『終末ドライブ』

MKT

第1話 ゾンビワールドへようこそ

 気がついたら、目の前がゾンビだった。


「……へ?」


 間抜けな声を漏らした俺の前で、腐りかけた顔の集団が、ゆっくりと、しかし確実に距離を詰めてくる。


「いやいやいやいや、無理無理無理無理!!」


 叫んで背中を向けた俺は、無我夢中で走った。

 どこだここ!夢か!?寝起きドッキリか!?

 いや、ドッキリにしちゃ規模がでかすぎるし、ゾンビの肌の質感がリアルすぎる!


 走りながら周囲を見回していると、廃墟みたいなビル群の間に、ぽつんと一台だけ、ピカピカの車が停まっているのが見えた。


「た、助かったぁぁぁっっ!!」


 滑り込むようにドアに手をかける。

 カチャッ──あっさり開いた。

 中に飛び込んだ途端、ドアが自動で「ガシャン!」と閉まった。


「……セーフ?」


 息を切らしながら外を見ると、ゾンビたちが車体に群がっている。

 ドンドン!バンバン!ガンガン!と叩きまくっているが、車体はびくともしない。

 まるで岩のような安定感。ガラス一枚すら割れそうにない。


「え、なにこれ、めっちゃ安心する……」


 腰を抜かし、へたり込んだまま見上げた車内は、想像していたよりも広かった。

 小型のキッチン、ベッド、ソファ、冷蔵庫まである。まるで動くワンルームマンションだ。

 運転席横のタッチパネルにはフリーダム号と映し出されている。


「は?……え? これ、キャンピングカー?」


 混乱する頭を必死で整理しながら、もう一度外を見た。

 廃墟。ゾンビ。ぐちゃぐちゃの道路標識。

 そして、見慣れた日本語の看板。


「……ってことは、ここ、日本?」


 ようやく飲み込めた。

 俺は異世界に転移した──いや、違う時間軸に転移してしまったらしい。


「何それ聞いてないんだけど!!」


 誰に向かって怒鳴っているのかわからない。

 だが今はとりあえず、生き残れたことに感謝すべきだろう。


 冷蔵庫を開けると、冷えたコーラが入っていた。

 俺は無言で取り出し、プシュッと開けて一気に飲み干す。


「──生き返るわ」


 ドタバタの未来ゾンビライフ、開幕である。

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