第7話 最後の問い

佐藤の死は、施設内で静かに処理された。

公式には「急性心不全」とされたが、関係者の誰もがそれを信じていなかった。

田中は、最後の対話を胸に抱えたまま、報告書を書くこともできずにいた。


その夜、田中は一人で施設の庭に立っていた。

ベンチはまだそこにあり、佐藤が崩れるように倒れた場所には、風に揺れる落ち葉が積もっていた。


「……魂は、器から引き剥がすことが可能だ」


その言葉が、何度も脳内で反響する。

田中は、あの瞬間に感じた“何か”を思い出していた。

佐藤の身体が倒れたとき、確かに空気が震えた。

見えない何かが、そこにいた。


「これは、侵略のための最終確認だったのだ」


田中は、ようやくその意味を理解した。

研究者は、ただ観察していたのではない。

彼らは、人間の“魂”を解析し、それを模倣し、そして奪う準備をしていた。


翌朝、石川が田中のもとを訪れた。

彼女の顔は疲れていたが、目は鋭かった。


「佐藤の死について、あなたは何か知っているはずです」


田中は、しばらく沈黙した。

そして、ゆっくりと口を開いた。


「彼は……最後に、問いを残しました」


「問い?」


「魂は、肉体が滅びた後も、個として存在し続けられるのか──それが、彼の確認したかったことだと」


石川は、目を細めた。


「それは……彼らにとって、何を意味する?」


田中は、空を見上げた。

雲ひとつない、青い空。

そこに、何かが潜んでいるような気がした。


「彼らは、我々の“個”を理解した。だから、次は……それを使う」


石川は、静かに頷いた。


「つまり、これは終わりではない。始まりだ」


その言葉に、田中は背筋を伸ばした。

佐藤の死は、研究者の“移行”の合図だった。

そして、彼らはもう、準備を終えている。


その夜、田中は夢を見た。深い海の底で、無数の瞳が静かに開く夢だった。

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