トラックドライバーに ときめき
今日も朝のシフトが終わって、俺は昼過ぎからの渡り廊下での清掃に備えて休憩していた。いつもと違うのは、今日は駅の外のベンチではなく、駅横にある資材置き場近くの、小さな公園のようなところのベンチだということ。なにやらイベントがあるのか知らないが、人がわんさかといて、人混みの苦手な俺はたまらず逃げ出してきたのだ。
この辺りは人通りが少なくて、確かに俺の心には都合がいい。だが、それはときめき対象の出現率が低くなってしまうことも意味していた。今日は仕方ないか・・・。そう、あきらめかけて昼食のコロッケパン(スーパーで二割引き)の最後の一口を口に放り込んだ時に、俺は見つけてしまった。
大きなトラックが、背後の道路を挟んで向かいのビルの搬入口にバックで入ろうとしている。思わず、がばっと振り返ってしまう俺。はずみでパンの包装のゴミが吹っ飛んでった。ごめん、後で絶対に拾うから!
運転しているのは、黒いTシャツに日焼けした腕がたくましい、推定40代の男性だ。トラックドライバー! 働く男の王道じゃないか!長距離を運転し、荷物を運び、日本の物流を支える。ロマンの具現化。兄さんに日本中どこまででも、いや世界中だって連れていってもらいたい。
彼はトラックを停めると、運転席から勢いよく飛び出してきた。そして、まず最初にしたのは、搬入口へバックで入る前の安全確認だった。
車の後ろに回り込み、車体と壁との間隔、地面の状況を、目視でしっかり確認している。そして、トラックの側面に沿ってゆっくりと歩きながら、再度、安全を確かめる。
(ああ、これがプロなんだ・・・)
俺の心臓が、キュンキュンときめき出す。
トラックはただの大きな箱の付いた車ではない。彼にとっては、生活の糧であり、安全に荷物を運ぶためのパートナーなのだ。そのパートナーに動いてもらう前の、この慎重で、抜かりのない確認作業。仕事への真剣さと愛が全身から伝わってくる気がする。
彼は再び運転席に戻ると、窓から顔を出して、後方を確認しながら、ゆっくりとハンドルを切る。その一連の動作が、無駄がなく、流れるようで美しい。
(カッコいいなぁ~)
免許は持ってないし、そもそも気が小さすぎる俺には車の運転はいろいろと怖い。多くの人が普通にできてることが自分はできないんだと、いつもは車を運転する人たちを、どこか劣等感を抱きながら見ていた。しかし、今この瞬間に関しては違っていた。
彼は無事にトラックを所定の位置に寄せると、すぐに荷台の扉を開け、台車を引き出した。そこからはもう、休む間もない。
彼の休むことを知らないプロフェッショナルな姿に、俺は最大級のときめきと尊敬の念を抱きながら、先ほど落としたゴミを拾い立ち上がった。
その後、トラックドライバーの抜かりのない確認作業の様子に感化された俺は、午後からの清掃に、タイルのわずかな汚れも見逃さないつもりで臨んだ。が、所定の時間が迫って最後の方はかなりの急ぎ足になってしまった。うぐ。
俺のプロフェッショナルへの道はまだまだ遠いっ!
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