022 髪の毛と驚きの情報
よし、こんな感じで問題ないだろう。
僕は自動販売機のある場所に戻ってくると、その周辺にいくつかガムテープで包んだ髪の毛を隠しておいた。
石や大きなごみの残骸を重しにしているので、たぶん動くことはない。また仮に一つ見つかって破棄されても、無数に設置したので大丈夫だろう。
想像以上に、擬態クリーチャーの能力が便利だった。ある意味これは、異能が増えたようなものである。
それに今後【吸収融合】をしても、擬態クリーチャーの能力である程度は姿を隠せるはずだ。
なので見た目が悲しきクリーチャーになる可能性は、おそらく低いかもしれない。そう信じることにした。
そうして自動販売機の場所が分かるようになったので、僕はこの機会に遠出することを決める。
ちなみにこの自動販売機のある場所は巨大な吹き抜けの広間になっており、無数の通路と繋がっている。そのうちの行ったことのない通路を選び、僕は進んでいく。
次はどうにか友好的な人と会いたいところだけど、どうだろうか? そうした人が死んでいないことを、まずは祈るしかない。
僕はそう思いながら、しばらく通路を歩いて行った。相変わらず似たような廃墟が続き、入り組んでいる。
こうしてずっと歩いているけど、この廃墟はやっぱり普通じゃないよな。明らかに、広すぎる。
だとするとこの廃墟は、やはりゲームとかに出てくるダンジョン的なものなのかもしれない。
なら脱出するなら、ゲームみたいにボスクリーチャーを倒す必要があるのだろうか? あの擬態クリーチャーは、ボスはボスでも中ボスだったのかもしれない。
異能やクリーチャー、謎のスマートウォッチがある以上、その予想は正しい可能性がある。
それに今更だけど、誰がこんな状況にさせたのだろうか? デスゲームっぽい感じがするけど、ここまでのことを人間が
特に異能なんて、明らかに普通ではない。こういう場合は漫画だと、神とか宇宙人とかが関係していると、相場が決まっている。
あとは狂った未来の科学者や、超古代文明とかだろうか? それとも、異世界からの侵略?
何となく、そのいずれかだと思われる。
まあ誰がしたかよりも、これをした結果、何が起きるかが問題だ。単なる暇つぶしなのか、それとも何かの実験や儀式なのか……。
どちらにしても、
そんな謎の存在から力を与えられた以上、その力で謎の存在を倒せるなどとは、到底思えない。普通に返り討ちに遭うと思う。
物語の主人公なら最後は戦うのだろうけど、僕には正直無理だった。そんな無謀なことは、できそうにはない。
とにかく現状は生き残って、どうにかして脱出することを目指すしかないだろう。
謎の存在やその目的などを考えても、今できることはたぶん無いのだから。
そうしてこのデスゲームについて思考を巡らせていると、僕はある部屋の前にやってくる。
ん? 緑色……ということは、誰かいるのか?
そのドアのパネルは緑色に光っており、『20』と表示されていた。これは、あの二人の時と同じ状況である。
よし、今度は失敗しない。慎重に対応しつつ、もしこちらを殺そうとしてきたら、全力で戦うか逃げよう。
これまで危険人物との遭遇が多かったけど、やはり単独の方がリスクが高い。安全を確保するには、味方がいた方がいいだろう。
何でも一人で熟せるほど、僕は強くはないし、器用ではない。
なので僕は様々なリスクを理解しつつも、味方を得た時のメリットのために、早速行動へと移す。
「すみません! パネルの色で中に誰かいると思うのですが、お話しよろしいでしょうか? こちらに敵意はありません! ドア越しの会話で構わないので、お返事いただけないでしょうか!」
僕は中にいる人に聞こえるように、なるべく声を張り上げる。すると少しして、中から声が返ってきた。
「……そうか。可能なら中に入って来てくれ。こちらも敵意は無い」
意外とドアの近くにいるのか、そんな男性の落ち着いた声が聞こえてきたのである。
小さな声だったけど、僕の聴覚は擬態クリーチャーを吸収したことで、核を通じて強化されているのか、問題なく聞き取ることができた。
以前の僕なら、たぶん聞こえなかったかもしれない。このドアはそれなりに、防音性があるような気がする。
実際あの二人のときは、そのせいで人がいるとは気付かなかった。
「分かりました。今から開けますね」
「ああ、わかった」
また一応待ち伏せという可能性もあるので、十分に注意しよう。こちらは核さえ守り切れば、隙をついて反撃することもできる。
あと今回ドアを開けるエンは、必要経費として考えることにした。
そう思いながら僕は20エン支払い、ドアを開ける。ちなみにドアは外開きなので、ドアの後ろに相手が隠れるということはない。
そうしてドアを開けると、僕はゆっくりと警戒しながら部屋の中へと入った。するとドアのすぐ近くの壁に、初老の男性が寄りかかりながら座り込んでいる。
見れば、膝から下の左足が無かった。灰色のズボンには血が滲み、出血を抑えるためか布が巻かれている。紺色のポロシャツを着ているので、おそらくそれはインナーの白いシャツだろう。
「悪いな。見ての通りだ。化け物にやられて、このざまだ」
初老の男性は白髪交じりの角刈りで、五十代ほどの年齢。どこかその容姿から、職人気質という雰囲気がした。
しかしおそらく虫のクリーチャーによってなのか、左足を失うことになってしまったようである。
「……それは、何と言うべきか……」
「同情する必要はない。命があっただけでも、もうけもんよ」
「そうですか」
意外と初老の男性は、悲観的ではないようである。その点は、安心した。精神的にまいっていた場合、対応方法に困ったことだろう。
「おう。まさかでかいイモムシと、巨大なハサミを足したような化け物がいるとは、思わなかった。逃げられたのは運が良かったのと、俺が足を切られた隙に逃げたやつを、その化け物が追いかけていったからだろう」
その言葉に、一瞬僕は疑問を抱く。でかいイモムシと巨大な
なにより虫のクリーチャーのアゴに、足を綺麗に切断する力は無い。あれは外れないように固定して、血を
また一応獲物の解体をすることも可能だけど、切断というよりかは、潰した結果千切れるという感じに近い。
そして虫のクリーチャーたちが解体するのは、死亡した獲物に対してである。
僕はそんな風に思ったので、その点について
「その化け物、クリーチャーって、クワガタのようなアゴを持ち、大きさは2リットルのペットボトルを少し大きくした程度でしたか?」
「いや、クワガタという感じじゃない。あれは鉄のハサミだ。それにサイズもずっと大きかった。少なくとも、カバくらいはあったはずだ。それより、小型のやつもいるのか? 俺が遭遇しなかったのは、それもまた運が良かったんだろうな」
え? 鉄のハサミを持っていて、更にそいつはカバくらいのサイズなのか? そんなの、全く知らないのだが……。
どうやら僕の知っている虫のクリーチャーとは、全くの別物のようだ。もしかしたら、そいつこそ本当のボスクリーチャーなのかもしれない。
少なくとも擬態クリーチャーよりも、強くて凶悪そうな感じがする。もし遭遇しても、正面から戦うのは難しいかもしれない。
まさかこんなところでそんな情報を得られるとは、僕は全くもって考えてもいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます