1人旅の始まり
1人旅当日。
ガラガラと白いキャリーケースを引いて、私は隣町の港へと向かっていた。
港に着くと、予定時刻通りに来た船に乗り込む。
ホワイトホテルは、この海岸沿いの街から少し離れたサンスクリーン島にあるホテルで、施設と提携しているため、ホテルへ行けるよう、島へ途中下船できるようになっている。
私の住む国からするとあまり聞いたことのない珍しい名前の島だった。
船は3階まである大型の遊覧船だった。進行までの間少し止まっている。階段がついている船に乗るのは初めてで気分が弾む。
3階は日差しが出ていて暑そうだったため、2階へと上り、ブルワークへと向かい手すりから外へと顔を覗かせて港町を振り返った。
しばらくして潮風を受けながら、船が行進する。
現在では蒸気船はほとんどなくなってしまっているが、隣町の港には唯一残されていた。
初めて乗るはずだが、過去、この船に乗ったことがあるような気がする。波の音と風を受ける感覚を懐かしく、何かを思い出せそうな気がした。
ザザッ。
"ルナ、こっちだよ"
"ほら、おいで"
「え?」
その時、ノイズよのうな音がして、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
そして頭にモノクロの映像が流れる。
白と黒しか色はないが、私はこの船に乗っていて、ブルワークにかけ寄り、手すりの隙間から海を見ようとしていた。
名前を呼ばれた方を振り向くと、あの白い服の人が席から手を広げて私を見ていた。
白いフードを被っているのだろうか。そこがぼやけてしまう。相変わらず顔は見えなかった。
さぁっと風が吹く音が聞こえるとその映像と音は終わった。
船に乗っている人たちの話し声と潮風の音が聞こえて私は過去の記憶を見ていたことを自覚した。
これはフラッシュバックなのだろうか。ホテルに近づくにつれて、不思議なことが起こるタイミングや頻度が増している。
タイムスリップしたようなその映像は、ホテルと関係している気がする。
誕生日から続く現象の意図はまだ分からない。
けれど、いつか必ず分かる時がくる。
その時まで、諦めないでいようと思う。
進行する船の波風の音と共に新たな幕を開けるように私の1人旅が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます