べてみようぜ笑』


「そっちじゃないとか、ソファの影とか怖いこと言うなよ〜。まあ、面白いものもなさそうだし次の部屋行くか」

 廊下に戻り、順番に扉を開けていく。

 トイレ、洗面所、風呂場と設備は古く埃が積もっているものの、荒らさせれた形跡などは無い。

「えっと、次は…お?ここは引き戸なんだな。和室かな?失礼しますよっと。」

 井出が引き戸を静かに開ける。

「えーっと、ここは仏壇があるし、仏間かな?」

 井出はズンズンと和室に入っていく。

「でもあれだな。仏壇ってこう、掛け軸みたいなやつとか位牌が入ってるよね?これ、空っぽだな。」

 そう言ってまじまじと観察する井出を後ろから撮影するとコメントが流れる。


 『空っぽの仏壇って不気味だな』

 『二階だよ』

 『埃すごそう』

 『もうやめたほうがいいよー』

 『はやくきて』

 『オレ、車で行けそうな距離だし行ってみようかな』


「二階?確かに外から見たら二階あったな。一階はこの部屋で最後だし、二階行くか。」

 そう言いながら廊下に出る井出を撮影しながら、田口は首を傾げて考える。

 

「家、引きの構図で撮ってないんだけどな…?」


 田口の不安をよそに井出は階段を上がっていった。

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