1-5
「さて、そろそろ閉会の挨拶をするかな……」
ジョンソン会長が司会に声を掛ける。彼と談笑していた客たちがさざなみのように離れていく。
「じゃ、頼んだぜ」
ウェイトレスに囁いたクラッシュは彼女に微笑むと、馬鹿でかい声で叫びながら会長の元へ向かった。
「ジョンソン会長〜! 初めまして! ずっと錚々たる面々に囲まれてらっしゃったから遠慮してお声掛けできなかったんですが! 最後に僕もご挨拶させていただいてもいいですか! こんな素敵なパーティーにお招きいただき……」
エレガントな雰囲気にそぐわない大声に周囲は一斉に彼に注目する。しかし若そうな男が人懐っこく語るのを聞いて、その気持ちは分かる、と笑みをこぼす者はいても不愉快になる者はいなかった。会長もその一人だったらしい。
「ああ、もちろん構わないよ」
壇上へ向かおうとしていた足を止め振り返った。
「ありがとうございます……っとと、うわあああ!!」
その言葉に喜びながら、ばたばたと騒々しく会長の元へと駆けていたクラッシュが何かにつまずいて盛大に転ぶ。会長の足元へ勢いよくスライディングした彼を、傍に控えていたSP全員が途端に取り押さえようとした。
「痛たた……って、うわ、何ですかあなた達! そんなに集まらなくても一人で立てますよ?」
「黙れ。会長から離れろ!」
起き上がろうとするクラッシュを、SPは緊迫した面持ちで取り囲む。彼らはクラッシュが転んだふりをして会長を狙った刺客なのではないかと疑っていた。
「まあ待て。心配するな。ただ転んだだけだろう。お前たちが離れなさい」
会長はSPを下がらせる。立ち上がったクラッシュが照れくさそうにスーツを払って、握手を交わそうとしたときだった。
「うわああああああ!!!! もう知ったことかああああ!! この世界なんてどうにでもなってしまええ! みんな道連れだああああ」
ウェイトレスが半狂乱になって叫び、エプロンから拳銃を取り出す。
「会長危ない!」
クラッシュが会長を突き飛ばして床に押し倒すと同時に、ウェイトレスが発砲した。会場に轟音が響き、ネイビースーツの肩から血飛沫が上がる。
「ぐっ……」
クラッシュが呻いて左肩を押さえ俯き、中折れ帽子が大理石のフロアに落ちた。
「キャアアアアア!」
会場からつんざくような悲鳴が繰り返し上がる。
「あ……あ……」
撃ったウェイトレスは煙を上げる銃を持ったまま、真っ青になっていた。
〈逃げなさい、新人くん!〉
レディから通信が入る。我に返ったようにウェイトレスは天井や壁に向けて出鱈目に発砲した。
「来るな! 来るなあああ!」
出口へと後退りする彼女を避け、客たちは会場の奥へと逃げ惑う。全員が距離を取ったところで彼女は踵を返し、ホテルから飛び出していった。
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