弱者の美学
渋谷かな
第1話 闇の光を司る悪魔バエル
1-1-1
「私は、あなたと結婚します。」
皇女スズは、逆プロポーズをします。
「はい? え? ええー!? ええええええー!?」
僕の名前はサト。皇女様の従者であり・・・・・・いじめられっ子です。アハッ!
「決めました。私が決めました。エッヘン!」
皇女様は、自己肯定の塊だった。
「む、無理ですよ!? 僕なんかとは!?」
それに比べ、僕は内気で臆病で、優柔不断タイプだった。
「どうしてよ?」
「僕はいじめられっ子ですよ!? 皇女様と結婚できる訳がないじゃないですか!?」
しかも僕と皇女様は、とてもじゃないが、僕が皇女様と結婚なんかできる訳がない。
「サトは、私のことが嫌いなの?」
純粋な瞳で皇女様がサトを見つめる。
「き、嫌いじゃないですけど・・・・・・うじうじ。」
ドキドキするけど、自分に自信がないので「僕も好きです。」とは言えない。悲しい。アハッ!
「もう!? サトはハッキリしないんだから! 意気地なし! それでも男なの?」
優柔不断なサトにキレる皇女様。
「すいません・・・・・・。」
追い込まれた僕は謝るしかできなかった。アハッ!
「いい? 私は絶対にサトと結婚するからね! フン!」
言いたいことだけ言って、不機嫌に去っていく皇女様。
「はあ、何の力もない僕にどうしろという?」
僕は何もできないし、何かを感じてもいけない、何かを表現してもいけないんだ。
「おい! いじめられっ子! トイレを掃除しとけ! トイレットペーパーも補充しとけよ!」
「は、はい。」
僕は名前も呼ばれない。
「おまえに食べさせるご飯はないよ! ちょっと皇女様の従者だからって、調子に乗って! いじめられっ子の分際で。」
「すいません、すいません、すいません。」
「おまえなんか、残飯でも食ってろ!」
僕は謝らなければ、ご飯も食べれない。
「誰か僕にも人権を。」
これがいじめられっ子である僕の日常である。
「はあ・・・・・・。皇女様に振り回されるだけでも大変なのに。こんな毎日じゃ病気になったちゃうよ。」
自分の部屋に帰ってきた僕は、愚痴を独りで言うしかできなかった。
「サト、独り言ばっかり言っているとボケるわよ?」
「誰が禿げるだ!?」
「いや。そこまでは私は言っていないわよ!?」
なぜか僕の部屋には妖精さんが住んでいる。彼女の名前は、ピクシーのピク。
「はい。今日のご飯。」
なぜか僕にだけ見えるらしい。
「ありがとう! サトは優しいね! わ~い! ピクピクしちゃうぞ!」
昔、チーズを分けてあげたら住み着いてしまった。アハッ!
「少ないご飯までたかられるなんて、僕は呪われているかもしれない!? ウワアアアアア!?」
やはり僕の精神は底辺で不安定だった。アハッ!
つづく。
1-1-2
「おい!? 皇女様が結婚するらしいぞ!?」
ポン城では、皇女様の結婚話でもちきりだった。
「はい?」
(え? ええー!? ええええええー!?)
逆プロポーズされた僕の立場は!?
(いや、これで皇女様から解放されると思えば、良かったんだ! アハッ!)
逃げるが勝ち! バイ サト。
(ダメだ、ダメだ!? せめて僕の気持ちだけでも皇女様に伝えないと!?)
僕は、皇女様が好きだと伝えようと決めた。
(で、でも、告白して断られたらどうしよう!? 恥ずかしい!? 悲しい!? ああああああー!? 僕にどうしろという!?)
決断の3秒後には、僕の自律神経は無くなっていた。アハッ!
「情けないわね! あなた本当に男なの? 本当に皇女様が好きなら、式場から奪い去るとかやりなさいよ!」
妖精のピクに攻め立てられる。
「そんなことできる訳がないじゃないか!? 僕はいじめられっ子なんだよ!? 毎日、生きるだけで精いっぱいだし、不安だし、こんな僕と皇女様が一緒になれる訳がない!?」
今までの理不尽な境遇から、僕は否定しかできない人間になっていた。アハッ!
「情けない! 何て優柔不断なの! あなたなんか生きる価値もないわよ!」
ペットに否定される僕の存在って、何?
「酷い!? それ以上言うと、今日のご飯はなしだぞ!? ピクの好きなチーズなのに!?」
「偉い! 素晴らしい! ・・・・・・。ああああああー!? 分かった! 私が付いていってあげる! だから勇気を出して告白しなさい!」
大好物のチーズに手の平を返す妖精。アハッ!
