第5話
(オレオ王国 東の街 ホーロビル ホーロビル中央病院)
あのゴミみたいな名前をつけられてから3日ほどたった。
僕の身体には新しい足と鼻が生えている。ある程度自由に動かせるし、味もする。すこし足の結合部分が常にヒリヒリして痛いが、まあ3日もすれば慣れてきた。
おそらく長い時をかけて何も感じなくなっていくだろう。 そうでないと困るのだが…
久しぶりに病院食、もとい雑草にしか見えない薬草が練り込んである健康的な食事をとっている。
もちろん死ぬほど(もう死んでいるが)美味しくはない。しかしお腹が常に空いているのでありがたい。
それよりも何気に、ふかふかなベッドで食べて寝て食べて寝てを繰り返す自堕落な日を過ごせることが、すごく新鮮で嬉しく楽しい。
こんな日を過ごすのは久しぶり…というより初めてという感覚すらある。
前世では社会人時代はもちろん、幼少期や青年期でもそのような日々を送ったことはない気がする。
働き詰めで土日祝日出勤は当たり前だったし、子供時代も両親からたくさん勉強をさせてもらった。ありがたいことだ。とてもめぐまれている。
毎日学校帰りに塾へ行き、たくさんの問題集を解き漁り、宿題を完璧な状態で提出をしていた。土日祝日も、もちろん塾。宿題は、学校からのもの、塾からのもの、両親からのものと、3種類の宿題をしていた。
基本的に学校の宿題は出される前に終わっていた。
学校から支給されるワークブックや問題集などはすぐに解き終わるからだ。 強いて言えば音読カードくらいだろうか。両親は忙しいので、自分で録音したものを自分で聞いて、納得するまでやっていた。
塾の宿題はやりごたえさえないものの、予習復習には持ってこいだった。何気に基礎を固めて置かなければ応用などもできないので、欠かさずやっていた。
思い出深いのは両親からの宿題だった。
とても楽しかった。頑張れば頑張るだけ両親は褒めてくれたし、すこし気を緩めれば徹底的に教育された。
例えば5歳のとき、水の沸点を聞かれ、答えられなかったことがある。そのときは両親はとても優しく教えてくれた。
実際に熱さを体験させてくれたのだ。
ママがやかんでお湯を沸かし、パパが僕の右足にかけてくれた。靴下を履けば分からないようにしてくれたので、小、中、高、大、と、クラスメイトから馬鹿にされることはなかった。
パパは5歳の僕の将来を考えながら教育してくれたのだ。感謝しかない。
「どうだ?【僕の名前】。笑 熱いだろ?笑
大体何℃くらいかわかるか?笑」
「えっと…えっと…100℃…?」
「そうだそうだ!その通り!笑 やっぱり【僕の名前】は天才だなぁ?笑 かわいいぞぉ?笑 (頭をガシガシと撫でてくれた。)さすがは俺の子供だ。笑」
両親からの宿題をこなすと、その日のご飯を食べさせてくれた。水の沸点を教わったその日は、僕が大好きだった一口ハンバーグを、ママとパパが作ってくれた。我が家のハンバーグはつなぎのパン粉が入っていなかったので、肉肉しいハンバーグだった。
しかも、その日は珍しくプリンまでくれたのだ。
幸せだった。
ある日1日だけ僕は両親からの宿題をサボってしまった。小学生のときインフルエンザにかかったのだ。
その日出された宿題は力点支点作用点。つまりテコの原理だ。身の回りにあるもので、テコの原理を使ったものを8個見つける。という宿題だ。
インフルエンザだったので、家の周りにあるもので完結できる宿題にしてくれたのだ。本当に思いやり深い両親だ。
なのに僕はその日、頭がぼーっとして気持ちよくなって寝てしまった。
両親が帰ってきた。そして答え合わせの時間がきた。
「【僕の名前】ちゃん、8個見つけられた?笑 【僕の名前】ちゃんは私とダーリンの子供だから、倍の16個くらい見つけてるかしら?笑」
「ごめんなさい…ハサミしか見つけられなかったです…」
「……は?もっかい言ってみろ。」
「ハサミしか見つけられなかったです…ごめんなさい…ごめんなさい…」
「……ダーリンー?ちょっと来てー?」
「どーした?」
「この子ったら、ハサミしか見つけられなかったんですって。」
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
「…【僕の名前】?泣いても意味ないだろ?どーしてサボったんだ?」
「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」
「……泣くなようるせぇなぁ!!!(僕の頬を平手打ちした。グーじゃなかった。パーだった。パパの優しさが伝わる。)」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「…ちっ… …なんだって?ハサミ? ハサミだけ?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「…はぁ…話になんねぇ。 おい、【僕の名前】。指だせ。小指。」
