第13話「属素」

一年F組の教室は、騒がしさに満ちていた。話し声や笑い声が辺りに響く。


だが、時計塔の鐘が鳴ると同時に、生徒たちはそれぞれの席へと戻り、その喧騒は少しずつ静まった。


やや遅れて、ミツシデが教室に入ってくる。生徒たちの顔をざっと一瞥し、教卓の前でぽつりとだるそうに告げた。


「はい。というわけで、明日から七日連続で訓練がある。体力訓練、対人訓練、対魔物訓練の三つだ」


生徒たちは火をつけられたかのように騒ぎ出した。


「初任務の後に訓練!? 普通逆じゃないの?」「大変じゃん! 嫌だなー!」


ミツシデはため息をついた後、教卓を叩いた。


バンッ!


打音が教室に響き渡る。生徒たちはポカンと驚き、静まり返った。


「それと、もう一つ。初任務の成績発表なんだが——全員0点だ」


二秒ほどの沈黙。そして、再び騒ぎ出す。


「おい、おかしいだろ! なんだよ0点って!」「なんで今さらなんだよ!」


生徒たちは怒りながらミツシデに抗議する。だが、ミツシデはナイフを取り出し、殺気を放った。


「いい加減に黙らないと殺すぞ」


生徒たちは再度静まり返った。


「それじゃあ、お知らせは以上だ。お前ら、一時間目の準備をしとけ。担当は俺だ」


そう言って、ミツシデは教卓の上で授業の準備を始めた。シュウトが時間割を確認する。


「一時間目は『属素学』か。よくわからんやつだな」


(これがザーゲンが言ってたやつか?)

シュウトは昨日、ロンが言っていた言葉を思い出しながら授業の準備をした。


鐘の音が鳴る。授業が始まり、ミツシデが黒板に「属素」と大きく書き始める。


続けて、ミツシデはチョークを持ちながら、つまらなそうに「物理属素」「生属素」「空属素」「炎属素」と書いた。


「まず、お前らは中学校で属素を“属性”って習ったと思うが、はっきり言うと属素は属性ではない」


あちこちから小さな声で「え? どういうこと?」と呟く生徒が多数いた。


「属素は『世界を構成している粒子』だ」


ミツシデは生徒の反応を無視して続ける。


「例えば、物理属素はこの物理世界を作っていて、精神属素は精神世界を作っている。生属素や炎属素などは、身近な法則を引き起こしている。まぁ、現代科学に“属素”という存在を足しただけだがな」


ミツシデは黒板に書いたものを消しながら、機械のように話を続け、新しく書き始めた。


「属素は種類によってその役割も違う。今から二十四種、全部書く。中学の復習だ」


ミツシデは一気に属素二十四種すべてを書き出す。


「物理属素、精神属素、炎属素、水属素、草属素、岩属素、風属素、雷属素、氷属素、鋼属素、恋属素、空属素、生属素、死属素、崩壊属素、闇属素、光属素、転属素、全属素。

そして未だに解明されていない属素――時、虫、縁、星、体。これで全部だ」


呪文のように読み上げる。ミツシデはチョークをコトンッと置き、補足した。


「覚えていると思うが、所属属素以外の属素も使えるからな。それと、属素と星は別々のものだ。関係性はまったくない」


ミツシデが説明を終えると、鐘の音が学園全体に響いた。まだ授業が始まって十分も経っていない。


「鳴ったな」


ミツシデがぽつりと呟いた。生徒たちは困惑する。それはシュウトやソラも例外ではなかった。


「いくらなんでも授業終了が早すぎる」


シュウトが警戒する。だが、その必要はなかった。ミツシデがパンッと手を叩く。


「それでは、今から体力訓練を開始する。お前ら、校庭に集まれ」


その一言で、教室は驚きに包まれた。


***


体力訓練一日目。シュウトたちは森を走っていた。決められたコースは約30kmで、森の中には訓練用の的が置かれている。


「今、何周したんだ?」


シュウトは息を切らしながらも走っていた。隣を見ると、ベトは苦しそうにしていた。


「はぁ……はぁ……限界ぃ……だぁ……」


ケニも後ろで弱音を吐きながら、ゆっくりと走っている。


「俺も疲れた。早く休みたいよぅ」


シュウトは前を見る。

(まだ13kmなのにこの疲れ具合……やばいな)

