#3 灰色の伏兵
「はあぁぁぁっ!!」
気合の声と共に白銀の太刀を
――
日本に10人しかいないS級探索者の1人だ。
《キャーッ!! カスミ様、カッコイイ!》
《カスミン、相変わらずキレッキレやねぇ》
そんな配信視聴者のコメントを視界の
叶純は一般向けに公開する探索者名を、本名の読みと同じ「カスミ」で登録している。
(――少し、先に進みすぎたか……)
叶純はやや反省していた。
ここ龍ノ顎ダンジョンの探索を開始して1時間余り。
叶純は次々と現れるモンスターに誘われるようにして、奥へ奥へと足を進めていた。S級ダンジョンの探索としては、
(ソロだといつもこうだな。誰か、後ろを任せられる人がいるといいんだけど……)
叶純の思考がそれ、周囲への警戒がわずかにおろそかになった、その時のことだ。
ガツンッ!
「――
叶純は背中に強打を受けた。
透明化したマンティコアが彼女の
そのダメージは、
(――しまった!!)
叶純は、脳内でSP――スピリット・ポイント――の残量が一気に半分を割ったことを認識した。SPが残っている限り肉体に直接のダメージはないが、今の攻撃をもう一度食らったらアウトだ。
叶純が衝撃で倒れると共に、多くの視聴者が悲鳴のようなコメントを投稿していた。
叶純は急いで攻撃が来た方向に向き直り、太刀を構える。
しかし、マンティコアの姿はすでにそこにはなかった。
《カスミ様っ!!》
《後ろ、後ろーっ!!》
(もう後ろに!? ダメっ!! やられる……ッ)
叶純がマンティコアの追撃を覚悟したその時――
「……あ、危なそうなんで、助太刀しますね」
――その声は、叶純の強化された聴覚でこそ
次の瞬間、ドゴォッという音がしたかと思うと、姿を現したマンティコアが壁にめり込んでいた。白紫色の獣毛に覆われた腹部に大きな拳の
(素手で殴った……? いったい誰が――)
振り返った叶純にとって、理解に苦しむ
「は……?」
叶純の眼前には、グレーの目立たない制服を着た配信施工員が立っていた。
(――は、配信施工員!? ……えっ? 今のマンティコア、この人がやっつけたの!?)
叶純の頭の中は、一瞬でパニックになった。
「じゃ、自分は業務に戻りますので……」
その配信施工員は軽く一礼すると、あっという間にダンジョンの奥へと走り去ってしまう。
「あ、待って!」
叶純は手を伸ばしたが、施工員は振り返りもしなかった。
先程の
叶純の思考は、そこに至ってようやく現実に追いついてきた。
(あのモンスターを素手の一撃だけで倒すなんて……。信じられない……)
――この一連の出来事において、配信施工員は徹底してカメラの死角を動き続けていたらしい。
《さっすがカスミ様! マンティコアも楽勝だったね!》
《いや……今のおかしくないか? どうやって倒したんだ?》
《――ってか、カスミン、いま誰かと話してなかった?》
視聴者は誰一人として、彼の存在にさえ気づいていなかった。
叶純の胸中で、むくむくと疑問が大きくなっていく。
(――ただの配信施工員じゃない。いったい、彼は何者なんだ……?)
叶純は、施工員が消え去った方向に視線を向ける。
そこにはいつもと変わり映えのない、ダンジョンの暗がりが広がっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます