『セブン・ニャイツ』〜七つの夜と騎士の物語〜

かごのぼっち

一章 ひとつめの夜

一夜 やる気ニャイト

 その昔、世界は七つの夜に分かたれた。


 それぞれの夜に王が君臨し、対立し、世界は群雄割拠の時代を迎えた。

 七つの夜には七つの月が存在し、月に愛された者には月の加護が与えられた。加護を与えられた者を『月夜の加護者ニャイト』と呼んだ。

 加護者ニャイトは国から『月夜の騎士ニャイト・オブ・ニャイツ』の称号を賜る。称号を得た者は『七英雄セブンニャイツ』として歴史にその名を刻んだ。


 ♢  ♢  ♢


 ニャイト?

 俺ぁそんなものに興味はにゃーにゃ。

 自由気ままに生きる、それが俺のモットーにゃ。


 いかにぐうたらに、でたらめに、テキトーに、自堕落に、のんべんだらりと生きてゆけるかにゃ。

 争いにゃんてしたい奴がすればいいにゃ。夜の中にゃんてどの夜も大して変わんにゃーべ? 興味はにゃーにゃ。

 英雄にゃんて何匹猫を殺したかで決まるんにゃ。んにゃもんになりたいにゃんて、イカれてるとしか思えにゃーにゃ。


 ん? ニャーニャーうるさい? そりゃ猫だかんにゃ? ニャーニャーも言うだろうにゃ。


 この世界の神は『ニャクス』夜の女神にゃ。夜こそがこの世界と言っても過言ではにゃい。

 そんにゃ夜の世界を統べる種族と言えば、吾々猫族をおいて他にはにゃいだろう。いや、強いて言うなら猛禽族を無視できにゃいところにゃ。


 そしてここは七王が一ニャン『ドラ王』が統治するドカン王国。七つある夜の中でも一番自由な国だと言えるにゃ。それだけに無法者も少なくなく、有り体に言えば自由とは名ばかりの治外法権国家にゃ。

 まあ、俺には性に合ってるにゃ。


 日がな一日ぐうたらしていても、誰にも文句を言われにゃいのだから。


 今日は今日とて俺は屋根の上でヒューマンにゃらぬキャットウォッチングに勤しんでいる。


 ドカン王国はずれの港町ウルメ。入り江に連なる舟屋の屋根のひとつが俺のお気に入りの場所にゃ。丘の上の灯台岬につづく花の小径が見えるこの場所は、猫の往来が多くて深夜が過ぎても猫であふれているにゃ。


 ホー


 ⋯⋯。


 ホー


 うるせーにゃ。


 ホー


 邪魔をするにゃ。


「つれないのう」

「何しに来たにゃ」

「話し相手が欲しかっただけじゃ」

「他をあたれにゃ」


 ワシミミズクのクロウにゃ。ミミズクなのにクロウだとか、フクロウならまだしもミミズクにゃ。悪ふざけがすぎるにゃ。


「ワシはノックス、ヌシと話したいのじゃ」

「俺は猫にゃ。ミミズクの友だちはいにゃいのか」

「おらんのお」

「⋯⋯で、何にゃ?」

「話が早くて助かるわい」


 キョロキョロと周囲を気にするクロウ。人に聞かれては困る話とかやめてほしいにゃ。


「なあノックス。おヌシ、この国を統治する気はないか?」


 ⋯⋯。


「ドラ王はダメじゃ。自由な風土は嫌いではないが、最近は治安が悪すぎる。ワシャ、ヌシが王になるなら全力でを貸すが、どうじゃ?」


 ⋯⋯。


「どうじゃ?」

「くだらんにゃ」


 ⋯⋯。


「そんなこと言わずにやら──」

「──にゃいにゃ」


 ⋯⋯。


「王になった暁には──」

「──やらにゃいったらやらにゃいにゃ!」

「暁には⋯⋯ワシが『王の羽』になってやろう」


 猛禽族特有の鋭い視線が刺さる。本気、と言うことにゃろう。


「クロウ、お前⋯⋯」

「どうじゃ? 魅力的な提案じゃろう?」

「ば、バカ野郎、この世界の均衡が崩れちまうにゃ」

「んなもん。この世界に夜は七つも要らんじゃろう?」

「興味ねぇにゃ。俺には今の静かな暮らしがあってるにゃ」

「相変わらず欲がないのう」


 クロウが月を見た。今日の月は少し靄がかかった朧月にゃ。あまり良い月とはいえにゃいにゃ。


「ふん、まあいいじゃろう」

「話が済んだらあっちゆけにゃ」

「風が吹く」

「何の話にゃ?」

「ちかいうちに風が吹く。七つの夜をまたぐおおきな風じゃ。おヌシはその風に巻き込まれるじゃろう」

「不吉なこと言うにゃにゃ!」

「なにも不吉な風とは言っとらん」

「あっ、おい!」


 クロウは羽を広げて、トン、屋根を強く蹴った。一瞬で上空たかく舞いあがる。


「風は必ず吹く、わすれるな!」

「おい、クロウ?」

 

 クロウはひとつはばたくと、月の影に溶けた。


 にゃんだよ風って!






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