episode13 ─美月 side─


季節は過ぎ、夏も終わろうとしている頃の事。


毎年恒例である交流会が行われる。


旅館の広い会場で行われるその交流会には、傘下の組が勢揃いするらしい。


幹部まではみんな来るから人数も多い。


勿論、各組のお嬢も来る。


「あーめんどくせぇ」


そう言う月冴は私の隣でずっとブツブツ文句を言っている。


既に用意された席に座っていると、やけにザワザワと会場がうるさい。


二階堂の本家より格段に人数が多いからしょうがないんだけど。


着物で着飾ったお嬢もちらほら。


明らかに嫁の座を狙っているだろう、とわかりやすい行動をしている女が殆ど。


「場所変わってくんね?」


そう言った月冴はお嬢達の視線を沢山集めている。


組長、私、若頭の順で座っているから月冴の横はがら空きでいつでも隣に誰が来てもおかしくない。


「早く嫁見つけないから目を付けられるんでしょ」


嫌味ったらしく席を変わってあげると、周りのお嬢はガッカリしたような顔をする。


本当に好きなら正面から来ればいいのに。


組長が横にいると威圧的だし近寄れないのはわかるけど。


「美月も人のこと言えないからな」


そう言った月冴を見たすぐ直後、私のところに挨拶に来る若頭や幹部がゾロゾロと来た。


あー…


最悪だ。


特に多いのが若頭。


1度本家で顔は覚えたけど、どんどん来る。


幹部は立場的にそんなに来ないけど。


「あー、美月はもう大丈夫だろ」


何を根拠に…、と思っていたら隣にドサッと座った人がいた。


「お前、どんだけ男を寄せれば気が済むんだよ」


維月さんか…。


若頭に挟まれた途端、他の組員は私に近づかなくなる。


まだ開始の時間にもなっていないのに疲れた。


「ちょっと外出てくる」


そう言って席を立つと、維月さんも立ち上がった。


「若頭は席を外さない方がいいかと」


「息がつまるんだよ」


維月さんはトイレに行ったのか、途中から居なくなった。


会場の外に出ると、外は夕方だと言うのに少し蒸し暑い。


タバコに火をつけ、紫煙を眺めながらぼーっとしていると知らない声に話しかけられる。


「あなた、維月様のなんなの?」


声の方に顔を向ければ、着物で着飾ったお嬢が私を睨みつけるようにみてくる。


自分の名前も名乗らない馬鹿な女は何故か怒ってる様子。


「なんなのって言われてもなんでもないんだけど」


「それなら隣に座ったりしないでしょ」


「たまたま隣の席が空いてたからでは」


「それになんなのよ。お嬢なら着物くらい着てきなさいよ」


「お嬢の前に私は組員なんだけど。仕事の時はスーツっていう決まりがあるから。あんた達みたいに媚びを売りに来たわけじゃない」


喧嘩腰にそう言えば、女の顔がさらに険しくなった。


「どうせそんなこと言って、維月様に取り入ってるんでしょ」


「はぁ…」


何言っても無駄そうな人と喋るのは疲れる。


溜息が出たあと、私の馬鹿にしたような態度が気に入らなかったのか手を振りあげてきた。


私の顔に向かって落ちてくるその腕をパシッと片手で受け止め、力を入れるとその女は怯み出す。


「は、離しなさいよ」


「あんたが喧嘩売ってきたんでしょ。売られた喧嘩は買うけど」


「ほっそい癖に馬鹿力ね!離しなさいって言ってるでしょ!」


お嬢なら護身術でも身につけてると思ったけどこの女は何もして無さそう。


力もそんなに強くなければ、身体の使い方が分かってない。


掴んだ手を離すだけでよろけてるところを見ると体幹もなさそう。


「親と兄弟がいい立場だからって維月様を思い通りに出来ると思ったら大間違いよ」


「あんた、何が言いたいの」


二階堂の元に産まれてきたのは偶然だけど、維月さんを思い通りにしたいなんて思ったことは無い。


さてはこの女…維月さんを狙ってる?


「維月さん、あんたみたいな女嫌いだと思うけど」


「維月様は女を相手にした事なんて今までないのよ!あなた、二階堂の娘だからって調子乗って近づいているんでしょ!」


とことん、人の話を聞かなさそうだし妄想が激しすぎる…。


この手の女って私も苦手なんだけど。


丁度タバコを吸い終わるし、戻ろうかな。


「あなた、あまり調子乗っていると痛い目に合うわよ」


意味のわからないことに言っている女を無視して中に戻ると、柱に維月さんがもたれかかっていた。


「珍しいな、喧嘩か」


誰のせいでこんな事になったと思ってるんだか。


「私を巻き込まないで貰えます?」


「あ?なんの事だ」


その後は何も話さず、会場に戻ろうとする私を維月さんは止めようとしたけど、あの女が来た。


「維月様、お話がありますわ」


「おい、美月」


「私は組長の所に戻るんで。お二人でごゆっくり」


私の冷たい視線が気に食わないのか、維月さんの眉間に少し皺がよった。


私があまりにもいつもと態度が違うのが気に入らなかったんだろう。


でもあの女はすごく満足そうに維月さんの腕に自分の腕を絡ませていた。



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