037 主催者との邂逅 ③(完)


 そうして老人は、デスゲームについて語り始める。


「だからこそ、君の成長には大いに期待している。しかし途中で果てるようならば、それはそれで構わない。君の死は、このデスゲームのかてへと変わるのだ。当然糧は、優秀であれば優秀なほど良くなっていく」


 人類存続をうたいながらも、デスゲームは明らかに異能者を消費していく。


 しかしそれは糧に変わるという部分が深く関係していることで、そのデメリットを帳消しにしているようだった。


「……それはつまり、優秀な異能者が途中で死んでも、別に構わないということなのか?」


 もはや僕は、老人への敬語をやめていた。そういう相手ではないと、心のどこかで理解したからかもしれない。


「そうとも。確かに第一フェーズで死亡するには惜しいが、それも織り込み済みだ。特に君のいた第四エリアでは、毒島消治ぶすじましょうじという男の脱落は残念でならない。彼の【消毒の炎】は、等級Aの異能だった。

 加えて彼は本来異能者として、多くのクリーチャーをほふってきた英雄でもある。それがまさか、等級Fの血啜ちすすむしごときにやられてしまうとは……」


 毒島消治ぶすじましょうじとは、おそらく僕が最初に遭遇したパンク系の人物であり、手の平から炎を出してきた人のことだろう。


 僕の異能は確か、等級Bだったはず。であればそれを超える等級Aということは、本当に優秀な異能なのだと思われる。


 もしもあのとき毒島が異能を使い熟していたら、僕は今ごろ生きてはいなかっただろう。


「また指山氏が死亡したことも、残念でならない。あの人はこのデスゲームを作る上で、重要な役割を果たしていたのだ。百歳を超えても【物体強化】によって、そこらの若者以上に元気だったのだがね」

「なっ!?」


 その内容に、僕は驚きを隠せない。


 未来の指山さんが、まさかこのデスゲームの関係者だったとは思わなかった。


「だがそれも我々は、承知の上だ。過去の自分が死亡したとしても、別に構わないのだよ。重要なのは、人類の勝利なのだ。

 そして過去を改変する以上、本来の歴史に辿り着くことは、もはや不可能。何よりもこのデスゲームを実現できたことすら、奇跡なのだよ。

 私は神などは全く信じないが、このときばかりは思わず感謝してしまったくらいだ」

「……」


 過去の自分たちですら、このデスゲームの糧というわけか。けど今の言葉でデスゲームを作った者たちも、それを覚悟の上で参加していることを知ることができた。


 老人が名前を明かさないのも、それが関係しているのかもしれない。


 僕がそう考えている間にも、老人は言葉を続ける。


「そしてデスゲームがこうして実行された以上、我々の役目は、もうほとんどないのだよ。フェーズごとに解禁された情報などを、こうして話すことくらいだ。

 また同時に我々の過ごした世界は、おそらく既に存在自体が無かったことになっているだろう。故にここにいる私は、デスゲームが実現したからこそ存在できている、一つの矛盾に過ぎないのだ」


 どうやら既に過去改変は始まっており、またそれが始まった時点で、本来の歴史は消えたみたいだった。


 自分の生きてきた歴史が消えるというのは、僕には全く想像のつかないことだ。けど歴史を無かったことにしてでも、人類の種としての生存を願ったのだろう。


 その覚悟だけは、僕にも強く伝わってきた。


 また異能者たちの力を限界以上に引き出したり、デスゲームの発動に様々な条件や、代償があったとも言っていたはずである。


 だとすればいったいどれだけの異能者が、これに関わっており、そして代償を支払ったのだろうか。


 きっと僕には想像がつかないほどの、過酷なものだったに違いない。


 そうして老人は次に、第一フェーズが終わったことで解禁された情報というのを、淡々と口にし始めた。


「では時間も無いので、そろそろこのデスゲームについての説明をしよう。まずこのデスゲームのクリア方法は簡単だ。全てのフェーズを乗り越えればいい。そこに人数制限は存在していない。そしてスマートウォッチだが――」


 老人によるデスゲームについての説明は長く、結果としてまとめると、以下の通りとなった。


 ____________________


 ・クリア方法は全てのフェーズを乗り越えること。人数制限は無し。現状の最終フェーズ数はまだ情報非公開。


 ・スマートウォッチはデスゲームでの必須アイテム。フェーズを越えるごとにアップデートがされる。仮に紛失した場合、フェーズ終了時に取り残されてしまう。またデスゲーム終了時に紛失したままだと、デスゲームと共に参加者は消滅する。


 ・スマートウォッチは持ち主が死亡した時点で、その頑丈さも失われる。


 ・他者のスマートウォッチをフェーズ移動時に所持していると、エンへと自動的に変換される。変換されるエンの量は、クリアしたフェーズの内容などによって、その数値が変化する。


 ・エンは他にも他者からの移動、あるいはデスゲームからの報酬で増やすことが可能。またそれ以外にも方法があるらしいけど、情報非公開。


 ・フェーズ内容は不明。デスゲームがその都度自動生成する。クリア方法や出現クリーチャーの種類も同様。ただ救済措置として、自動販売機などが配置される。他にもあるらしいが、情報非公開。


 ・各フェーズの外へ行くことは不可能。一見行けそうでも、見えない壁がある。破壊も同様にまず不可能。


 ・デスゲーム参加者は、日本の範囲内にいる異能適性のある者のみ。外国は含まれていない。また参加者は一定の人数を越えるごとに、基本的に別のエリアに分けられる。ちなみに僕のいたのは第四エリア。またエリア数や詳しい人数については、情報非公開。


 ・他者を殺したことによる罰則は無いけど、同時に殺人による報酬も無い。ある意味その人のスマートウォッチが報酬。ただし場合によっては、殺人に対する状況が変化する場合がある。


 ・ボスクリーチャー的な存在は、フェーズごとに必ず一体以上は存在している。倒すことで報酬が得られ、MVPには特別報酬がある。報酬内容は、次のフェーズへと移動した時に支払われる。


 ・病気や怪我は次のフェーズへと移動したときに、自動的に完治する。ただしデスゲーム以前のものには適用されない。また一部例外などがある。僕の【吸収融合】による結果も、それに含まれて完治することはない。


 ・フェーズがクリアされると、生存者全員が移動する。猶予時間は六時間。その間参加者は、互いに敵対行動による攻撃などが不可能になる。


 ・次のフェーズへと移動する際に、参加者が触れている物で所有物と判定された物については、共に移動する。そうでない物は、取り残されてしまう。加えて大きさなどにも制限があり、拠点などは不可。


 ・お互いに仲間と認識しており、また半径二メートル以内にいれば、フェーズ移動時に同じ場所に移動する。また間に人を挟むことで、その距離は実質伸ばすことが可能。

 加えて仲間でなくとも触れていれば、移動に巻き込むことが可能。ただし移動に巻き込む方法については、例外もあるらしい。詳しいことは情報非公開。


 ・フェーズクリアのMVPは、こうしてこの場所に呼ばれる。他の者は簡易的な情報がフェーズ移動時に、直接インストールされるらしい。またフェーズクリアのMVPには報酬があり、報酬は次のフェーズへと移動した時に支払われる。


 ・デスゲームはクリアする以外に、脱出する方法は存在していない。誰かがクリアした時点で、生存者は全員解放される。


 ____________________



 とりあえずデスゲームについては、現状以上のことを知ることができた。他は基本的に、情報非公開のようである。


 フェーズを越えるごとに、話せる内容も増えるらしい。なので気になることを訊いても、教えてくれないことが多かった。


 また僕の異能について話せたのは、個人的なことに含まれていたからのようだ。


 ちなみに未来のことについては、開示できる情報の一つだったらしい。なので未来についての話は、元々する予定だったとのこと。


 正直説明が多くて一度に覚えきれそうにないと思ったけど、意外とすんなり頭に入ってきた。


 どうやら僕の記憶領域に、情報が直接インストールされているらしい。ちょっと怖いけど、そうでなければ聞いた内容をまとめることはできなかっただろう。


 これについては便利なものだと、そう割り切ることにした。


 そうしてデスゲームの説明を終えた老人は、続けてこのようなことを口にする。


「時間も残り少ない。君は今のうちに、吸収した血啜ちすす大鋏蟲おおはさみむしの融合結果について、強く意識してみるといいだろう。

 今ならば、まだ間に合う。ここでどうにかしなければ、君は巨大な化け物になってしまう可能性が非常に高い」

「なっ!?」


 老人の言葉に、僕は慌てる。流石に巨大な化け物になってしまうのは、ゴメンだった。


 でも意識するとしても、いったいどうやればいいんだ?


 ボスクリーチャーである血啜ちすす大鋏蟲おおはさみむしは、虫のクリーチャーである血啜ちすすむしと酷似している。


 だとすれば、右腕をアップデートするような感じではどうだろうか?


 アゴは今のクワガタのようなタイプも便利なので、先ほど聞いた通り切り替えられるようにイメージしてみた。ゲームで武器を切り替える感じだ。


 他には右手の平の舌も、先端が鋭い注射針のようにして、本数も増やしていく。質感も引き継いで、鉄っぽい感じにした。


 またギザギザの鋭いサメのような歯は、指先の爪として、こちらも切り替えられるようにイメージしてみる。


 更に右腕の大部分がピンク色のイモムシみたいなので、手と同様に黒い硬質な鎧のようにできないか試してみた。


 こちらはクリーチャーの元の姿から離れているからか、少々難しい。だけど血啜ちすす大鋏蟲おおはさみむしの足も大きく、そこを流用した感じにしたら、すんなりとイメージができた。


 また最後にアゴを、普段腕の中に収納されるイメージにしてみる。これは擬態クリーチャーである擬態粘体ぎたいねんたいで既に可能にしていたので、特に問題なかった。


 そうして、イメージが無事に固まる。


 あれ、なんだか普通にできてしまった。もしかしたらこれも、異能の能力の一つだったのかもしれない。あまりにも一連のイメージが、スムーズだった。


 それと今回は例外で、本来は既に手遅れだったのだろう。この特殊な空間だからこそ、割り込ませることができたのだと思われる。


 そう考えると、ゾッとしてしまう。本当に、今回は運が良かった。


「この場所でのできごとは、デスゲーム内だと刹那せつなの時間に過ぎない。故に本来この場を去ってから六時間の猶予を享受できるのだが、君の場合は意識を失っている。次に目が覚めるときは、第二フェーズへと移動した後になるだろう」

「……なるほど」


 どうやらこの場所はある意味、時間が止まった空間に近いのかもしれない。また本来僕は【吸収融合】によって、変わらずに意識を失ったままのようだ。


 だとすれば触れていないリュックサックなどは、残念ながら失われてしまうだろう。


 また一応、他の参加者から攻撃を受けないのは救いだ。そういうルールがあって助かった。


 それと新種のクリーチャーが現れなければ、そちらについてもたぶん大丈夫だろう。


 しかし絶対に大丈夫とも言えないので、今後はそうした部分については、より一層気をつけることにした。


 そして色々あったけど、この老人には世話になったのも事実だ。かなり狂っているけど、根は悪人ではないような気がする。


 するとそう思っていると、何だか体がうっすらと輝き始めた。おそらく、時間が来たのだろう。


「色々と教えてくれて助かった。このまま死にたくはないから、どうにかしてデスゲームをクリアしてみるよ。まあ人類を救うとかは、まだ考えられないけど」


 僕は素直に、そう口にする。


「うむ。現状はまだそれでいい。それと最後に忠告しておこう、君が敵対していた天橋小凪あまはしこなぎの異能【天使の卵】は、等級Sだ。

 完全成長型であり、君とは違ってデメリットが一切ない。将来性が非常に高い異能だ。我々の世界では、途中で失われてしまった人物でもある。できればこのデスゲームをクリアして欲しい人材だが、まあ気をつけたまえ」

「――えっ!?」


 唐突に驚きの内容を口にした老人だけど、そこから更に看過できない内容を口にした。


「しかし、因果なものだ。天橋小凪あまはしこなぎは君にとって、いやキメラフォックスである裏梨希望うらなしのぞむにとっては、最愛・・の人物だったのだが……」

「はぁっ!? そ、それってどういう――」 

 

 老人のその言葉の意味を知ろうとしたものの、僕の意識は皮肉にも、その前に途絶えるのであった。


 ◆


 それから僕は第二フェーズで目覚め、そこで新たな仲間と出会う。


 まさか第二フェーズが、強制的なチーム戦だとは思わなかった。


 当初は異能を隠していたけど、ふとしたことでバレてしまう。


 しかし新たな仲間は僕を信じ、ついてきてくれた。


 そして天橋たちとも再び出会い、一度は争いへと発展してしまう。


 けれどもそこに第三勢力が現れ、場は混沌としていった。


 また皮肉なことに、そこで天橋たちと共闘することになってしまう。


 そうして敵を打ち破り、僕たちは第二フェーズをクリアした。


 僕も新たな力を得て、ますます人間離れしていく。けど、この力があったからこそ、乗り越えられたのも事実である。


 そしてそれ以降も、苦難の連続に見舞われた。いくつもの出会いと別れを繰り返し、とうとう僕たちは、このデスゲームから脱出することができたのだ。


 けれどもデスゲームを抜け出してからが、本番である。


 等級Sのクリーチャーたちを倒し、人類を救わなければいけないからだ。


 きっとそれは、僕たちならできる。あの過酷なデスゲームを乗り越えて、力を得た今の僕たちなら。


「行こう!」


 そして僕たちは、外の世界へと一歩踏み出した。僕たちの本当の戦いは、これからである。


______________________


 以上で、第一章終了です。ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


 そして残念ながら、今作はここで『打ち切りエンド』となります。


 力が及ばず、投稿した全てのサイトで結果を残せませんでした。


 しかし今作はかなり挑戦的な内容だったので、妥当な結果かもしれません。


 この経験を次に繋げて、これからも精進していきます。


 また次話では、第一章の設定などをこのあと投稿しますので、気になる方はご覧ください。


 それと第二章執筆を前提にした感じになっていますが、細かいところはスルーして頂けると助かります。


 またよろしければ、ブックマークや☆☆☆をいただけると幸いです。執筆の励みになります。


『キメラフォックス ~デスゲームでクリーチャーに異能【吸収融合】を使い、人外となっていく狐顔~』通称『キメラフ』を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


 それでは、次回作にご期待ください。


 <m(__)m>


 乃神レンガ

 

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