第10話 令嬢の野心と未来への扉、そして俺の野望も加速!?
洋館の奥から響いてくる足音は、やがて目の前の扉の前で止まった。
由美が、どこか恐縮した様子で、しかし誇らしげに扉を開く。
その向こうから姿を現したのは、まばゆいばかりの存在感を放つ一人の少女だった。
俺と幸は、その姿を目にした瞬間、思わず息をのんだ。
17歳という若さとは思えぬほど大人びた顔立ち。
すらりと伸びた手足、しなやかな立ち姿は、まるで絵画から抜け出してきたかのようだ。
夜会服を思わせる深緑のドレスは、彼女の白い肌を際立たせ、その首元には、かつての栄華を偲ばせる小さなペンダントが光っていた。
その印象は、どこか冷たく感じられた。
感情を読み取らせない、怜悧な眼差し。
だが、その瞳の奥には、燃え盛る炎のような情熱が、確かに秘められているのを感じた。
凛とした美しさの奥に隠された、得体の知れない野心。
それは、貴族令嬢という肩書きからは想像もつかないような、剥き出しの意志だった。
(……おいおい、こんなところにラスボス級の美少女がいるなんて、聞いてないぞ!しかも、ツンデレ系のお嬢様とか、俺の性癖をピンポイントで狙撃してきやがった!俺の童貞魔法、もしや彼女に効くのか!? いや、むしろ俺が攻略されちまうのか!?)
由美が、恐る恐るその少女に耳打ちする。
少女は、その報告を聞きながらも、ただ静かに俺と幸を見つめていた。
まるで、俺たちの魂の奥底まで見透かすかのような、鋭い視線。
その視線は、やがて、洋館の前に停められたEVカーへと向けられた。
「……あれが、あなたがたの『車』とやらですか」
少女の言葉は、まるで氷のようだった。
だが、その声の奥には、わずかな好奇心が潜んでいるのを、俺は聞き逃さなかった。
由美が、その場で緊張した面持ちで縮こまっている。
「はい。わたくしどもは、この『車』で、遠方からまいりました」
俺は、丁寧に答えた。
幸もまた、その場の空気に気圧されながらも、少女の圧倒的な美しさに見とれていた。
(いや、幸も幸で、同性なのに見とれてる場合じゃないだろ! ライバル出現の危機感とかねぇのか!?)
少女は、ゆっくりと車に近づいていく。
その動きには、一切の躊躇がない。
まるで、珍しい美術品を鑑賞するかのように、流線型の車体をぐるりと一周した。
「見たことのない造りですわね。蒸気機関とも異なるようですが……」
彼女は、そう呟きながら、車のタイヤにそっと指を触れた。
その細く白い指が、ゴム製のタイヤに触れる。
この時代、車輪は木製か鉄製が当たり前。ゴム製のタイヤなど、彼女の知る世界には存在しない。
その瞬間、少女の脳裏に、電光石火のひらめきが走った。
目の前の「車」。そして、この異様な「旅人」たち。
(これだ……!これを取り込めば……!)
彼女の瞳に、ギラリとした光が宿る。
……うおっ、なんか覚醒しやがったぞ! こえーよ!
これ、完全に『悪役令嬢』の目じゃねぇか!?
俺、もしや彼女に利用されてポイ捨てされる展開か!?
いや、待て、主人公は俺だ! 利用するのは俺の方だろ、たぶん!
「お二人、中へどうぞ。お話しを伺いましょう」
少女は、冷静な声で俺と幸を洋館へと招き入れた。
洋館の中は、外見と同じく、どこか時代を感じさせる造りだったが、調度品は手入れが行き届いており、かろうじてかつての品格を保っている。
広々とした応接室に通され、俺と幸は向かい合うソファに座った。
由美は、慌てて紅茶を淹れて持ってくる。
愛は、やはり無言で、部屋の隅に控えていた。
(なんか、メイドが二人もいるって、本当にハーレムじゃねーか! これで正式に『ハーレム構成員』に二人が加わったな! あとは、お嬢様をどう攻略するかだ!)
