絵師の夢を諦めた俺のために、学校一の美少女がVtuberを始めていた。〜しかも彼女のアバターは自我を持っているみたいで、彼女の本心を俺に全部バラしてくる〜
青葉久
第1話 俺が、お前のママ?
それは
『むぅ! まさか私のママがよりにもよって“
飲み物を取りに行っていた葵が自室に戻ってくると、机に置いていたスマホから知らない女の声がした。
今の声、誰だ?
聞き覚えのない声に、思わず葵が眉をひそめてしまう。
おかしい。つい先程まで白波フウカの配信を見ていたはずなのに、どうしてスマホから違う女の声が聞こえてくるのだろうか?
「……もしかして配信、終わったのか?」
確かYouTubeには、配信や動画が終わると自動で関連動画に切り替わる機能がある。ちょっと目を離している間に配信が終わったなら、あり得なくもない。
だが、それにしても妙だった。時計を見ても、まだ時刻は22時を過ぎたばかり。
葵の知る限り、いつも21時から始まる彼女の配信は短くても2時間はあるはずだ。配信が終わるにしては早すぎる。
急に体調が悪くなったとしたら、納得できなくもないが……
いや、それはない。白波フウカはチャンネル登録者が100万人を超える大人気Vtuberだ。配信を仕事にしている以上、彼女も日々の体調管理はしてるはず。そもそも体調が悪ければ、配信なんてしない。
「珍しいな。急にコラボ配信なんて」
そうなると、ここはやはり急遽コラボ配信が始まったと考えるべきだろう。
おそらく、ついさっき聞こえた女の声はコラボ相手に違いない。白波フウカの名前を出していたのが、その証拠だ。
別に不思議なことではない。滅多にないことだが、ソロ配信中に突然コラボ配信が始まることは稀にある。
白波フウカは企業に所属しているVtuberなのだ。同じ企業のVtuberとコラボすることもあれば、他企業のVtuberともコラボすることだって当然ある。
『確かにフウカちゃんはすっごく可愛い。白猫をモチーフにしたキャラデザも可愛いし、ちょっと癖のある声も可愛いから聞いてるだけで癒されちゃうママの気持ちもわからなくもないけど……』
とは言っても白波フウカ以外のVtuberを詳しく知らない葵には、そのコラボ相手が誰か分からなかったが……きっとそういうことだろう。
そう思いながら、机に座った葵がなにげなくスマホを見ると――その違和感に気づいた。
『たまには久々に歌枠とかやりたいよね~。最近はイベントも多くてゲーム配信ばっかりだったから歌ってストレス発散したいかも』
《フーちゃんの歌枠!?》
《激アツ配信で草。絶対リアタイで見よ》
《最近はかなりの頻度で大型イベ多かったからしゃあない》
《毎日歌枠のアーカイブ見てる俺、嬉しくて泣けてきた》
『みんな良い反応してくれるね〜。そこまでみんなが言うならスケジュール調整してみようかな。多分だけど来週くらいにはできそう』
葵の思った通り、まだ配信は終わってなかった。今もスマホには、白波フウカの雑談配信が流れていた。
猫耳を生やした可愛いVtuberのアバターが、配信の中で楽しそうに話している。歌枠の話題に、コメント欄も随分と賑わっているらしい。
もし彼女と急遽コラボ配信を始めたVtuberがいるなら、同じ配信画面に映ってないといけないのだが……
『でもさぁ〜、そこは親ならマスターが配信してなくても私の切り抜きとかアーカイブ見たりしないかなぁ?』
なぜか不思議なことに、たった今しゃべった女の後ろ姿は――その配信画面の外で動いていた。
「……は?」
あまりにも理解できない光景に、葵の思考が停止した。
どう見ても、おかしな光景だった。
スタンドに置かれているスマホの画面上部には白波フウカの配信が映っていて、そして画面下部には配信を見ている視聴者たちのコメントが流れている。
本来なら、それ以外スマホに映ることはない。
そのはずなのに、どうして配信のコメント欄を隠すような形でVtuberの後ろ姿が写っている?
『もしかして、ママって娘の私よりフウカちゃんの方が好きなのかな?』
不安そうな声を漏らしながら、見知らぬVtuberのアバターが揺れる。
よく見ると、かなり癖のある後ろ姿だった。
左が黒、右が赤のツートンカラーで、かなり変わった髪色をしている。長い髪のせいで、彼女の服装はよく見えない。
だが、それでも動いている後ろ姿を見てしまえば、そのイラストがVtuberのアバターだと判別できた。
『私のマスターだってフウカちゃんに負けてないのになぁ。まぁチャンネルの登録者数は比べたら負けちゃうけど、配信のトーク力だって私のマスターも負けてないし、キャラの可愛さも負けてないつもりなのに……』
唖然とする葵を
それはまるで、白波フウカの配信を見ているような話し方だった。
「……なんだよ、これ」
あり得ない。その言葉が葵の脳裏を過った。
詳しくないが、Vtuberが配信をする上で必要なことは葵も聞いたことがあった。
ライブ配信は、配信者がパソコンやスマホを使って行うものだ。更にVtuberのアバターを動かすことも、当然だが配信者側で行われる。
つまり、視聴者が見る配信画面外でVtuberのアバターが動くことは絶対にあり得ない。それができるのは配信者しかいない。
だからこそ、こうして葵のスマホでVtuberのアバターが勝手に動いていること自体があり得ない話だった。
葵はVtuberなどではない。ただの視聴者のひとりでしかないのだから。
『やっぱりママ、他の子も見てるのかな? 流石に私が1番だとは思うけど、まさかね?』
そのことを踏まえるなら――今もこうして葵のスマホに映っているVtuberのアバターは、どうやって動いている?
『うーん。すっごい気になるけど、流石に他人の視聴履歴を勝手に見るのは……でも気になるし、むー』
すごく悩んでますと言いたげに、得体の知れないVtuberが何度も唸る。
もしかすると
スマホがウイルスに感染する心当たりなど葵にはまったくなかったが、そうでもないと今の状況が説明できなかった。
『……あれ? でもよく考えたら他人の視聴履歴を勝手に見ちゃうのはダメだけど、私のママなら私の家族ってことだし見ても良いんじゃない?』
「いや、普通にダメだろ」
たとえ家族が相手でも、その手の履歴は勝手に見て良いものではない。
まるで名案を思い付いたと呟く彼女に、思わず葵が指摘した時だった。
『……ん? 今の声って?』
葵の声を聞いた瞬間、ピタッと見知らぬVtuberが動きを止める。
そして、次の瞬間――
突然、彼女がスマホの中で振り返った。
「うわっ……!」
予想外の出来事に、
しかし驚いている葵を前にしても、スマホに映る彼女は振り返ったまま動かなかった。
それはまるで、目の前にいる葵から目が離せないと言いたげに。
『あの……ちょっと聞いても良いかな?』
スマホを見つめたまま硬直している葵の耳に、彼女の声が響く。
一体、それは誰に向けた声なのか?
その時、葵の心臓がドクンと跳ねた。
いや、そんなはずがない。
その言葉が、自分に向けられた言葉だと誰が思えるか。
『もしもーし? そこにいる君に聞いてるんだけど?』
「……お、俺のこと言ってるのか?」
『そう、君のこと』
……ちょっと待て?
もしかして今、コイツと会話してなかったか?
あり得ない出来事に、葵の頭が更に混乱する。
だが、葵が困惑しても彼女は言葉を止めなかった。
『もしかして、君が大宮葵君だったりする?』
どういうことだ?
なんでコイツが、俺の名前を知っている?
「なんでお前、俺の名前を知って……」
思いもしなかった彼女の問いに、葵から震えた声が漏れる。
その瞬間、なぜかスマホに映る彼女の表情が一変した。
『わぁ! 君が大宮葵君! 一体どんな人が私のママかと思ってたけど、こんなにカッコイイ人が私のママとは流石に思わなかったかも!』
「……は? 俺が、お前のママ?」
一体、コイツはなにを言ってるんだ?
満面な笑みを浮かべている彼女に、葵は理解できないまま、ただ困惑するしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます