悪役貴族、自分の楽しみを追求した結果原作ブレイクする。

桜路々

第一章 立志編

第1話 悪役転生、方針変更

「――まじか」


 朝食のリンゴに歯を立てた瞬間、記憶が噛み合った。

 ここはあのファンタジーゲームの世界。しかも俺は主人公じゃない。

 悪役貴族――レイ・アングルス、五歳。

 いわゆるざまあ枠、今は顔だけ良い傲慢ボーイ。


 姿見の前に移動する。

 鏡の前で深呼吸。金髪を紐で束ね、深紅の目がこちらを射る。


(うわ、本当にレイ・アングルスだ)


 顔はいい。中身はクソガキだ。だが――行動を変えれば、物語は変わる。


 俺は手を鳴らす。すぐ扉が開き、執事が一礼した。


「セバスチャン、魔法の練習を――」

「坊ちゃま、私はウルガスでございます」

「……ウルガス。魔法の教師を呼んでくれ。教わりたい」


 言い切った。これが最初の選択だ。


 ほどなくして、短い角とピンクの髪の女性が現れた。

 眠たげな瞳、鋭い気配。――ディア・ミスレイ。

 作中屈指の魔法使い。原作グラより美しいのはずるい。

 本来であれば、このままクビにした結果、主人公の教師になるのが本来のストーリ ーだがそんなことは知ったことではない。


「お前なんかに教えることはないと聞きましたが?」

「先生。俺、魔法がうまくなりたい。――だから、一番上手い人に習いたい」


 頭を下げる。メイドが息を呑み、ウルガスの眉がわずかに上がる。

 ディアは指先で髪を弄り、少しだけ視線を落とした。

 悩んでいる合図。俺は知っている。


「……仕事ですからね。そこまで言うなら、やりましょう。ただし甘やかしません」

「望むところです」


 まずは屋敷の一室。ディアが人差し指を掲げる。


「ライト。心臓から指先へ、魔力の流れを意識して」


 俺は内側へ潜る。青白いものが脈を打ち、指先に集まる感覚。


「ライト!」


 指先に小さな光球が咲いた。初魔法だ。胸が熱くなる。

 ディアの目が、ほんの少し丸くなる。

 

「一度で、ね。悪くありません」

「先生の見本が良かったから」


 次は庭の訓練場へ。

 ディアが掌を的へ向ける。


「スパーク」


 空気が裂け、雷が的を穿つ。音が腹に響いた。かっけぇ。


「やってみなさい。ただし屋敷では絶対に撃たないこと」


 俺は魔力を練り上げ、構える。


「スパーク!」


 雷は出た。が、的をかすめて石壁が焦げた。ウルガスが盛大にむせる。

 ディアは頷くでも、笑うでもなく――的を見たまま言う。


「当てること。魔法は出せば良いではなく、届かせるために出す。もう一度」


 その一言でわかる。この人、本物だ。


 何度も何度も、光を点し、雷を外し、また点す。

 夕暮れ、腕は鉛みたいに重く、息は火照って、でも心は軽い。

 才能で増長して負ける悪役から、少しだけ離れた気がした。


 その夜、俺は気づく。

 ――この世界、娯楽が少なすぎる。魔法の訓練を終えると、やることがない。

 書庫の物語は読み尽くした。ゲームも漫画も、配信も掲示板もない。

 人は、強さだけじゃ楽しくなれない。場がいる。


 だったら、作ればいい。

 魔法で、知をつなぐ網。遠くの誰かの言葉が、今ここに届く仕組み。

 前世の俺のように孤独な思いを少しでも減らし、娯楽を増やす!

 俺は布団を跳ねのけ、暗がりで小さく拳を握った。


「決めた。俺、この世界にインターネット作る」


 悪役が滅ぶシナリオ? 知らない。

 俺は楽しいを追求したい。


 翌朝も、ディアは容赦がなかった。最高の先生って、だいたいそういうものだ。


 娯楽が欲しい。

 でも、ひとりで作って自分で消費するだけじゃつまらない。

 舞台と観客がそろって、はじめて祭りになる。

 才能なんて心もとないけれど——それでも、楽しめていない誰かに場を渡したい。


 ならば、インターネットだ。

 剣と宝箱の冒険はどうにも性に合わなかった。だからディア先生との鍛錬の合間、俺は別の冒険を始めた。


 まず、記憶の器を探した。

 答えは水晶。魔力を通すと、見えない傷が薄く残る。

 その傷を「文字」に見立て、並べ替える仕組みを作る。指輪に細工をして、空中に小さな窓(ウィンドウ)がひらくようにした。そこに物語や告知——いわばサイトを映す。


 次は道だ。

 最初は杖に使う木の枝で試したが、鈍い。

 ミスリル線に替えた瞬間、雷みたいに魔力が走った。距離が、ほとんど消える。理由はまだ言語化できない。ただ、速い。笑ってしまうほど。


 端末は指輪に決めた。

 指をひねれば窓が開き、視界の手前に情報が浮かぶ。

 使った瞬間、その人の魔力紋が刻まれて専用機になるようにした。貸し借りで揉めないよう、端末ごとの番号も振る。いざというときの逆探知のためだ。


 場を開けば、必ず乱れも生まれる。そこで見張り役を雇う——呪文で使役する書記精霊だ。

 図書室の司書みたいに、誰が書いたか、どこに置くかを記録する。

 新しい書き込みがあれば指輪が光り、ささやかに震え、ときには機械仕掛けの声で読み上げる。


 最後に署名。

 公的な証明が必要になる未来は、きっと来る。

 魔法署名を実装して、まずは俺の個人印、父さんの印、そしてディア先生の印を登録した。三つの印が並んだ画面を見て、胸の奥が少しだけ重くなる。——運用には責任が要る。


 そうやって二年が、雷のように過ぎた。

 中世の世界にネットを差し込むなんて無茶だと思っていたのに、気づけば屋敷では指輪が当たり前になっていた。


 さあ、実験だ。

 初期機能は三つ――手紙(メール)、予定表(カレンダー)、そして掲示板。

 父さん、メイド長のロット、執事長ウルガスに管理権限を渡し、治安と意見集約をお願いする。


 窓がひらく。《試験掲示板/屋敷限定》

 最初の一行が灯った。


 『おはようございます(ロット)』


 指輪がかすかに震え、現実拡張ウィンドウが開く。

 俺は笑って、宣言した。


「——さあ、インターネットを始めよう」



◆ お知らせ 新作です。

「『異世界救済スタンプラリー 〜相棒の天使がちょいポンコツでした〜」

死にかけた少年が生き返るために相棒の天使と異世界を救う物語です。

https://kakuyomu.jp/works/822139839528452238


ちなみにAIを使っていないので更新頻度は維持できないかもしれません。




◆ お知らせ 旧作です。


「ゲーム好き異世界を攻略する。~ゲーム開始前にゲームクリアを目指します~」


死んだ少年に宿った少年が人類敗北の歴史を圧勝の歴史に変えちゃう物語です。


https://kakuyomu.jp/works/822139839528590196




こっちは小説家になろうで掲載してたものを載せるのでバンバン毎時更新していきます



◆ お知らせ 旧作です。




「エロゲ世界に悪役転生~俺がヒロインたちを攻略する~」




エロゲの学園アクションRPG世界に異世界転生主人公の話です。ちょいエロ注意




https://kakuyomu.jp/works/822139839988188583

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