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「了解。……全く、人遣いが荒いったらないぜ」

 男は老人と和やかに別れ、ぼやきながら周囲を見渡す。

 立食パーティーの会場の照明が落とされた。ざわめきが一瞬で静まり、簡易に設置された壇上にのみライトが灯る。司会の簡単な紹介を受けて、恰幅の良い紳士が悠々と登壇した。

「皆さま、お集まりいただきありがとうございます。まず初めに、ジョンソン・コーポレーション会長、アレクサンダー・ジョンソンからご挨拶を申し上げます」

「皆さんこんばんは。今日はお集まりいただきありがとう。ここへ来ていただいたのはいずれも各界の重要人物ばかり。皆さん無くしてアメリカの発展はあり得ません。今日はお互いに顔を合わせ、日頃の感謝を伝え合うとともに、今後のビジネスに繋げるためより一層親交を深めましょう。この後食事も出ますから、一流シェフの料理もぜひご堪能ください。ああ、血糖値だのコレステロールだのに気をつけるよう家族からきつく言われている人もいるかもしれませんね。そこは今日ご参加の医薬品製作会社の方が今後上手い薬を開発してくれることを期待して、今日は健康なんて忘れてリラックスして楽しんでください。良い夜にしましょう」

 スピーチは会場からの穏やかな笑いとともに終了し、再び音楽とざわめきが会場に満ちる。言葉通りに見事な料理の揃ったビュッフェも始まり、クラッシュと呼ばれていたネイビースーツの男も周囲と足並みを揃えて料理の皿と飲み物を手に取った。サングラスの奥の目だけは、スピーチを終えてあっという間に大勢の客に囲まれたジョンソンを追ったままで。

 揺り籠から墓場まで、ありとあらゆる商品を手掛ける大企業ジョンソン・コーポレーションの会長が、その裏で新兵器の密売にも手を出すことにしたらしいという情報が入ったのは今朝のことだ。天下の大企業が利益を求めて武器を手掛けるとなれば、間もなく新たな紛争・戦争が巻き起こるのは必至。それを未然に防ぐべく、取り引きを阻止するように指令が下った。だが、密売の証拠を確実に押さえて尻尾を掴まなければ、奴らは逃げ隠れて取り引きは続行されるだろう。厳重に保護された大企業の極秘事項を掴むには、まず情報が要る。

 クラッシュのポケットに突っ込まれた手の中には、盗聴器と超小型カメラが握られていた。今夜このパーティーがお開きになった後、ジョンソン会長が取り引き相手と密談するのは分かっている。ジョンソン会長に近付ける数少ない機会であるこの場で、彼に盗聴器とカメラを取り付けるのがクラッシュの今夜の任務だった。

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