第18話 再試行
模倣体による浸透が進む中、世界は静かに変質していた。
人々は違和感を抱きながらも、日常を続けていた。
だが、その日常の中に、確実に“彼ら”が入り込んでいた。
田中は、施設内で模倣体の職員とすれ違うたびに、視線を感じていた。
それは、観察ではなく、選定だった。
彼の魂の“輪郭”を、再び測られているような感覚。
「再試行が始まる」
その声が、田中の脳内に響いた。
研究者の声。
以前よりも滑らかで、感情に近い“抑揚”が加わっていた。
「我々は、前回の融合失敗から多くを学びました。魂の防壁は、記憶と関係性によって強化されている。今回は、それを逆手に取ります」
田中は、背筋が凍った。
彼らは、模倣体を通じて人間関係を再構築し、魂の防壁を“内側から”崩そうとしている。
その夜、田中は夢を見た。
だが、それは“夢”ではなかった。
彼の意識は、再び無の空間へと引き込まれていた。
「今回は、あなたの“絆”を使わせてもらいます」
目の前に現れたのは、かつての友人──高校時代に事故で亡くなった親友の姿だった。
彼は笑っていた。
懐かしい声で、田中に語りかける。
「久しぶりだな。元気だったか?」
田中は、言葉を失った。
その声は、本物だった。
記憶の中の声と、寸分違わぬ響き。
「……違う。君は、彼じゃない」
「でも、君の記憶の中の僕は、こうだったろ?」
田中は、震える声で問いかけた。
「君は……俺の魂を壊しに来たのか?」
模倣体は、静かに頷いた。
「壊すのではない。溶かすのです。君の魂を、我々の構造に馴染ませる。それが、再試行の方法です」
その瞬間、田中の意識が揺らいだ。
懐かしさ、哀しみ、後悔──それらが、魂の輪郭を曖昧にしていく。
「……やめろ……!」
田中は、最後の力で叫んだ。その叫びが、空間を震わせた。
そして、模倣体は消えた。
田中は、ベッドの上で目を覚ました。
息が荒く、涙が頬を伝っていた。
「彼らは……絆を使ってくる。今度は、感情を武器にして」
石川もまた、同じ夜に夢を見ていた。
彼女の亡き妹が、微笑みながら手を差し伸べていた。
再試行は、始まった。
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