第2話 新しい職場へようこそ(命の保証はありません)
2-1
チュンチュン、チュンチュン。
鳥の鳴き声で目を覚ます。
「ん……」
カーテンの隙間から漏れる朝日が眩しくて、女は布団を頭の上まで引っ張り上げた。
コンコンコン!
ノックの音がする。
「うー……」
まだ寝ていたい。無視していれば、ノックは止むことなく続いた。
コンコンコン! コンコココンコ、コンコココンコ、コンコンコン! コンコココンコ、……
それはすぐに打楽器のように陽気なリズムを刻みはじめ、彼女はバサリ! と腹立たしげに布団を脱ぎ大股でドアへと向かった。
「はい!」
「おはよう!」
勢いよく開けると、ドアを両手でノックする間抜けな姿勢で拳を構えた男が笑っている。が、彼女を見た彼はややたじろいだ。
「君にはまず用心というものを教えないといけないな」
彼女を促し自分も部屋へ入ってくると、後ろ手でドアを閉めながら「バーン」と彼は指を銃の形にして彼女を撃つふりをした。
「だってノックがあんまりうるさいから!」
「君が無視するからだろう。とっくに起きてると思ったんだ」
自分が昨日のウェイトレスの格好で寝て起きたままで、髪には寝癖まで立っていることに気付いた新人が今更シーツを体に手繰り寄せながら抗議するが、クラッシュはどこ吹く風だ。彼女を差した人差し指を上下させながら言う。
「それと、シーツなんて持ってると余計に際どいからやめた方がいいぜ」
「はあ?!」
気の毒なシーツは彼女に投げられて部屋の隅でくしゃくしゃに丸まった。
時刻は九時。押しかけてきたクラッシュはというとジャケットの前とワイシャツのボタンは幾つか開いて緩い着こなしではあるものの、黒の上下のスーツをしっかりと着込んでサングラスを掛け、ハットまで被っている。彼女は返す言葉を失った。
「遅刻するとレディがうるさいんだ、九時半には出るから支度してくれ」
「三十分で?!」
もう嫌だ、スパイってみんなそんなに早くシャワー浴びられるの? などとぼやきながら彼女はガチャガチャと自分の必要な小物をかき集めてシャワー室へ向かおうとする。
「いってらっしゃーい」
彼はベッドに腰掛け陽気に手を振っていたが、彼女に噛みつかれた。
「何で居座る気なんですか、出ていってください!」
「はいはい」
クラッシュは大人しくポケットに手を突っ込んで部屋を出る。
九時半、廊下で待っていた彼に風が吹くくらい勢いよくドアが開いた。
「お待たせしました!」
彼女が元気よく言う。
「様になってるじゃないか」
黒のパンツスーツにサングラス。姿勢良く立つ姿は決まっていた。行こう、と彼が歩き出す。
「昨日も思ったが、君やればできるんだよな。レディが見込んだだけのことはある」
「き、昨日は本当に申し訳ございませんでした! 怪我は大丈夫ですか!」
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