三千世界の継承者

@be-yama

第1話 虚無の王座(1)

​『なるほど!では、そこで白井プロは躍進のきっかけとなったSランクスキルを手に入れたのですね!』

『はい。まさか観光地のど真ん中に門が現れるとは予想だにしていませんでした.......』

『本当に災難でしたね.......』


​画面の向こうでは茶髪の男性とニュースキャスターが会話を続けている。


すると、画面上に速報が一件。


​『山梨県、富士山から約50Km地点にCランク相当の門が出現。付近の一般人は避難を開始してください』


​地球上にモンスターを産み落とし、マナをまき散らす<ゲート>が出現したのはおよそ100年。

人類はこのまま滅びるしかないと、誰もが悲観した。そんな中、転機が訪れた。

​ある勇敢な若者が門に飛び込み、超常現象を引き起こす<スキル>と自身の身体能力や耐性を引き上げる<ステータス>。二種類の力を携えて帰還したのだ。通常兵器では歯が立たないモンスターも、スキルとステータスの力を用いれば討伐も容易かった。

​「「ゲート制する者は世界を制する」」

​世界中でそう囁かれ、人類は<大スキル時代>へ突入したのだ。


​『では白井プロ、これまでAランク相当の門を17つ、Bランク相当の門を15つ攻略され、亡き憑上宗玄つがみそうげんさんの最高攻略記録を大幅更新した、”新たな日本攻略者界トップ”として最後に、これから攻略者を目指す方々へアドバイスをお願いします』


​ブラウン管に映る日本最強の男の姿に、青年は唇を噛み締めた。羨望ではない。それは、どうしようもない自己嫌悪の表れだった。


​慣れた様子で白井遼太郎しらいりょうたろうはマイクを受け取り、淀みなく話し始める。


​『強い攻略者に必要なのは、才能ではなく思考と運です。常に何が利用出来るか、何が必要なのか考え続けること。それさえ徹していれば後は運があれば人はどこまでも行ける。決して腐らず、歩みを進めることこそが1番の近道だと僕は思います』


​そう締めくくりがあった瞬間、テレビの画面がブツっと暗転する。


​「……思考と運、か」


​脳裏に浮かぶのは、燃える空気と血の匂い。

、門が自宅すぐ裏にある山中に発生し、決壊した。


耳の奥で、今もあの声が木霊する。『逃げろ!』そう叫んだ祖父の背中。だが、自分の足は恐怖で地面に縫い付けられたように動かなかった。思考なんて、真っ白に消し飛んでいた。


自分の弱さと恐怖が祖父を殺したといっても過言では無い。

​嫌な鼓動を続ける心臓を落ち着けるためにゆっくりと息を吐きながら、テレビをぼーっと見ていた青年、憑上翔つがみ かけるは部屋に無音で入り込み、テレビを消した闖入者をジト目で睨んだ。

「なに? 文句あるわけ?」


​声の主は一人の少女。艶のある黒髪に程よく鍛えられた肢体に整った顔立ちの美少女だ。


​「いや? Aランク攻略者様はずいぶんとお暇なようで」


​棘のある言葉は、彼女ではなく、何もできずに停滞している自分自身に向けたものだ。


翔がこうして後悔に溺れている間にも、日本の攻略者達はゲートに挑み、誰かを救っていく。

その事実が、無力な自分の心に更なる疼痛を与える。


​「暇は自分で作るものでしょ。ほら」


​少女、獅子堂凛香ししどう りんかが翔にスマホのニュース画面を見せる。

​『お手柄!最年少Aランク攻略者、獅子堂凛香ししどう りんかさん、わずか10分でCランク相当の門を踏破!』

「………」


​無言でテレビをつけると、画面上部に速報が流れる。

​『富士山周辺の避難命令は解除されました。シェルターは三時間後に閉鎖されます。安全に気を付けてお帰りください』


​自分にはできなかったことを、彼女は当たり前のように成し遂げている。眩しいその功績が、今はただ痛かった。


​「どうよ?」


​「流石でございますお姉さま」


​翔は降参の意を示しながら両手を上げる。


​「一歳しか変わらないでしょ。お姉さまはやめて」


​「それで? 仕事終わりに直行してきて何の用だぁぁぁぁぁっ!?」


​用件を聞くと返ってきたのは空を切り裂く正拳突き。

空ぶった拳が内包した威力は凄まじく、部屋をビリビリと揺らす。


​「信っっじられない!」


ランクの高い攻略者は、相応のスキルを持っているだけではない。強力なスキルの使用に伴う反動やエネルギーの消費に耐えられるだけの身体能力を持っている、という事でもある。


