第4話 パーティーとしての依頼。依頼がつなぐ人の輪。

 薄く曇った空の下、王都の外れにある冒険者ギルド《グランネア》は、昼だというのに薄暗い。

 依頼の貼り紙が剥がれかけ、酒の匂いと剣の金属臭が混ざるその空間で、シュフェルとプベルは掲示板の前に立っていた。


「また、護衛任務か……。最近は魔物討伐よりも、こういう地味な依頼ばかりだな」

 プベルが腕を組み、肩の盾を軽く叩く。

「でも、こういうときこそ経験を積めるんだ。焦らずに、確実に」

 シュフェルは落ち着いた声でそう返す。彼の眼差しは相変わらず穏やかで、どんな依頼にも真摯に向き合う姿があった。


 ふと、隣で書類をめくっていた青年が声をかけてきた。

「その依頼に興味があるの~?僕も同じやつなんだよね~

 どう?一緒にやる?」


 振り向くと、そこには黒の外套を羽織り、金の片眼鏡をかけた白黒の二色に髪の色がはっきりとわかれていている青年が立っていた。

 彼の名は――ゲン・スモーク。

柔らかい笑みと優しい瞳がどことなく居心地がいい


「あなたは確か……」

「ゲン・スモークだな。噂は聞いている。心理学と幻術を合わせた“心読みの魔術師”だと」

「あら、そんなに褒めていただけちゃうなんて俺、嬉しいなありがとう。シュフェルちゃんとプベルちゃん。あら?もしかして依頼内容同じみたいじゃない?」

「そうですね」

「ね、俺にもパーティー入れさせてよ。ちゃんと役に立つからさ?」

「そうだな」

嘘か真実か紛らわしかったが、

 手元の依頼書を見れば、確かに同一の文字。

 ――《監視依頼:戦争孤児の少女・フェルト》


 彼女は盗賊団に関与しているとの噂があり、同時に隣国アルトリウム伯爵家の血筋であるとも言われていた。

 真実は分からない。だが、放ってはおけぬ存在だ。


「監視対象を守るための監視、というわけか」

「彼女が“罪を犯す前に”止めることが、今回の依頼目的。」

「俺の出番、あるかな~」


 ――数日後。


 夜の市場裏。石畳の上を、音もなく駆け抜ける小柄な影。

 シュフェルたちは物陰からその少女を見つめていた。

 月明かりに照らされた髪は銀色に近い淡い金。瞳は琥珀色に光り、手には小さな短弓が握られている。


「……あれが、フェルト・リーファーラ」

 プベルが呟く。

 少女は素早く露店の裏に回り、何かを盗もうとしていた。


 その瞬間、ゲンが口元に笑みを浮かべた。

「――誰か~助けてくれ~」


 彼の声が、淡い青光を伴って夜気に響く。


「あいつ・・・何やって・・・」

「プベル、見ろよ」

「フェルトがゲンに近づいてる・・・」

「あれがヤツの戦い方なんじゃないか?」

物陰からひっそりとシュフェルとプベルはゲンとフェルトの動きを監視していた。

「どうしたの?」

「足がどうにも怪我をしてしまってね」

「そう・・・」

「この荷物を隣の村まで運ばなければならないのに・・・」

「・・・」

「あぁ、別に君には迷惑はかけるつもりはないよ」

「・・・そう・・・なのね・・・」


「あいつ・・・フェルトを逃がすつもりか??」

「わからない・・・」


「いたたたた・・・やっぱり、この荷物を運ぶのはやめようかな・・・村のみんなに申し訳ない・・・。

 誰か、風魔法が使える人がいないのかな・・・まぁ。望んでもいるわけないか・・・」


「フェルトは風魔法者だよな・・・」

「そういうことか!!」


ゲンは真っ直ぐ前を歩くフェルトの背中を見つめた


「あぁ・・・もう!!ほっとけないわ」

「ほんとにいいの?」

「えぇ。今回だけよ。次会ったときには何かしてもらうからね!!」

「約束だね。」

「そうよ、約束よ。だから絶対ね!!」

「じゃあ、またフェルトちゃんに会えるわけか」

「そういうことよ・・・え・・・名前・・・なんで・・・」

「え?だってほらそこ。名前」

黒いマントを指さす。そこに名前なんて書かれていなかったはずなのになぜか名前が書かれている。

「俺、マジックが得意なんだ」

「・・・」

「約束。いつ果たせられるかわからないからさ、冒険者だから。だからさ、俺とパーティー組もうよ。パーティーになったらなんでもお願い聞くから」

「いい・・の?」

「もちろん。君の過去がどんなものでも、今の君がどんな人だろうとね」

 フェルトの動きが止まり、弓を落とす。怯えたように振り返った彼女の瞳に、涙が滲んでいた。


「ほんとに?でも・・・もう……誰も、信じられないの……っ」


 その声に、シュフェルの心が揺れた。

 ――戦場の子どもたち。かつて貴族として育ち、平和を奪った側の自分。

 彼は思わず前に出た。

「信じられなくてもいい。けど、俺たちは君を敵とは思っていない」


 フェルトの瞳が揺れ、震える唇がかすかに動く。

「……本当に?」

「そうだよ。君は君らしく振舞えばいいんだよ。嘘の仮面なんてつけなくてね」


 ゲンが小さく目を細めた。ゲンが言っていい言葉なのかはわからないが。

 彼もまた、心の奥で感じていたのだ。――この少年は、言葉よりも先に人の心を救うと。


 こうして、フェルトは彼らのもとに加わった。

 その日、夜明け前の街角で新たなパーティーが誕生する。

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