「本当? ついてきてくれるの?」
「任せなさい! 私の聖なる力でプロポーズ大作戦は大成功よ!」
とてもじゃないが、ピクに、そんな力があるとは思えなかった。
「ありがとう。よろしくね。」
僕には人間の友達はいない。
「分かったから、早くチーズを寄こせ。ギブ・ミー・チーズ!」
いるのは妖精のお友達だけ。しかも食料を要求してくる。アハッ!
「よし! 皇女様にプロポーズするぞ!」
僕は覚悟を決めた。
「でも、断られたらどうしよう? 外が雨だったらどうしよう? うあああああー!?」
そして、2、3分後には病気を発症する。アハッ!
つづく。
1-1-3
「それでは結婚式を行います!」
遂に皇女様の結婚式の日がやってきた。
「どうしよう!? どうしよう!? このままじゃ皇女様が結婚しちゃう!?」
もちろん皇女様の結婚は国のための政略結婚で、おっさんと結婚しなければいけない。
「おい。おまえが悩んでいる間に結婚式が終わるぞ。」
妖精のピクもサトには呆れていた。
「仕方がないな。私が背中を押してやる。ピクピク!」
「うわあ!? 押すな!? 押すな!? 僕には心の準備が必要何だ!?」
「黙れ! 生きる屍! さっさと式場に乗り込め! ピク!」
なんとか僕が結婚式場の前までたどり着いた時だった。
ドカーン!
大きな爆発が起こる。
「なんだ!?」
邪悪な声が聞こえてきた。
「我が名は、魔王シュベルト! 姫とこの世は、私が頂こう! ワッハッハー!」
いきなり魔王が現れて、姫を奪っていく。
「キャアアアアアア! サト! 助けて!」
「皇女様!?」
僕は無力だった。ただ目の前で皇女様がさらわれるのを見ているしかなかった。
「姫さえもらえば用はない。皆殺しにしろ。バエル。後は任せたぞ。」
「はい。魔王様。」
魔王は皇女様と一緒に闇に消えていった。
「やれ! 魔物ども! 皆殺しだ!」
「ガオー!」
ここからは残酷物語だった。
「ギャアアアアアアー!?」
「ウワアアアアアー!?」
「ガオガオ!」
魔王の手下のモンスターたちが100匹、1000匹とポン城に襲い掛かってきたのだ。
「ダメだ!? 逃げないと殺される!?」
(ああ!? 僕の人生はこれで終わりなんだ!? もっとご飯が食べたかったな・・・・・・ガクン。)
こんな時でも自分の人生が終わっていると悲観しかできないサト。
「サト、今までありがとう。チーズ、美味しかった。私は自分の家に帰るわ。じゃあね~! エヘッ!」
別れの言葉を言うと、ピクは自分だけ逃げだした。
「待って!? こんな所に置いていかないで!?」
ピクの後を追いかけると秘密の地下階段を僕は降りていた。
「ああ! 魔王の攻撃のおかげで、地下が崩れて、封印が解けているわ!?」
ポン城の地下の封印された部屋がピクの住処だった。
「こ、これは!? 剣!?」
剣が輝きながら台座に刺さっていた。
「剣は、剣でも、ただの剣じゃないわよ。これは伝説の剣、聖剣エクスカリバーよ! エヘッ!」
聖剣エクスカリバーは、神話級の伝説の剣であった。
「私は、聖剣を守護していた聖なる妖精なのだ! どう? すごいでしょ!」
「そんなにすごいなら、僕のを食べないで、チーズくらい自分で見つけて食べてよ。」
「聞こえない! ピクピクしてるもん! エヘッ!」
僕は弱いので、直ぐに諦めるし、直ぐに他人の性にする。アハッ!
つづく。
1-1-4
「チーズを貰ったお返しに、あなたに聖剣エクスカリバーを与えよう!」
「いりません。」
「ピクピク!? 貰ってもらわないと話が進まないんですけど?」
僕は欲しいものは手に入らないので普段から無欲だった。
「じゃあ、もし、僕がチーズをあげていなかったら?」
「抜かせあげな~い。ここでモンスター殺されればいいのよ。だって、私がチーズを貰っていなかったら、私が先に飢え死にしているから、結局は抜けないのよね。エヘッ!」
「笑うな!? 余計に怖いよ!?」
ピクは、恐ろしい聖なる妖精であった。
「大丈夫よ。サト。あなたは私みたいなカワイイ小動物にも優しくできる心の優しい人間よ。あなたは聖剣を持つ資格があるわ。エヘッ!」
「ぼ、僕に、僕なんかに聖剣を持つ資格がある!?」
(絶対におかしい!? 僕はいじめられっ子で、僕の価値や存在はないに等しくて、僕は生きていていいのかすら自問自答しているのに、そんな僕が聖剣を持てるはずがない!?)
