第15話「実力」
木剣を構え、互いの間合いを探り合うケニとロン。張り詰めた空気はなく、好奇心だけがあたりに満ちていた。
「いやぁ、まさかこんなところにいるなんてさ。ちょっと探したじゃんかよー」
ケニは口角を吊り上げて笑みを見せた。しかし、その目は獲物をどう調理するか思案する狩人の目をしていた。
ロンは鼻で笑い、鋭い目つきで指摘した。
「お前、結構な数の命を奪ってきているだろ」
「へぇ、わかるんだ?」
ケニは剣を深く構え、悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「君も、こっち側の人間だろ?」
「へっ、なんのことやら分からんな」
「シュウトが言ってたザーゲンって……君のことだよね。特徴が全部一致してたから、驚いたよ」
ケニの声音にはからかいが混じっていた。ケニは確認するように続ける。
「君がザーゲン・クライエツだよね」
ロンが答えようとすると、ケニが釘を刺した。
「嘘はダメだよ。君の目を見ればわかるから」
だが、ロンは自分がザーゲンであることを潔く認めた。
「まぁ、そうだな。俺がザーゲンだ。あいつらは俺をちょっとすごい編入生だと思っているが――実際は殺人鬼だ」
「どうだ? これで満足か?」
ロンがケニに確認するように聞いた。しかし、ケニは続けて質問をした。
「じゃあ、ガーナーを殺したのはロン?」
「ガーナー団長のことか。あんな奴に勝てるわけないだろ」
ロンはきっぱりと即答した。ケニは少し驚き、1秒ほど黙り込む。そして再び口を開いた。
「なるほど、違うんだね。それが知りたかった」
その言葉と共に、ケニの表情と辺りの空気が少し緩んだ。
「お前、一体何を考えてやがる」
ロンの眉間に皺が寄る。
「よく言われるよ、その言葉」
その声と同時に、ケニの姿はすでにロンの背後にあった。伸びた手がロンのナンバープレートを狙う。
ロンは木剣を振り抜いた。ケニは軽やかに後方へ跳び、ひらりとかわす。
「危ない危ない」
「それはこっちのセリフだな」
(見えなかった。いつ動いた?)
ロンが警戒を強める一方で、ケニは余裕そうに目を細める。
ドォン!!
次の瞬間、地面が爆発したかと思うほどの踏み込みでロンが突っ込む。しかし、ケニはその瞬間にはもうロンの懐に入り込んでいた。ナンバープレートへ伸びた手を、ロンは咄嗟に掌で覆う。
ケニは素早く後方へ跳んだ。同じくロンも後方に跳ぶ。
「それ、ずるくない?」
「手で隠すなって言われてないからな」
ロンが言葉を言い終えるや否や、ケニは猛突進して再びロンの懐に潜り込む。
ロンはそれに素早く反応し、木剣を振るった。
カンッ
木剣同士がぶつかり合う。さらに連続して――カンッ、カッ、カッ、カンッ、と響く。そしてそのまま鍔迫り合いとなる。
「お前、何者だ」
ロンが問い詰める。
「俺? ただの生徒だけど」
「違ぇ。裏の顔だ」
「……バレてるか」
ケニは一拍置き、不気味な笑みを浮かべて言い放った。
「殺し屋だよ」
「やっぱりな。どうりで強ぇ」
ロンは納得したように頷き、そのまま後ろへ下がる。ケニは追撃しようと間合いを詰め、斬り合いとなった。カンッ、カンッと木剣が高速でぶつかり合う。
数秒間の斬り合いの中で、少しずつだがロンが押され始める。そして、とうとうケニの横凪がロンを捉えた――はずだった。
シュッ
なんとロンは、ギリギリで半歩後ろに引き、攻撃を掠める程度に抑えたのだ。
「あっぶねぇー!」
しかし、ロンの胸元にはナンバープレートがなかった。ケニは煽るように、ロンのナンバープレートを見せびらかす。
「これなーんだ!」
「なっ!」
(いつ取られた!?)
驚きを隠せないロンに対し、ケニはどうやって奪ったのかを説明し始めた。
「ロンがギリギリで回避しようとした時、剣の先端でプレートを切り落としたんだ。そのまま剣身を伝わせて、俺の手まで滑らせた」
ロンは驚愕した。なぜなら、その一瞬にものすごい技術が組み込まれていたからだ。
「ということで、俺の勝ちね」
ケニはそのまま後ろを向き、場を後にした。現実を突きつけるその言葉に、ハッとしたロンはぽつりと呟く。
「気に食わねえ」
***
「ロン、遅いわね」
ソラが退屈そうに呟いた。
「遅いっすね、ロンさん」
リバーンは少し心配そうに空を見つめる。その時、リョウコが冗談混じりに言った。
「もしかしてロンくん、そこら辺で寝てるんじゃない?」
「ありえそー」
マイが呆れながら言う。その時だった。
「やぁやぁ。皆んな元気してるー?」
ソラたちが入っていた家の方向からケニがやって来た。皆の視線がケニに集中した。
ソラは警戒しながらケニに問いかけた。
「ロンを見なかった?」
ケニは挑発するように答える。
「さっき戦ったよ。んで、勝った」
ソラが睨みつける。リョウコとマイはケニの隙を探っていた。ケニが思いきり踏み込む。その踏み込みは静かで、リョウコとマイの反応は数秒遅れた。
リョウコとマイが慌ててケニを止めに行く。しかし、ケニは流れるように二人のナンバープレートだけを奪い去っていく。
ソラが素早く右手を差し出す。人差し指にはめている指輪が微かに光を放った。ケニはそれを見逃さなかった。
(シュウトとナオキが倒れた原因は、あれか。範囲はざっと直径三十メートルくらいか?)
ケニは避けられないと判断し、一瞬でソラの懐に入り込む。ソラは目を見開き、後ろによろけた。
ケニはそのままソラのナンバープレートに手を伸ばす。そしてプレートを掴んだ瞬間だった。ソラの姿がかき消える。
「消えた!?」
小声で放たれたその言葉には、少しの驚きが混じっていた。
ケニは急いでソラの気配を探り、見つける。そして、ソラがいる方へ顔を向けるほんの一瞬、謎の力に弾き飛ばされ数メートル先の壁に衝突する。
ドン!!!
「ガァ!?」
壁は凹んでヒビが入るほどのとても強い衝撃だった。
さらに次の瞬間、ケニの胸についていたナンバープレートが突然、外れてそのまま空中に浮きはじめた。フワフワと空中を真っ直ぐ進み、やがてソラの手に捕まる。
「私の勝ちよ」
ソラが勝ち誇った表情で言い放つ。
「……強すぎでしょ」
ケニは苦笑しながら、ため息をついた。
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