六本木ホスト、治世666年の魔王の最愛になる

ななか

1 六本木ホスト、異世界の聖女♂になる

1 プロローグ

「せいぜい私を愉しませよ、人の子」

 ぎしり、とラブホみたいな天蓋つきベッドが軋む。

 樋渡琉星ひわたしりゅうせい、二十三年の人生で初にして最大の、貞操の危機だ。

「ちょ待って。逆だと思ってたんだよ。いや、逆も結構きついけどさあ?」

 仕事柄、トーク力は並みより優れているはずが、追い込まれ過ぎて振るわない。

(口でだめなら、力じゃもっとだめだろ)

 すべらかな黒いシーツの上を、あとじさる。

 そのぶん目の前の男が身を乗り出してくる。

 身長百七十八センチと、日本じゃ決して小さくない自分より、ひと回りでかい。百九十センチはあると思う。

 銀刺繍入りの膝丈ジャケットに包まれた肩も胸板も逞しい。おまけに手も大きく、黒く塗られたつめが長かった。

 組み敷かれたが最後、逃げられまい。

 男は腰まである銀髪を揺らして、愉しげに笑う。

「怖がってみせるのもまた一興か」

 白目と黒目の色が反転した、二次元じみた瞳に射竦められた。ごくりと唾を呑み込む。

(い……やいや。そーいう演技じゃなくてね。言葉通じてる? これ)

 冷たく乾いた手に、髪を撫でられる。わざと毛先を外して白金にブリーチし、長めの前髪をくしゅくしゅ散らしたこだわりの髪を。

「帰る家はないのだろう? 人間のほうがよほど怖ろしいではないか」

 愛おしげな仕草と裏腹に酷薄な台詞を吐く彼の名は、ニエーヴァという。

 この異世界の魔王、だそうだ。

 セックスがめちゃくちゃ好きらしい。


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