サトは自分に自信がなかった。
ドカーン! ゴゴゴゴゴゴ!
サトが悩んでいる間に、地上で爆発が起こり、天井が崩れ地下が壊れそうになる。
「どうしよう!? どうしよう!? 死にたくないよ!?」
優柔不断なサトは、悩んでいるだけで何もしていない。
「こらー! さっさと聖剣を抜け! 私は瓦礫に潰されて死にたくないんだよ! じれったいな! 人間、死ぬ気になれば何でもできるわよ! ピク―!」
「ウワアアアアア!?」
ピクがサトの背中を押す。
ドカーン! バキバキバキ!
遂に天井が崩れてしまう。
「そこだ! やれ! 人間なんか皆殺しだ! ワッハッハー!」
地上では悪魔バエルが、モンスターを使って人間を殺しまくっていた。
ピカーン!
その時だった。地下から膨大な聖なる光が溢れ出す。
「な、なんだ!? ひ、光が!? ウギャアアアアアアー!」
光は悪魔やモンスターを一飲みにした。
「い、生きてる!?」
地下から聖なる光に包まれて、サトとピクが上がってくる。サトの手には聖剣エクスカリバーが握られていた。
「サト。あなた、やればできるじゃない! もっと自分に自信を持ちなさいよ!」
「僕には何がどうなっているのか分からないんだけど!?」
サトは挙動不審に落ち着ちつかないで、ソワソワしている。
「や、やってくれたな!」
「ギャアアアアアアー!? 悪魔!?」
悪魔バエルは、体が半分吹き飛んでも生きていた。
「お、俺の名前はバエル。おまえは何者だ?」
意外に真面目に先に自分の名前を言う悪魔。
「サトです。」
悪魔に聞かれて名前を名乗るサト。
「勇者サトか・・・・・・覚えていろよ! おまえは俺が必ず殺してやる! さらばだ!」
悪魔バエルは瀕死の重傷になり闇に消えて逃げて行った。
「バエルさん~! 僕はいじめられっ子で~す! 忘れてくださ~い!」
つづく。
1-1-5
「魔王を倒し、姫を助けた者に姫と結婚を認める! ・・・・・・バタッ!」
ポン国王は、遺言を残し息を引き取った。
「よし! 魔王を倒すぞ!」
「姫を取り戻せ!」
「俺が、この国の王様になるんだ! うおおおおおおー!」
世は正に、勇者時代になってしまった。
「酷いな。お城が跡形もない・・・・・・みんな、死んじゃった。」
魔王の襲来で、平和な日常が、理不尽にも壊された。
「でも、大丈夫。僕の部屋はお城の外れにあったから無事だ! 嬉しい! いじめられっ子に生まれて良かったー!!!!!!」
どうでも良いいじめられっ子だけに、どうでも良い所に住まされ、モンスターにも、どうでも良いので襲われなかった。これが本当のいじめられっ子役得である。アハッ!
「あんた、一人で騒いでいると、頭がおかしいと思われるわよ? エヘッ!」
「大丈夫。いじめられっ子の僕なんかの周りには誰もいないから。アハッ!」
「確かに!?」
いじめられっ子の僕には、誰も近寄らないし、自分より下だと見下して接して、いじめてくる。生きていても楽しくない人生だった。
「ピクちゃん、どこに行っていたの?」
「地下の食糧庫よ。今なら鍵が壊れているので、チーズ! 食べ放題! イヤッホー!」
チーズ大好き! 妖精ピクシーのピク。
「で、あんたもお姫様を助けに行くの?」
「えっ!? ど、どうしよう!? どうしよう!?」
(どうせ、僕なんかじゃ、魔王にも勝てなし、どうせ殺されるし、痛いのは嫌だな・・・・・・。)
「心の声が顔に書いてあるわよ!? あんた、どこまでネガティブなのよ!?」
「仕方がないじゃないか!? 僕は生きてきて、自分のことを好きになったことがないんだから!?」
いじめられっ子として、辛い人生を歩んできたサト。
ピキーン!
「あ。」
(サト! サト! 馬に乗るから台になりなさい! えっ? 馬がない? なら、サト! あなたが馬になりなさい! ハイヤー! ハイヤー! お礼に肉をあげよう! また遊ぼうね! ニコッ!)
「助けよう! 僕を名前で呼んでくれて、僕なんかを必要としてくれるのは、皇女様だけだ! ・・・・・・生まれて初めての肉をくれたのも皇女様だから!」
「それって、ただこき使われているだけなんじゃ!?」
「僕にはマシな方だよ。アハッ!」
こうして僕は皇女様を助けることを決めた。
「でも、やっぱりやめようかな?」
2、3秒後には自分の意思を保てないサトであった。
つづく。
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