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「ここじゃないんですか」
新人は慌ててクラッシュに囁く。
「しっ。どこから入ろうか考えるから建物の周りを一周周るんだ」
「そうなんですか」
隣接する家を含めて一ブロック分を一周し、レンガ作りの建物の前に戻った。
「一周全部柵があって裏からは無理だな。レディ、ターゲットは表から入ったのか?」
〈ええ。ガラス窓に番地の書かれたドアを開けて入っていたわ〉
「これか。全く、天下のジョンソン会長は何だってこんなところに。……レディ、何階にいると思う」
一階はかつて何かの商店だったのだろう。今はショーウィンドウ全てにブラインドが下ろされ、看板はなく明かりも点いていない。
外から窓を数える限りは七階建てだが、いずれの窓にも表示はなく、中がどのようになっているのか分からなかった。
〈ごめんなさい。さっきから調べているのだけど、空きテナントだということ以外に情報が出てこないの。分からないわ〉
「いいさ。七階から順番に降りて探してみよう」
クラッシュは明るく言う。黒手袋が錆びたスチール製のドアノブを握った。
「ああ、そうそう」
「何ですか!」
緊張していた新人はクラッシュの言葉に飛び上がって驚いてしまう。
しー、とクラッシュは人差し指を唇に当てて苦笑いした。
「中に入ったら静かにしてろ。喋るなよ」
それを言おうと思ったんだ、驚かせて悪かった、と言いながらクラッシュはくっくと肩を震わせて笑っている。地面から足が離れるほど驚いた新人がおかしかったらしい。
新人は黙っていたが、彼に腹を立てたおかげで緊張は解れていた。
クラッシュがドアノブを引く。鍵が開いている。顔を見合わせ、二人は忍び足で入った。ブラインドのせいで外よりも薄暗い。一歩踏み出す度に埃が舞う。
商店だったおかげで一階は壁で区切られておらずワンフロア全てが見渡せるが、誰もいないようだった。
クラッシュがちょんちょん、と人差し指で廊下の先を指した。エレベーターだ。一の数字がボタンの上の画面に表示されている。稼働しているということだ。
二人はエレベーターに乗り込んだ。クラッシュが七のボタンを押し、ドアが閉まるボタンを押す。ドアが閉まりきる寸前、もう一度開いた。男が一人乗り込んでくる。
「やあどうも」
クラッシュは愛想良く言って、再び閉めるボタンを押した。だが閉まりきる前にまた一人男が乗ってくる。更に立て続けにもう一人。
「こんにちは。ぎりぎり間に合いましたね。ラッキーだ」
クラッシュが声を掛けるが、誰も返さない。ドアは閉まり、エレベーターの中はしんと静まりかえった。
古いエレベーターは狭く、男が追加で三人も乗り込んできたので、新人は壁に張られた綺麗とは言えないフェルトに貼り付くようにして縮こまる羽目になる。最初はドアの横のボタンの前に立っていたクラッシュも、奥へと追いやられていた。
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