謎かけは恋の始まり

凛子

第1話

 玩具メーカー「トイフル」に入社して五年。企画開発部で日々アイデアを練り、子どもたちの笑顔を想像しながら働いてきた藤井杏南は、春から営業部へ異動となった。

 成果を数字で示すこと。対人関係に強くなること。そして、信頼を勝ち取ること――

 開発と営業では、求められるスキルも、働き方もまるで違う。杏南は、未知の世界に足を踏み入れる前から、すっかり気後れしていた。


 異動初日、不安でいっぱいの杏南に、にこやかに手を差し伸べてくれたのは、営業部長の神崎賢人だった。


「わからないことや、困ったことがあったら、何でも聞いてくれ。営業は遊び心が肝心だ」


「はい。……え?」


「ってことで、今日の謎かけ——“異動とかけまして、初恋と解きます”

その心は――」


 杏南がぽかんとしていると、部長はにっこり笑って続けた。


「どちらも、“ドキドキ”が止まらないでしょう」


 思わず吹き出した杏南の緊張は、一瞬でどこかへ消えていった。


 以来、部長の謎かけは、杏南の日常に彩りを添えるスパイスとなった。商談前の車中、会議の合間、飲み会の席。どこででも繰り出される謎かけは、心を和ませ、笑いを生んだ。

 厳しい営業の現場で、部長の穏やかな笑顔とさりげない一言が、張り詰めた空気を解す。気付けば、周りと同じように、杏南も部長のファンのひとりとなっていた。


 ――この人に付いていきたい。


 やがて、杏南の中に営業としても成長したいという思いが芽生え、商談でも積極的に話すようになった。時には、部長を真似て謎かけにも挑戦し、周囲の笑いを誘った。

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