悲しい記憶?
渡り廊下からいくつもの部屋の前を通過しながら、中庭に出ると図書館の前に着いた。
大きな館内の手前にフェンスドアが構えてある。
図書館も白いレンガで建てられている。
扉を開けて館内へ入ると、ここにも誰もいなかった。
このホテルには、本当に私以外
誰もいないみたいだ。
そして、ここも白が基調となっていた。
3階まであり、壁際にずらりと並んだ本棚には難しそうな本や、絵本、実用書などさまざまな種類の本が棚に分けて並べられている。
窓からは海が見える。
とても落ち着く空間だった。
読めない外国の文字やあまり見たことのないような本もあった。
図書館を周りながら本を選んでいると、あるタイトルが目に止まった。
"政府守秘録第17異世界編 第1節天界"
(何だろうこれ?)
ニュースで政治について見ることはあるけど、異世界という言葉を聞くことはなかった。
物語の中でこういう話を聞いたりすることはあるものの、どうも"政府"という文字が目に止まった。
分厚い本を手に取り、海が見える窓際の席に座って本を開く。
政府のものか、それとも誰かが作ったものかは分からないが、所々に絵が描かれている。
随分と古い本なのだろう。
ところどころページがなくなっていたり、少し汚れている。
パラパラとページをめくっていると、とあるページが目に止まった。
天界から落とされ、羽が黒く染まりかけている天使の挿絵。
何故だか私はこの悲しい情景を見たことがある気がする。
その下に、小さな文章がページの端までびっしりと書れている。
随分と昔の本なのだろう。
あまり見たことのない単語や表現で書かれている。
"掟破ルベカラズ"
"堕天シタモノ、天界へト戻ルコトヲ禁ズ"
掟?堕天?
2つの言葉が目に止まった。
掟とは何なのだろう。
そしてこの絵について、どこかで似たことを経験したような気がする。
天使はなぜ堕天しまったのだろうか。
ザザッ
その時、またモノクロの映像が流れた。
"私を消して、お願い!このままじゃ本当に死んじゃうよ。"
いつの記憶だろうか。
頭が割れるように痛い。
目の前には男の子。床に倒れ込み、顔に幾つもの傷。
白い髪は黒く染まりかけていて。背中の無造作に傷つけられた羽が床に散っていた。
酷く悲しい光景だった。
"ごめん、ルナ。俺にはできない,"
傷ついた彼の白い手が微かに震えている。
"嫌だ...死なないで、そんなの嫌だよ"
震える私の声がする。今見ている場面は私が泣きながら彼に言ったことなのだろうか。
"じゃあさ、代わりに俺の願い、聞いてくれる?"
そういうと彼は傷がついた手を私へ伸ばした
白く優しい手が髪に触れる
体が...小さくなってる?
視界がぼやけていく。背丈が低くなっているのか、天使の男の子の白い髪と羽がだんだんと黒に染まっていく。
筆についた黒い絵の具が水へ溶けるように黒に取り込まれていった。
ザザっ
映像が終わった。
頬に何かが伝った。
頬に触れると少し暖かく濡れていて、涙が流れている。
私はいつの間にか泣いていたようだ。
どうして彼はあんな酷い目にさせられてしまったのだろう。
彼は誰なのか?
本に書かれていたように堕天してしまったのだろうか。
映像では、あの男の子に触れられて、私の体が小さくなっていた。
どういうことだろう。
彼は掟を破って、あのような状況になったというのか。
もし、あの本が作り物ではなかったとしたら、政府はその事実を秘密にしていることになる。
気のせいか、あの男の子は白い服を着ていた気がする。
夢で見た白い服の人。
モノクロの映像に出てくる白い服の人。
「同じ...人?」
いくつもの疑問が頭に浮かび、ふとそんなことが頭によぎった時だった。
ぐらりと視界が揺れた。
何故か突然激しい眠気に襲われ、私は机に突っ伏した。
ぼんやりとした意識の中で、ガラス越しに海が見える。波の音が聞こえる気がする。
"俺の願い、聞いてくれる?"
あの男の子の言葉が頭から離れなかった。
(あの人は誰にあんな酷いことをされたの?)
あの後、彼の髪の色は黒くなった。
モノクロの映像と夢に出てきた黒い服の人と似ている...。
もしかして...さっきの人はやっぱり...。
そんな事を思いながら、波の音と共に意識が薄れていった。
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