「改めて、わたくしは**七條院 桜(しちじょういん さくら)**と申します。お二方のお名前を伺ってもよろしいでしょうか」
桜は、透き通るような声で問うた。
俺は、この少女が持つ尋常ではない気迫に、内心で驚きながらも、冷静に答えた。
「瓶田 嶺と申します。こちらは部下の結城 幸です」
「瓶田様、結城様。先ほどの『車』とやらについて、詳しくお聞かせいただけますか?」
桜は、単刀直入に尋ねてきた。
彼女は、回りくどい駆け引きを好まない、行動的な性格なのだ。
俺は、目の前の少女が、ただの没落貴族ではないことを悟った。
その才気と野心は、この時代に埋もれるにはあまりにも惜しい。
(……くっ、この女、まさか俺と同じ『チート能力者』か!? いや、それとも俺の童貞魔法が、彼女の秘めたる才能を目覚めさせたのか!?)
俺は、ひとまず自分たちの現状について説明を試みた。
濃霧に巻き込まれ、道に迷ってここに辿り着いたこと。
そして、目的地であるはずの『高専』が、この辺りには見当たらないこと。
「高専、ですか……。そのような大きな学舎は、この焼津にはございませんわ」
桜の言葉に、俺と幸の顔から血の気が引いた。
やはり、おかしい。俺たちが知る『焼津』ではない。
「あの、失礼ですが、今はいつなのでしょうか、西暦何年ですか?」
幸が、思わず尋ねた。桜は、不思議そうな顔で答える。
「西暦? そういう数え方は致しませんが……。今は、明冶十三年でございます」
その言葉が、俺と幸の耳に届いた瞬間、二人の脳裏に強烈な衝撃が走った。
明冶十三年――。
俺たちが生きていた令和の時代とは、百数十年も隔たった過去。
そして、何よりも重要なのは、「明治」ではなく「明冶」であること。
そして、「徳川幕府」ではなく「徳臣幕府」……。
わずかな違いだが、それは、俺たちが単なる過去にタイムスリップしたのではなく、歴史が異なる「並行世界」に来てしまったことを示唆していた。
(ま、マジかよ……俺の童貞魔法、時空を歪めちまったのか!?これは『時空系魔法』か!?それとも『並行世界召喚』か!?)
「まさか……本当に……」
幸が青ざめた顔で、俺を見上げる。
俺もまた、全身の力が抜けていくような感覚に襲われた。
ライトノベルの世界では「魔法使い」の資格を持つ俺だが、異世界転生は、あくまで物語の中だけの出来事だと思っていた。
まさか、それが現実に、自分たちに降りかかるとは。
(俺、モテ期が来たのか、それとも人生ハードモードに突入したのか。
いや、両方だ!これは間違いなく『モテモテハードモード異世界転移』だ!)
「私たちは……時代をさかのぼってしまったようです。そして、どうやら、私たちがいた世界とは少し異なる歴史を辿った世界のようです」
俺は、重い口調で桜に告げた。
桜は、その言葉を静かに受け止めていた。
驚きよりも、むしろ、納得したような表情だ。
彼女は、最初から俺たちの異質さに気づいていたのかもしれない。
(この女、ただ者じゃない。もしかして、彼女も隠れチート能力者か? それとも俺の童貞魔法に共鳴したのか!?)
「未来から……。では、あなたがたは、この明冶十三年の日本の技術を凌駕する、はるかに進んだ知識と技術をお持ちなのですね」
桜の言葉に、俺は頷くしかなかった。
彼女の視線は、再び窓から見える俺の愛車(社用車だけど)「車」へと向けられた。
その瞳には、野心と、そして希望の光が宿っていた。
もう、目がギラギラしてる。まるで獲物を見つけた猛獣のようだ。
(くそっ、この令嬢、ただのヒロインじゃねぇ! ラスボス級の野望持ちか! だが、それがいい! 俺は決めたぞ、この並行世界で、俺の現代知識チートと童貞魔法を駆使して、この桜を筆頭に、メイドの愛と由美、そして幸を巻き込み、この世界を『俺TUEEEハーレムパラダイス』に変えてやる!)
俺の野望、加速するぜぇええええ!!
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