Aランクともなれば、ただのパンチ一発で厚い鉄板をぶち抜ける程のパワーに自動車と並走できる程の敏捷性と持久力を持っており、正に超人だ。


「おっ……ちょ、待てっ!約束は明日じゃなかったか!?」


「その前日に服とか買いに行こうって誘ったのはあんたでしょうがぁぁぁ!」


ビュオッッっと常人なら掠るだけで肉が抉れるようなパンチが、殺意と共に頬スレスレを通過していく。


「なあ、本気なのか? 俺と一緒に居たら周りはともかく、マスコミになんて言われるか.......」


「そんな奴らは後で直々にお礼参りするから大丈夫」


「え? 今のどこに大丈夫の要素あったの? 死人が出る話じゃなかった?」


「いいじゃない。別に、たまの休みに誰と過ごすかは私の勝手でしょ?」


そう言われると翔は何も言えない。

Aランクという、世界で見ても上澄みに位置する力を若干15歳で手にした少女は、歴代最年少という事もあり常に世間の目を気にする生き方を強いられてきた。


一時は酷く塞ぎ込んでいたが慣れもあるのか、立ち回りが身についたのか、以前の明るさを取り戻している。

 

それでも生来の我慢し続ける性格も相まって、たまに「ガス抜き」に興じなければ実の親すらも声をかけるのを躊躇うレベルで機嫌が悪くなる。それはもう、猛烈に。具体的に言えば、面白半分で凛香を尾行していた悪質な記者がきりもみ回転しながら空を舞い、全治半年の重体になるぐらいだ。


「分かった、分かったよ。どうなっても知らないからな?」


「分かればいいの。下で待ってるから」


言うだけ言って凛香は黒髪をなびかせて部屋を出て行く。


いつも強引にそちらの都合を捻じ込んで来るから良い意味でも悪い意味でも狂わされる。

その後、翔は手短に外出の準備を済ませ、凛香と合流した。


「さ、行きましょ」


「おう、よろしく」


そのまま差し出された凛香の手を握ると一瞬の浮遊感と共に、翔と凛香は駅前のデパートの屋上駐車場に立っていた。


これこそが凛香に芽生えたAランクスキル<跳界月兎ホップ・フロート・バニー> 。


能力は使用者本人と装備品、自身のマナでマーキングした物体の瞬間移動だ。

凄まじい所は、距離や使用頻度に関係なく発動に必要なマナ消費は一定で反動も無いという事だ。

空間や時間など概念に作用するスキルは強い代わりに燃費が悪いというのが通説だが、これだけ無法なスキルが連発可能な上に反動も無いという壊れっぷり。Sランクでもおかしくないのだが、本人のステータス評価がAランク相当である事と、スキルの直接的な攻撃力が低いという点を鑑みてAランク攻略者と判定されている。


「相変わらず便利だよな、このスキル」


「そんな呑気な感想しか出てこないのはあんたくらいよ」


 フン!と鼻を鳴らしながらデパートに入っていく凛香を尻目に翔は自分のステータスを確認する。


憑上翔 (17)

 能力評価:F

『未覚醒の為、閲覧不可』

​この『F』の文字は、ただの評価じゃない。翔にとっては、あの日の自分に突き付けられた、失敗(Failure)の烙印だ。

ステータスは人間誰もが持っている物らしく、日本の門の攻略を一手に担う<攻略者協会>でスキャン、登録すればステータスの閲覧が可能になる。しかし、門を踏破しなければステータスが<覚醒>せず、身体能力も常人とさほど変わらない。


