031 タイマン
「あたいの異能【番長】は、指定した対象と一対一のタイマンを可能とする。そしてお前が負けたとき、お前はあたいの舎弟になるんだ。もしあたいが負けたら、これまで集めた舎弟が解散することになる」
するといきなり、金城が異能について喋り始めた。そのことに戸惑っていると、金城は続けて説明を続ける。
「安心しな。このタイマン発動時は、周囲からの妨害を無効化する。一対一の真剣勝負だ。どちらかが倒れるか負けを認めるまで、タイマンは終わらないぜ!」
くっ。理由は不明だけど、嘘じゃない気がする。これまでの異能は単純なものが多かったのに、何でいきなり複雑になったのだろうか。
周りを見れば、
これは不味い。逃げるにしても、速攻で相手を倒すしかない。
「くっ、悪く思うなよ!」
僕はそう言いながら、拳を振るう。けどその拳は、簡単に金城の左手で受け止められてしまった。
更にカウンターのように、腹に蹴りが飛んでくる。それを回避しきれず、まともに受けてしまった。
「ぐえっ」
思わず僕は、そんな声を
それは擬態クリーチャーを【吸収融合】したことにより、打撃に対して強くなったからかもしれない。
「力が無いと思ったか? 身体強化も嘘じゃないぜ。元から身体強化されているが、舎弟が増えれば増えるほど、それが強化されていくみたいだ。実際に舎弟が増えたことで、それを実感しているぜ!」
「くそっ、そういうことか……」
つまり指山さんと軽井沢さんは、僕が戻って来るまでの間に、このタイマンを仕掛けられて負けたのだろう。
舎弟というのがどういう状況なのか深くはわからないけど、たぶん命令して行動を縛ることができるのかもしれない。
もしかして指山さんが叫べたのは、【物体強化】を駆使することで、ギリギリ抗えた感じだろうか。
結果として指山さんの言葉で相手は動いたけど、向こうは事前に僕の異能を探ろうとしていた。
当然指山さんと軽井沢さんに僕の異能について聞いていただろうし、もっと詳しいことを知ろうとしたのだろう。
それを前提にした場合、情報を抜かれる前に指山さんが逃げろと言ったのも、あながち間違いとも言い切れない。
また的確なタイミングで喋れるほどの余裕は、指山さんにはなかったのだろう。
どちらにしても、心まで支配されている訳ではなさそうだ。それだけが、唯一の救いだった。
すると金城は、加えてこんなことを口にする。
「それとあたいがここまで説明してやっているのには、理由がある。あたいの異能【番長】は能力の説明をすればするほど、強化されるんだよ!
「何が正々堂々だ。やってることのどこに、それがあるんだよ!」
馬鹿みたいにこれまで説明をしていたのは、異能を強化するためだったらしい。
「ふんっ、正々堂々は、このタイマンに限った話に決まっているだろ!」
そう言う金城に、少なからずの
僕は軽く息を吐くと、あることを決断する。
あの天橋という少女が合流したら、それこそ終わりだ。周囲から干渉されないと言っても、それはあくまでもタイマンのときだけ。
つまり僕が勝った瞬間、残り二名から攻撃を受けるかもしれない。
確か天橋は、光の矢を放つことができたはずだ。あの発射速度を考えれば、タイマンが終わると同時に放ってくるだろう。
それともう一人の科賀は、火を吹けると言っていた。けどそれも、たぶん事実ではないだろう。
おそらく誤魔化せるように、火を吹くようなこと自体はできるのかもしれない。でもそれ以上のことができると、そう考えた方がいいだろう。
だからこの時点で、クリーチャーの力を擬態で隠し通すことはもうできない。そんな余裕もないだろう。
まずは速攻で金城と科賀を倒し、解放された二人と協力して、天橋を討つ。あの光の矢は一度放てば、すぐには次を放てなかったはずだ。
その一度目を、僕が受ける。核さえ破壊されなければ、元通りだ。その隙に、天橋を倒すしかない。
もはや、悩んでいる余裕はなかった。
そうして僕は、早速動き出す。先ほどのように、金城へと迫った。今度は左拳で、殴りかかる。
「何だよ! つまんねえなぁ!」
金城は呆れたようにそう口にするが、即座にその表情が一変することになった。
受け止められた左拳が灰色のスライムになり、金城の右手を飲み込んだのである。そして同時に、消化するように溶かし始めた。
「――ッギャアアア!?」
僅かに皮膚を焼いた程度だけど、その痛みに金城も叫び声を上げる。だけど僕の攻撃は、これで終わりではない。その隙は、致命的だ。
「喰らえ!」