「…え…?」
「早くしろ!!」
「ごめんなさいごめんなさい… (僕はそっと左手を出した。 パパはズンッと僕の左腕を引っ張った。)」
「…(一番大きなハサミを取り出した。)…おい。タオル噛んどけ。」
「ごめんなさいごめんなさい…(ママに口にタオルを巻いてもらった)」
「よっと。(僕の小指がバッサリと切られ、指が落ちる。 ママがそれを拾ってフライパンで焼き始めた)」
このときはさすがに痛かった。でもインフルエンザだったので、通常とは違い、ぽわぽわしていてすこし感じにくかった。
パパはあまり痛みを与えないように、このときにこういう教育をしてくれたのだ。とことん優しいパパだ。
この日のご飯は僕の小指だった。僕が好きなニンニクが効いたトマトソースで食べさせてくれた。
宿題をサボったのに、ご飯までくれたのだ。本当に優しい優しい両親だ。
とても思い出深い…本当に本当に優しい両親だった。
でもある日、両親は交通事故で亡くなった。
中学2年生の時だ。
車のブレーキが利かず、そのまま二人っきりで海に落ちたらしい。
死ぬまで一緒だよとはよく言うが、あの二人は本当にずっと一緒にいて、一緒に亡くなった。両親がいかにお互いを愛し合っていたのか、想像に難くない。
両親が亡くなってから、僕には3000万円の借金ができた。
これを返済するのが、両親から与えられた最後の宿題だったのだ。前日にパパとママから直接言われたので間違いない。 結局返済できたのは大学4年のときだった。思ったより早く完済できた。
僕は両親が亡くなってから、最初は叔父さんにと叔母さんに拾われ、最後には高校2年生の時の担任の先生だった、海老原先生に拾われた。
高校は叔父さんと叔母さんに行かせてもらえ、大学は海老原先生に行かせてもらった。
叔父さんと叔母さんは、高校に行くならちゃんと学費分働けと言ったので、家事や料理、時々叔父さんや叔母さんの欲求を僕の身体で満たして、高校に通っていた。
当たり前だ。お金を出してもらえるのだから、それくらいのことはして当然だ。
…なのに海老原先生はすこし気味が悪かった。
何も言わずにただ、
「好きなことを若いうちに好きなだけしなさい。それが健全なものなら、全力で応援する。
お金のことは心配するな。【僕の名前】は好きなことを、好きなだけ勉強してきなさい。
恩返しやらなんやらしなくていい。気持ちだけで十分だ。
とにかく、幸せになってくれ。」
まるで僕が今まで幸せじゃなかったと言っているようで ん? と思ったが、大学に行かせてくれたので我慢した。
とはいえ恩返しをするなと言われて、しないという選択をできるほど、ゾンビほど腐ってはないので、必死に働いて必要経費以外のお金を仕送りした。
なぜか海老原先生は号泣していたが、そんなにお金が欲しかったのなら、なぜ僕を大学に行かせたんだろう。今でも不思議だ。
でも海老原先生が笑っていると、僕もなぜか泣くほど嬉しかった。
…今頃どうしているんだろう。泣くほど僕の仕送りが嬉しかったのだから、今度は貰えなくなって泣いているかもしれない。笑
…単純に心配、いや、
また会いたい。
……(ガラガラ! ドンッ!)
「……おーい!♡♡♡ 今日もお見舞いに来たぞー♡♡♡」
「げっ!」
「なんだー?そのかわいいかわいい反応はー?♡♡♡
…体調はどうだ?ぷりちぃぷりぷりキュンキュンぷんぷんゾンくん♡♡♡」
「…昨日も言いましたよね?その名前やめてって。」
「そんな酷いこと言うなよー♡♡♡♡もー♡♡♡♡
あーかわいい♡♡ かわいいねぇー?♡♡ よしよしよしよし♡♡♡♡♡♡(少し冷たく硬い手で頭を優しく撫で、顎をこちょこちょしてくる)」
「僕、犬じゃないんですよぉ?? いい加減ぶん殴りますよ??」
「きゃ♡♡ ぷりちぃぷりぷりキュンキュンぷんぷんゾンくんに酷いこと言われたらちょっと嬉しい♡♡
こんな感覚初めてかも♡♡♡♡
ねぇーえ?♡♡♡もういい加減さぁ?♡♡ちゅーとかしていいー?♡♡♡♡私たち付き合ってるって言っても過言じゃないでしょぉお?♡♡♡♡
お姉さんが、ぷりちぃぷりぷりキュンキュンぷんぷんゾンくんの初彼女になってあげるよぉ?♡♡♡♡
そういうのが気になるお年頃でしょお??♡♡♡」
「キモいんでムリです。セクハラですよ?」
「セ…セク? え、なに?
まあいいや♡♡♡ たぶん罵ってくれてるんだよね?♡♡♡
ありが… いや、ごめんね?♡♡♡♡
お詫びにぎゅーしてあげる♡♡♡♡」
「お詫びじゃなくて拷問の間違いですよ?」
……と、ここ3日はこんな会話しかしていない。
海老原先生…助けてください…
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