​だが、スキルは別だ。


門の最奥に座するボスモンスターが課す試練をクリアし、その資質を認めさせるか、『特殊な手段』を用いなければ得る事が出来ない。


見知った人々の背中を見送るだけにならないために。無力な自分を変えるために。何としても、力が欲しい。


​そう考えると、目の前を歩く幼馴染がいかに凄まじい才覚を秘めているのか。嫌でも実感させられる。

「何よ。人のことジロジロ見て」 


​明日、攻略者協会で行われる年間優秀攻略者を表彰するパーティで着る服を選びながら凛香がこちらに声をかける。


​「いや、そういや攻略者と言っても最初はスキルもステータスも無い状態だろ? どうやって、最初の覚悟を決めたんだろうな~と思って」


​「ああ、そういうこと。あ、すみません、このセットお願いします。アクセサリーはこの棚の色味が同じヤツで」


​テキパキとドレス風のワンピースにアクセサリーやカーディガンを選びながら凛香が続ける。


​「何て言うのかしら。自分の最初のスキルって本人と惹かれ合うのよね。運命の導きってやつ?」


​「え、そんなふわっとしたシステムなのか」


​「この例から外れた攻略者は全体の3%以下って話よ。白井さんは行方不明になった妹さんから呼ばれた気がして、観光地の順路から外れた小道に入ったらゲートが開いていたって話だし、私はーー」

​「亡くなったペットそっくりの兎を追いかけて門に入ったんだったっけ」


​「そ。もうあの子は居ないって分かってたはずなのに、馬鹿よねホント」


​運命。翔を導くものがあるとすれば、それは拭いきれない後悔だけだ。そんな後ろ向きな感情に、果たして運命が応えてくれるだろうか。


​「ああ。全身ボロボロの血塗れで倒れてるお前を見つけた時は生きた心地がしなかった。まじで」


​「はいはい。その件に関してはホントに感謝してるわ」


「試練の内容ってそんなに危険なのか?」


「それも運次第ね。後輩に第1スキルがDランクの子が居るんだけど、試練の内容、何だったと思う?」


「えぇ……〇〇を取ってこいとか、生き残れとか、倒せ!とか?」


「なんと、ゲートのボスモンスターは年老いた錬金術師で、彼の肩揉みとボードゲームの相手をする事が試練だったらしいわ」


「…………」


 そんなふざけたボスモンスターが居てたまるか!と突っ込みたい所だが、事実そういう経緯でスキルを手にした攻略者が居るのなら信じるしかない。


「じゃあ、支払いはこのカードで。明日着るのでこのまま持ち帰ります。はい、じゃあこれで」


​翔があんぐりと口を開けている間に凜香は買い物を済ませてこちらに戻ってきた。目当ての物が手に入ったのか、上機嫌だ。


​「待たせたわね。まだ時間あるでしょ?」


​「ん? まあ、そりゃ……」


​「良かった。それなら出てきたついでに食事していかない?」


​「お、いいね。どこ行ーーーー」


​1歩踏み出した瞬間、ブツン、と辺りが暗くなり一切の光と共に上下左右の感覚が消失した。


浮遊感と共にどこまでも続く奈落に落ちていくような状態だ。


「翔ッッ.......!!」


落下が始まったのに合わせて凛香が翔の背中に手を伸ばすがギリギリ間に合わず、指先が来ているパーカーに掠めるのみ。


「うおわあああああああ!?」


落ちる落ちる落ちる。二人が入ったデパートはせいぜい10階建てのビルのはず。だが、翔が落下している時間と距離は体感その数倍はある。東京タワーの屋上から落ちたとしても、粉微塵になっていないとおかしい時間だ。