同時に右腕の擬態を解くと、先端のクワガタのような二本のアゴで、金城の頭部を横なぎで殴打する。部分的に解くよりも、こうして全体を解いた方が圧倒的に早い。
「グフぇッ!?」
身体強化がされているらしいけど、流石に頭部では受け止めきれなかったみたいである。
距離的に突き刺すことはできなかったけど、かなりのダメージを与えることができた。
加えて左手は未だにスライムで取り込んでいるので、逃げることはできないだろう。
故に僕は、金城が負けを認めるまで、殴るのをやめない。
金城も右手で抵抗して僕を殴るけど、僕に物理攻撃はあまり効果が無かった。
正直女性を一方的に殴るのは、心が痛む。そう思ったのだけど、殴られている金城が何故か楽しそうだった。
「たまんねえなぁ! もっとだ、もっと気やがれ!」
「くっ!」
僕が優勢なはずなのに、なぜか気持ちで押されている気がしてしまう。けど急いで金城を倒す必要がある以上、手は抜けない。
そうして金城はかなりのタフさを見せたものの、とうとう気を失う。
するとその瞬間金城が負けたと認識されたのか、タイマンが終わる。だけどこれで、安心することはない。
僕は金城の右手からスライムを解いて、金城を地面に寝かせる。
おそらく生きているだろうけど、すぐに目覚めることはない気がするので放置する。
それに止めを刺す余裕は無いし、無抵抗の女性を殺すのには、かなりの覚悟が必要だった。
なので現状気を失った金城については、放置するのが最善だったのである。
何より速攻で倒す必要がある人物は、もう一人いた。故に僕は、次に科賀へと狙いを定める。
「ひっ!? こ、降参。降参します!」
科賀は何かしようとしていたみたいだけど、あまりの出来事に恐怖していた。両手を祈るように組んで、降参と口にしている。
嘘とは思えない表情だけど、果たしてどうするべきか。
するとそう思った直後だった。科賀の組んでいた両手がまるで
「
「!?」
そしてそう言った直後、科賀の口から火が吹き出した。
突然の出来事に、僕は驚いてしまう。けど
それは以前擬態クリーチャーが行っていたものであり、薄く壁のようになってその火を受け止める。
すると左手が焼けるような感覚はあったものの、痛みはほとんどない。またスライムの左手を焼きつくすほどの威力ではなかったみたいだ。
「そんなっ!?」
あまりの出来事に、科賀も
けど同時にそれが、大きな隙へと繋がった。
僕は左手のスライムを解除すると、そのまま一気に科賀との距離を詰める。
当然科賀は再び忍者のように印を結ぼうとするけど、その前に僕は行動に出た。
「無駄だ!」
そう言って右腕を科賀に向けると、手の平の中央にある口から、長い舌が飛びだしていく。それはあっという間に科賀まで届き、印を結ぼうとしている両手に巻きついて絞める。
「ひぇ!?」
科賀はとっさに引きはがそうと
またそれにより上手く印を結べなかったのか、先ほどのように火を吹いてくることも無かった。
今がチャンスだ。
当然僕はその隙を見逃さず、そのまま右手を勢いよく引き寄せる。
「ひぃ!?」
するとそれによって科賀の体が、勢いよくこちらに飛んできた。元々僕も近くまで迫っていたこともあり、その飛距離自体はそこまでではない。
けどちょうどいい位置に飛んで来たので、僕はそのまま
「悪いな」
「ぐぇ!?」
女性の腹部を蹴るのには強い抵抗感があったけど、戦いである以上仕方がない。こういう時は、男女平等だ。
僕は自分にそう言い聞かせて、心を落ち着かせる。
その結果として科賀の意識が飛んだのか、途端に沈黙をした。受け止めた体は、だらりとしている。
よし、一応は、無事に倒せたみたいだ。罪悪感が半端ないけど、今は気にしないことにしよう。
僕はそれを確認してから巻きついていた舌を回収して、手の平の口に収納していく。それはまるで、掃除機のコンセントのように見えた。
そうして科賀も、金城のように地面に寝かせておく。しばらく目が覚めることは、おそらくないだろう。
さて、ここまでは予想以上に上手くいったけど、問題はここからだ。
金城を倒したことで、既にその支配は解けているはずだ。
そう思い、僕はその場で声を張り上げる。
「二人は倒しました! もう自由です! あとはそこの天橋を倒すだけです! さあ、行きますよ、指山さん、軽井沢さん!」
「っ! おおっ、わかった!」
「お、俺も続くッス!」
少々後半がどこかの悪の帝王みたいな台詞になってしまったけど、自由になった指山さんと軽井沢さんは僕に従って、即座に動き始めるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます