9月5日 居酒屋
「全然時間取れなくて悪かったな」
サラリーマンで賑わう店内のテーブル席に座り、田口は謝った。
「いいってことよ!今週も忙しかったみたいだしな!ちゃんと寝てるか?」
井出の言う通り、今週は仕事が忙しくて打ち合わせの時間が取れず、金曜の夜にやっと集まることができた。
「とりあえず何か飲み物頼もうぜ!俺はビールにするけど、どうする?」
二人はビールと何点か料理を注文し、すぐに届いたビールで乾杯をした。
「お疲れ〜!いや、明日は撮影だからちょっと違うか?まあいいか!お疲れ〜!」
「おう、お疲れ。」
「まずあれだな、明日の撮影で使うネタの説明からだな!」
そう言って井出が見せてきたスマホには、井出の家の机に置かれた黒く煤けたような古いラジオが写っていた。
「……これまた古いラジオだな」
井出に断って画像を拡大してみると、本体の角やダイヤルが所々欠けていたり、焦げているように見える。
「そうそう、戦時中に使ってた物らしくてさ、古道具屋で見つけて買ってきたんだよ。で、これがちょっと曰く付きでね!」
「どうせまた生成AIに考えてもらったんだろ?」
「酷いこと言うなぁ!いや、実際そうなんだけど。まぁ聞け」
井出はニヤリと笑いながら周りの客に聞かれないように顔を寄せてきた。
「これ、夜中の0時に電源を入れて特定の周波数に合わせると、戦時中の空襲の音や人の声が聞こえるらしいんだ」
「なるほど、定番っぽいけどいいんじゃないか?」
「だろ?ちなみにエピソードは生成AI製だけど、戦中から使われてるってのは本当だぜ?国道沿いの古道具屋に売ってて、店長がそう言ってた」
井出は楽しそうに話し続ける。
「そうだ!夜の0時に撮影して別のスピーカーからそれっぽい音を流すのも面白いかもな!」
「そんな時間から撮影したら徹夜で編集することになるだろ!」
「冗談冗談!まあ、いつもカーテンは閉めてるから、画面に映り込みそうな時計を0時に調整して撮影したらいいか!」
明日の撮影の段取りを決め終え、届いた料理を食べていると井出が思い出したように話しだした。
「そうだ!お前忙しかったから知らないかもしれないけど、チャンネル登録者数が増えてるんだよ!見てみろよ!」
そう言われた田口はスマホから動画投稿サイトの管理ページにアクセスし、目を見開いた。
「……なんだこれ?1408人?先週まで300人いかないぐらいだったろ?」
「『ガイアウォーズ2』を投稿してから急に増え始めたんだよ!古い動画にも色々コメントが書かれてさ!」
喜ぶ井出を横目に田口はコメント欄に目を通す。
「『ガイアウォーズ2』を実際に調べてみたけど本当にこの動画以外の情報が何も出てこない!」「カセット上手に作りましたね!すごい!」「あれ結構難しかったんだよね」「実況楽しみにしてます!」などなど、様々なコメントがあるが、エンタメとして楽しんでいるようで炎上している様子はなく、井出はひとまず安心した。
「いきなり増えたのは驚いたけど、炎上じゃなくて良かったな」
「だよな!俺もビビったもん!『俺なんかやっちゃった!?心当たりないんだけど!』ってさ。」
井出が笑いながらビールを飲み干したところで、田口は少し気になった事を口にした。
「ただ、『かえして』みたいな妙なコメントも増えたな」
田口は改めてスマホに表示されたコメント欄に目を落とす。
「かえして」「それぼくの」「はやくかえして」「どこそこ?」楽しげなコメントの中に平仮名だけのコメント混ざっている。
「それな!初めは本物だったら返したいなって思ってたんだけど、アカウント名もバラバラだし、前にお前が言ってたネタコメントってやつだったんかな」
「まあ、他の人のコメントに便乗してくるやつは多いからな…それにしてもSNSで取り上げられたわけでもないのに、なんで急に増えたんだ…?」
「そりゃもう俺のトーク力と『ガイアウォーズ2』がみんなの目に止まったんだろ!SNSでバズらなくても、口コミとか『あなたへのおすすめ』で広がったんだろ!」
「それもあるかもしれないけど、いくらなんでもいきなり1000人以上増えるのは…」
「気にしすぎだって!それにしてもまさか1000人超えるとは!収益化ライン突破しちゃったなあ!」
ほろ酔い気分で嬉しそうに話す井出の向かい側で田口は腑に落ちない顔をしていた。
テーブルの上のスマホに、新しく誰かが書き込んだコメントが表示された。
――「かえして」
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