なのに、まだ底は見えない。それどころか呼吸も苦しくないし重力に引っ張られる感覚も感じなくなってきた。


何も見えず、聞こえず、自分の声すらも深い闇に吸い込まれ、完全な孤独。それでも止まらない落下。


次第に自分の肌を撫ぜる風の感覚さえも薄れてきて、どれほど落ちたか、時間さえも曖昧になる。


消える。溶ける。解ける。

憑上翔という人間を構成する要素が、少しづつ、少しづつ暗闇に溶けて消えていくようなーーー


「なんだこれ.......気持ちわるっ。なんだ、この違和感......?」


そして気付く。この謎の空間の法則に。


「なん.......これ、もしかして、、なのか.......?」


縦だけでなくおそらく横にも無限に続く空間に、変わらない体温や体調、姿勢、落下速度。なのに五感から飛び込んでくる情報は翔に落ちていると訴えかけている、このアンバランス。


限りなくリアルなVRと言われた方がまだ納得できる。


『おや、もうばれてしまったか。あと数年は落ち続けると思ったけど』


「!?!?」


突如、空間全体に男とも女とも子供とも大人とも聞き取れる謎の声が木霊した。


『今まで僕のゲートに入った人間は皆、この空間の仕組みに気付かず死ぬまで、いや、死んでも落ち続ける事になってたけど』


「は.......?」


『ここは<虚無>。あの世でもこの世でも、でもある』


突然全てが停止し、つま先にコツン。と地面の感覚が戻った。


「ここは.......?」


気が付くと、翔は廃墟の街に立っていた。ボロボロだが、雰囲気や造りからして中世の北欧圏のどこかだろうか。


命の気配は無く、空は翔が今まで落ちていた虚無が隙間なく蓋をしている。差し込む光は無いはずなのに、全てがくっきりと見える。


『ボクの心象世界。君たち人間がゲートと呼ぶものさ。見事踏破し、脱出すれば超人的な身体能力を、心象世界の主が課す試練をクリアすればスキルを手に入れられる』


周囲にはモンスターは見えず、溶岩のような特殊地形も、罠があるようにも見えない。


(思考を、止めるな。ヒントを探せ.......)


これまでの記憶を手繰り寄せながら、命の無い廃墟を歩く。


『凄いね、君。記憶や人間性をかなり削られたはずだけど、まだそんなに動いて、考えられるんだ』


実際、記憶が穴だらけだ。昨日の事が思い出せないと思ったら、子供の頃の記憶はある。


逆に、幼稚園の頃に好きだったヒーローの事は思い出せなくても今日見たテレビのインタビューは覚えている。


だが、全て失ったわけではない。残っている知識、経験、思い出を総動員しながら足を動かし、呼吸をして、周囲を見渡す。


『ああ、なるほど。偶然、のか』


 最初のスキルと攻略者は惹かれ合う。そしてここに居るのは自分だけ。つまりーー


「お前は俺を呼んだんだ。試練をクリアすれば、俺はスキルを手にして安全に脱出できる」


『そうだよ。と、言ってももう半分はクリアしてるようなものだけど』


「なに?」


『ボクの試練は二つに分かれている。一つ目は最初に君が落ちてきた虚無のそらのカラクリに気付き、ここに到達する事。そして二つ目はーーーー自分が何者なのか、思い出すこと』


「そんな簡単な試練でいいのかよ。さては低ランクの門だな、ここ」


『フフ、全てのスキルは等しく成長していく。ランクは然程関係ないよ』


「ふーん、そういうもんなのか。じゃ、さっさとクリアするかな」


『ああ、ご自由に』


彼は自分の名前を大声で叫ぶべく大きく息をすったがーーー


「俺はーーーー俺はーー、あれ、俺、は.......だれだ.......?」


ニヤリと、闇の奥でナニかが笑った気がした。

無視して自分の名前を記憶から引っ張り出そうとしても、靄がかかったように何も思い出せず、口からは何の言葉も紡ぎ出せない。


『ほらほら急いで。こうしてる間にも、君という人間は少しづつ消失している。タイムリミットは君の肉体が完全に消滅するまで。何度でもチャレンジするといい』


サラ、と何かが落ちる音がした気がした。何気なく足元を見ると自分の影が、少しづつ薄くなっている。


不思議と怖くない。そう考えてしまう自分に途轍もない異物感を覚えた。


名前も、出身も、自分の好きなものも、直前まで


『始まったね。もしヒントが欲しかったら街を見て回るといい。この街は、今までボクの試練に挑み、散っていった挑戦者の記憶や心が積み重なって出来たモノだ。もしかしたら、君のも見つかるかもね』