心の中ではシュウトも疲れを感じていた。


***


体力訓練二日目。森でのランニングが終わると、次に懸垂一万回をする。シュウトとリバーン、ゴトウが頑張って懸垂をしていた。


「305、306、30……7」


シュウトは力なく懸垂棒にぶら下がる。地面についたら回数がリセットされるからだ。


「腕がもう、パンパンっすー!」


リバーンが音を上げ、動きが止まる。


「シュウト、リバーン動き止まってるぞ」


ゴトウが二人の動きが止まっていることを指摘するが、ゴトウも止まっていた。

しかし、シュウトの左側ではとてつもない速さで動く影があった。突如動きが止まる。動いていたのはロンだった。


「へっ、シュウト。お前遅いな。俺はもう千回やったぜ」


そして再び、ロンが高速で動き出す。シュウトは呆然とそれを見ているだけだった。


***


体力訓練三日目。懸垂一万回をした後、競技用の水泳着に着替えて、10kmの幅を持つ湖を泳ぐ。


シュウトがストレッチしていると、エイが近寄ってくる。


「シュウト? あなたって泳げるわよね?」


エイがシュウトに質問する。


「まぁ、泳げるが……」


シュウトがそう返すと、エイは嬉しそうに提案した。


「そう! じゃあ、どっちが先に向こうに辿り着くか勝負しましょう? 私が勝ったら婚姻届にサインしなさい」


「まぁ、いいが。だが、婚姻届にはサインしないぞ」


そう言ってシュウトは勝負を受けた。リーディーが審判を務める。


「位置について、よーい、ドン!」


リーディーが言い終わると同時に、二人は湖に飛び込んだ。泳ぎ始めると、若干シュウトが負けていた。その隣ではリョウコが溺れていた。


「オボボボ! (助けてー!)」


「リョウコくん!? 大丈夫か、今助けるぞ!」


リーディーが湖に飛び込み、リョウコを救出した。


***


体力訓練四日目。湖での水泳の後は、属素操作の「集める」を二時間し続ける訓練だ。


マイはすでに残り三十分ほどでこの訓練を終えようとしていた。


「ふふ、私にとってこれは簡単な作業ね」


しかし、シュウトは五分あたりで属素が散ってしまう。


「難しいな。どうやったらできるんだ?」


シュウトはいくらやっても五分が限界だった。すると、それを見かねたマイが寄ってきてアドバイスをくれた。


「シュウトくん? 属素を凝縮しようとしてるからよ。もっと優しく」


「こうか?」


シュウトの手のひらから炎が出てくる。それを見たマイは驚いた。


「すごいわね。炎属素の使い方のコツをもう理解したわ」


マイはシュウトを褒めた。

(この訓練は楽しいな)

シュウトは内心、楽しそうだった。


***


体力訓練五日目。属素操作耐久をした後、最後に森を百八十分間走り回る。


シュウトは木などの障害物を利用しながら森の中を駆け回っていた。周りにはソラやナオキが走っているのが見えた。


最初は風を切るような爽快感に満ち、シュウトは楽しく走り回っていた。だが、次第に疲れていった。


(あと三十分の辛抱だ。ここを耐えれば、明日は休みだ)


シュウトは嬉しそうに走り続けた。だが、足はすでに限界に近かった。幾度となくつまずいて転びかけたりもした。


***


そして土曜日、学校があった。シュウトは机に突っ伏していた。


「まだあるのか、訓練……」


リョウコがだらしなく座る。


「もう、疲れた〜」


その時、ミツシデが教室に入ってくる。


「お前ら、お疲れだったな。今日で体力訓練はおしまいだ」


その言葉を聞いたシュウトとリョウコは飛び上がる。他の生徒たちも、水を得た魚のように元気になった。だが、訓練は終わりではなかった。


「今から対人訓練をする。好きなやつと五人ペアを組んで、訓練用スタジアムに集合しろ」


ミツシデはそう言い残して、教室を後にした。生徒たちは絶望していた。


リョウコが悲鳴に近い声を上げる。


「酷いよー! 地獄の体力訓練の後はゆっくり休めるんじゃなかったの?」


エイが冷静にツッコむ。


「七日連続で訓練って言ってたわよ」


ソラが苦笑いしながらリョウコに提案する。


「リョウコちゃん。私と組まない?」


それを聞いたリョウコはソラの手を取り、目を輝かせながら答えた。


「いいの? やったー!」


こうして五人ペアのグループができた。

シュウト、ベト、エイ、ケニ、ナオキの班。ソラ、リョウコ、マイ、ロン、リバーンの班の二班に分かれた。


「それじゃあ! 訓練用スタジアムにレッツゴー!」


リョウコが元気よく明後日の方向を指差した。そうしてシュウトたちは訓練用スタジアムに向かったのだった。


「俺たち、余ったね」


「ああ、僕たちは他の人と組もうか」


ゴトウとリーディーは、シュウトたちの背を見送りながらそう呟いた。

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