ただの冒険者になりたいだけなのですが、パーティーメンバー全員は隠し事をしているようです・・・
神樂 琴音
第1話 霧の中の森で勝ち取る赤旗
夜明け前の森は、血のような靄に包まれていた。
ざわめく枝葉を裂くように、獣の咆哮が響く。
その音を合図に、五人の影が動いた。
「来るぞ、右から三体!」
剣を構えながら叫ぶのは――シュフェル・ヴェドウィン。
銀色の髪が朝靄を切り、冷えた空気の中で光を弾く。
彼の声に呼応して、仲間たちは即座に布陣を取った。
「《氷鎖(アイス・バインド)》!」
リリルカ・ソナタが杖を掲げ、淡い蒼光が走る。
魔力の紋章が空中に広がり、霧を凍らせるように三体の魔物――〈ブラッドウルフ〉の脚を絡め取った。
凍結音が響く。だがそれでも、狼たちは牙を剥いて迫る。
「無茶すんな、リリルカ!」
盾を構えたプベル・ジャンキーが前に躍り出る。
金属と肉がぶつかる鈍い音。巨大な爪が盾を弾き、火花が散る。
その隙を逃さず、シュフェルが駆けた。
「はあっ――!」
剣閃が閃き、凍りついた狼の喉元を正確に裂く。
返り血が靄の中に溶け、赤黒く揺らめいた。
高台から、弦の軋む音が響く。
「……風よ、矢に道を」
フェルト・リーファーラの低い祈りが風に乗り、
放たれた矢が霧を裂いて真っ直ぐに飛ぶ。
次の瞬間、遠くの魔物の額に突き刺さった。
乾いた音とともに、静寂が一瞬生まれる。
「ナイスアシスト!!フェルト」
シュフェルが短く声をかけた。
「そっちこそ……まだ余裕があるのかしらッ!!」
彼女は微かに笑みを見せるが、矢を番える手は止めない。
その後方で、一人だけ剣も魔法も使わずに立っている男がいた。
ゲン・スモーク。
黒のロングコートの裾を揺らしながら、静かに指を鳴らす。
「次に跳びかかってくる個体は左後方だ。プベルちゃんは受け流してね~。リリルカちゃんは、反撃準備。シュフェルは二歩下がって――はい、今だよ~」
落ち着いた声が響く。
ゲンの言葉に導かれるように、パーティの動きが完全に噛み合う。
プベルが盾を傾けて敵の突進を逸らし、シュフェルの剣が再び閃いた。
霧の中、狼の悲鳴が短く響き、そして沈黙する。
数分後、戦場に残ったのは五人の息遣いと、消えゆく血の匂いだけだった。
「……全員、無事か?」
シュフェルが剣を収め、仲間たちの顔を見回す。
リリルカは膝をついて息を整え、フェルトは矢を回収していた。
プベルは盾を地面に突き立て、軽く頷く。
「問題ねぇ。こっちは盾に傷一つ増えたくらいだ」
「このくらい余裕よ!!」
リリルカが微笑む。その笑顔に、シュフェルは安心の息を漏らした。
そんな彼らを見ながら、ゲンがポケットからタロットのような小札を取り出し、
焚き火の火を灯す。
「夜が明ける前に体力を戻してね~」
「そうだな。本隊が近いからな。」
シュフェルは炎を見つめながら、ふと目を伏せた。
――本隊、か。
次の戦いは、きっと今よりも大きなものになる。
仲間たちの横顔を見つめながら、彼の脳裏に、幼い日のあの誓いが蘇る。
『僕は、守られるだけの子供にはならない。
誰かを、守れる人間になるんだ。』
その言葉とともに、炎がぱちりと弾けた。
夜明けが、静かに森を照らし始めていた。
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