あれから何時間いや、何日経ったのか。翔は廃墟の街を駆け回っていた。どうやら建物にはここに飲み込まれた人々の記憶や心が封じられており、建物の大きさはその者の心や力の強さに比例しているようだった。


戦いの記憶、苦悩の記憶、真理を求めて探求を続けた記憶。


誰かに恋をした、誰かを恨んだ、誰かを喪った、何かに怒った、そんな喜怒哀楽愛憎善悪の心。


地獄を見た。理想を見た。怨讐の果てを見た。志半ばで途絶えた道を見た。


それでもーーー自分自身を見つける事は出来なかった。


沢山の人々の残響が、心が、頑張れ。負けるなと崩れ落ちる自分の心と体を支えてくれたが、それも限界が近づき、少しづつ体が動かなくなってくる。


足がもつれ顔面を地面に強打し、鼻血が流れても血の温かさや鉄の味すらも感じなくなった。


「う、あ.......!」


腕も殆ど動かなくなったがそれでも、必死に地を這いながら進み続ける。


更に何日、いや、何か月経っただろう。もはや時間の感覚はとうに消え去り、何のために歩いているのかすら砂となって消えた。


足元の感覚が消えていくと同時に自分の体温が失われていく。


「寒、い.......」


倒れこむように、半壊した建物の壁にもたれかかる。


他の建物は立派で丈夫な造りだったのに、この建物だけやたらと脆い。軽く触れただけで塀が崩れてしまった。


羽織っていたボロボロのパーカーを膝にかけ、ふと半壊した廃墟に既視感を感じ、欠片を手に取る。


瞬間ーーーー


『おじいちゃん!!僕もおじいちゃんみたいな攻略者になりたい!!』


『ハッハッハ!!こりゃ頼もしい跡継ぎだ!〇〇もいつか爺ちゃんみたいに戦えるようになるさ!!』


そう返すのは、筋骨隆々とした肉体を誇る初老の男性だ。


彼こそは日本最高齢Aランク攻略者として名を馳せる豪傑だった。


御歳75でありながら、多くの人々の命を救った生ける伝説である。


『ちょっとお義父さん、まだ7歳の孫に稽古付けようとしないでください!〇〇も何で乗り気なんだ!危ない!せめて中学生になってからにしてくれ!!』


『ハーハッハッハ!!では待っておるぞ〇〇!お前はワシと同じく不器用じゃからな。困難な道となるだろうが、決して諦めてはいかんぞ!』


『うん!わかった!!』


光と共に誰かの幼き日の記憶が脳裏に投影された。


何故かは分からない。けれど、何故、忘れていたのかと自分を責めたくなる、酷く心が締め付けられる思い出。


「じい、ちゃん……お、れ……」


ポウ、と背を預ける廃墟の瓦礫が一つ一つ光を放ち、彼の体を優しく包み始めた。


光が自分に吸い込まれるたび、かつての自分。取りこぼした心と記憶が少しづつひび割れた魂を癒し、満たしていく。


「そうだ……俺は……」


痛い、熱い、苦しい、寒い今まで喪失していたあらゆる感覚が一気に体を駆け巡り、記憶がどんどん補完される。


「俺は、憑上翔。このクソッタレな試練を突破して、爺さんみたいな攻略者になる男だ!!」


翔がそう声高に宣言すると、空間が揺れ、虚無の宙に亀裂が入った。


直後、何万枚ものガラスが割れるような破砕音と共に、世界に光が戻る。


『おめでとう。君は見事、自分を完全に取り戻し、この闇を祓って魅せた。実に500年振りの快挙だ。文句なしのS判定あげちゃう』


拍手と共に、音もなく目の前に黒い靄の塊が表れる。


『さぁ、報酬の話をしよう』



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