020話 ツンデレと完璧

昼休み、俺達5等級クラスは全員食堂へやって来た。

原則、寮生活をしなければならないこの学校では、昼食として、寮母さんの弁当か食堂の料理のどちらが選べる。

弁当を選ぶ場合は、当日の朝6時までに冷蔵庫に貼られたホワイトボードへ名前を記載する必要があるのだが、昨日の夜から今朝に掛けてはあの有様だ。

誰1人として申請してない。


てか、よくよく考えたら、寮母さんは一度あの荒れたリビングを見たんだよな。

いくらなんでも大目に見てくれすぎではないだろうか。

怒鳴られても仕方ないレベルではあったと自覚している。


それにしても人が多いな。

食堂での昼食は憧れるシチュエーションであることに加えて、お金を追加で払う必要がないことが人を集める理由だろう。

犬子、彩、小白、二階堂に鳳凰院とここまでやって来たのに、これじゃあな。

テーブルは所々空いているが、日本人特有の1つ飛ばしで間隔を空けて座っているだけなので、一緒に昼食を食べるのは難しい。

ここは諦めて散り散りになって各々で食事を摂ることにした。


今日のメニューであるカラーの乗ったトレイを持って、どこに座ろうかと食堂を徘徊する。

座ってしまえばどこも同じだけど、なるべく女子生徒の隣は避けようとか、うるさい奴らの隣は嫌だなとかを考えている内にドンドンと席が埋まっていく。

こうなれば、ヤケだ。

次に見た場所に座ってやる。

俺は全く必要のない覚悟を胸に、空いている席へと飛び込んだ。


「ふー、やっと座れた」


安心しているのも束の間。

俺が席に着いた途端、バタバタと両隣の生徒達が席を立つ。

チラッと視界の端に映ったトレイには、まだ皿に残ったカレーが見える。

なるほど、そんなに俺の隣が嫌か。

なら、最初から席を空けてくれたらみんなで座れたんだけどな。


チラチラと見られて食事するよりは幾許か楽なのも事実。

テーブル1つ貸切になったと思って呑気にカレーを食べることにしよう。


「美味そうだなー、いただき───」

「ちょっとアンタ!髪の毛ツンツンの金髪、アンタよ!」

「………ます」


カレーに乗った光り輝く温泉たまごへ、銀の匙が襲い掛かる。

飛び出す黄身の何たる美観。

荒々しくも食欲を唆るカレーの匂いと合わさると、食べてもいないのに満足出来るレベルだ。


「何無視して食べようとしてるのよアンタ!」

「アンタじゃねーよ、天野だから。んで、食堂で昼食食うのに何の問題があるの?」

「アンタの名前なんていちいち知らないわよ。問題大有りも大有り、アンタ落第生クラスでしょ?」


で、でたー。

果敢にも落第生クラスに文句を言いに来た英雄ってか?

周りから感じるアウェーな空気も気にしないようにしていたのに、わざわざ押し付けられたら無視も出来ない。

何を言い出すのかは分からないが、適当に右から左に受け流すスタイルで、さっさと話を切ってしまうのが最善と判断した。


「良い?ここは他クラスの生徒も使うのよ?それなのにアンタ達落第生クラスがここにいたら色々と酷いこと言われるわよ」

「ご忠告ありがとうな。話はそれだけならもう食べて良い?」

「あ、アンタの為に忠告したんじゃないんだから。ま、まぁ、次からは食堂じゃなくて弁当を用意することね。それなら、教室とか人気の少ない校舎裏とか屋上を使えば、目立つこともないもの」


こいつ、喋り方がツンデレだ。

デレの要素は1つもないから、厳密に言えばツンツンってことになるけど、どこに需要あるんだよその属性。


「俺だって来たくてこの食堂へ来たんじゃない。弁当を頼むの忘れてたんだっつの」

「本当バカね。今日はさっさと食べて場所空けた方が良いわ。じゃないと、来るわよ」

「来る?何が?」


そんな疑問はツンデレ子が答える前に消えていく。

俺達落第生クラスに向けられていた不快なノイズも、一斉に別の方向へと向けられる。

背中越しにも伝わる計り知れないオーラに、俺は思わず振り向いた。


見惚れる程の立ち居振る舞い。

歩くだけでも華のある容姿。

他にも見つけようと思えばいくらでも。

自己紹介された訳でもないが、彼女が1等級クラスの人間だというのは肌で感じた。


「ダメですよ、高飛たかとびさん。同学年の方をそこまで威圧しては。大丈夫ですか?天野天命さん。何か傷付くようなことを言われたりしませんでしたか?」

「げぇー、何5等級クラスの人間に猫被ってんのよ。そんなのするだけ無駄でしょ」

「猫なんて被ってないですよ。そんな可愛いらしい帽子あったら被ってみたいですけどね」

「猫型の帽子の話なんてしてないわよ、ったく。調子狂ったから私は行くわ。アンタも気をつけるのね、金髪」 


最初から最後まで苛立った様子を見せていた高飛というツンデレ少女は、1人の女子生徒によって逃げ去っていく。

これで静かに昼食を食べれるのだから、助けてくれた彼女には礼の1つくらい言っておくべきだろうか。

迷っていると意外にも先にアクションを仕掛けられた。


「始めまして、私は1等級クラスのあやと申します」

「何で下の名前だけ?もしかして、そういうのが相手との距離をぐっと縮めるテクニックだったりするの?」

「ふふっ。そういうことではありませんよ。ただ必要ないかと思いましたので」

「必要ない?それはどうして?」

「質問ばかりする男はモテませんよ?偶には自分語りも必要です」


恋愛を学びに来る学校でモテないってのは禁句だろ。

そんなのは百も承知の上で5等級クラスにいるんだから。

あんまり酷いこと言ってると泣くことになるぞ。俺が。


「1等級様がわざわざ5等級に話しかけない方がいいんじゃないか?見てみろよ、外野がうるさくなって来てんだろ?」


気付かなかったとでも言いたいのか、わざとらしく周囲を見渡す。

そうして、ようやく納得したのか、うんうんと小首を動かしてリアクションを取る。


あざとい、あざと可愛い。

いちいちリアクションが男心をくすぐる。

だけど、どこか作られた偽物のようも感じた。

これが努力の賜物だと言うのなら、彼女が1等級クラスにいるのは必然なのかも知れない。

なんたって俺には真似出来ない芸当だ。


てか、俺があざといリアクションをしているのを想像するは、やめておいた方が良いぞ。

自分でも吐きそうになってんだから。


「な、なんか天命が1等級クラスに絡まれてるッスよ!」

「大丈夫ですか、天命様!」


流石にこれだけ騒ぎになれば、一緒に来ていた5等級クラスのメンバーも気付かないはずがない。

俺がいじめられていると思ったらしく、血の気を多くして助っ人へ入らんとしている。


「これでは私はお邪魔になりそうですね。それではまたお会いしましょう。天野天命さん」


人混みの中でそっと影となって彼女は消えていった。

見ていたのは幻なのではないか、そう思えるくらい唐突に。

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